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『悪役公爵令息レオンハルト』  作者: 覇王が好き
第二章・王立学園編

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第74話 天才魔導師への罠――偽りの証拠と公爵令息の慧眼

第74話 天才魔導師への罠――偽りの証拠と公爵令息の慧眼


 王国暦八二一年、夏月三十一日。


 王立アストレア学園。


 交流舞踏会での事件から二日。


 学園には、まだ重苦しい空気が漂っていた。


 大講堂は封鎖され、授業の一部も変更されている。


 そんな中、俺は生徒会室へ向かっていた。


「……まったく」


 隣を歩くカイルが、ため息をつく。


「入学してから、事件ばっかりじゃねえか」


「否定できないな」


「俺、普通に剣術の授業を受けたかったんだけど」


「俺もだよ」


 俺たちは顔を見合わせ、苦笑した。


 その時。


「レオン!」


 廊下の向こうから、アリシアが駆け寄ってきた。


「どうした?」


「リゼットが……!」


 その表情は、いつになく険しかった。


「……何かあったのか?」


「生徒会室で、学園の監察官に事情を聞かれている!」


 ……監察官?


 俺は、思わず足を止めた。


「何でリゼットが?」


 アリシアは、悔しそうに唇を噛んだ。


「……魔道具の解析結果を、改ざんした疑いがあるらしい」


 ……は?


 俺は、静かに目を細めた。


     ◇


 生徒会室。


 扉を開けると、室内には数人の教官と監察官がいた。


 中央に立っているのは、リゼット・クローディア。


 彼女は腕を組み、明らかに不機嫌そうな顔をしていた。


「……だから、何度言えば分かるの?」


 リゼットの声が響く。


「私は、解析結果を改ざんしていないわ」


 監察官が、机の上の書類を指差した。


「しかし、提出された報告書と、保存されていた術式記録に差異がある」


「それは、誰かが後から触ったからでしょう?」


「……その証拠は?」


 リゼットは、眉をひそめた。


「……今、調べているところよ」


 その時。


「……失礼します」


 俺が声をかけると、全員の視線が集まった。


「……レオン!」


 リゼットの表情が、わずかに緩んだ。


「どうしてここに?」


「話を聞いた」


 俺は、監察官へ視線を向けた。


「……リゼットに、何か問題が?」


 監察官は、少し緊張した様子で答えた。


「……レオンハルト様。現在、術式記録の改ざん疑惑を調査しております」


「……なるほど」


 俺は、机の上の資料を見た。


 解析結果。


 魔道具の残骸。


 そして、保存された術式記録。


 確かに、一部の数値が異なっている。


 だが。


「……変だな」


 俺は、小さく呟いた。


「……何が?」


 リゼットが尋ねる。


「この術式記録、魔力の流れが不自然だ」


 監察官が眉をひそめた。


「……どういうことでしょう?」


「リゼットの魔力は、もっと安定している」


 俺は、保存された術式を指差した。


「この部分だけ、魔力の波長が違う」


 リゼットの瞳が、鋭くなった。


「……ちょっと待って」


 彼女は、すぐに記録を確認した。


 そして。


「……本当だ」


 その声が、少しだけ低くなる。


「この波長……私のものじゃない」


 監察官が、目を見開いた。


「……何ですと?」


 リゼットは、静かに笑った。


「……なるほどね」


 その瞳には、怒りが宿っていた。


「誰かが、私の解析結果を改ざんしたのよ」


     ◇


 調査は、すぐにやり直された。


 リゼットは、俺と共に魔道具の残骸を再解析した。


「……レオン」


「何だ?」


「少しだけ、魔力を貸して」


「分かった」


 俺は、指先に微量の魔力を集めた。


 リゼットが、複雑な術式を展開する。


 紫色の光が、魔道具の残骸を包み込んだ。


「……解析開始」


 魔力の流れが、空中に映し出される。


 そして。


 そこには、二つの異なる魔力痕跡が残されていた。


 一つは、リゼットのもの。


 もう一つは。


「……これは」


 リゼットが、目を細めた。


「……誰かが、私の記録に上書きしてる」


 俺は、静かに頷いた。


「……だろうな」


 その時。


「……レオンハルト君」


 背後から、声がした。


 振り向く。


 アルベルト・レイフォードだった。


「……アルベルト」


 彼は、爽やかな笑顔を浮かべた。


「リゼットさんの件、聞いたよ。大変だったね」


 ……また、こいつか。


 俺は、静かに彼を見つめた。


「……何か用か?」


「いや、心配していただけさ」


 アルベルトは、机の上の資料へ視線を向けた。


「でも、解析結果が違うなら、何か理由があるはずだよね」


「……そうだな」


「もしかしたら、誰かが意図的に改ざんしたのかもしれない」


 俺は、少しだけ笑った。


「……そう思う?」


「……え?」


「俺も、そう思うよ」


 アルベルトの笑顔が、わずかに固まった。


「……そうかい」


 俺は、彼を見つめたまま続けた。


「だから、誰が触ったのか、ちゃんと調べようと思う」


 沈黙。


 アルベルトは、すぐに笑顔を取り戻した。


「……もちろん。協力するよ」


 だが、その瞳の奥には、冷たい光が宿っていた。


     ◇


 午後。


 生徒会室には、フィオナが戻ってきていた。


「……状況は分かったわ」


 彼女は、報告書を読みながら頷いた。


「解析結果が改ざんされた可能性が高いのね」


「ええ」


 リゼットが答えた。


「しかも、私の魔力とは違う波長が残っている」


 フィオナは、ゆっくりと目を細めた。


「……なら、調査対象を広げる必要があるわね」


 その時。


「……会長」


 ノエル・クレインが、扉の前に立っていた。


「……何かしら?」


「少し、お伝えしたいことがあります」


 フィオナが頷く。


「どうぞ」


 ノエルは、机の上に一枚の紙を置いた。


「……昨夜、解析室の近くで、不審な人物を見たという証言があります」


 リゼットが眉をひそめた。


「……誰?」


 ノエルは、ゆっくりと答えた。


「……レオンハルト・ヴァルディス様です」


 室内が、静まり返った。


 ……は?


 俺は、思わず首を傾げた。


「……俺?」


「はい」


 ノエルは、落ち着いた声で続けた。


「夜遅く、解析室の前にいたという証言が……」


 俺は、少し考えた。


 昨夜。


 俺は、公爵家の屋敷にいた。


 父上と母上と一緒に夕食を取っていたはずだ。


「……それ、間違いだと思うよ」


 俺が言うと、ノエルは小さく笑った。


「……そうでしょうか?」


「うん」


 俺は、静かに頷いた。


「昨夜は、家にいたから」


 ノエルの表情が、わずかに変わった。


「……証明できますか?」


 俺は、少しだけ笑った。


「……できるよ」


 その瞬間。


 フィオナが、ゆっくりと顔を上げた。


「……ノエル君」


「……はい?」


「その証言をした人の名前を、教えてもらえるかしら?」


 ノエルの笑顔が、ほんの一瞬だけ固まった。


「……それは……」


 フィオナは、優雅に微笑んだ。


「正式な調査ですもの。確認しないわけにはいかないでしょう?」


 沈黙。


 ノエルは、ゆっくりと息を吸った。


「……確認しておきます」


 その言葉に、リゼットが冷たく笑った。


「……ずいぶん曖昧な証言ね」


     ◇


 夕方。


 学園の旧校舎。


 アルベルトは、ノエルの報告を聞いていた。


「……失敗した」


 ノエルが、悔しそうに呟く。


「レオンハルトには、家族という証人がいた」


 アルベルトは、静かに笑った。


「……そうか」


「しかも、解析記録の改ざんまで見破られた」


「……なるほど」


 アルベルトは、机の上の地図を見つめた。


「……なら、次はもっと確実にやるしかないね」


 ノエルが、顔を上げた。


「……何をするつもり?」


 アルベルトは、爽やかな笑顔を浮かべた。


「……簡単なことさ」


 彼は、机の上に一枚の紙を置いた。


 そこには、リゼット・クローディアの名前が記されていた。


「彼女が解析を続けられなくなればいい」


 ノエルが息を呑んだ。


「……まさか」


「安心して。怪我をさせるつもりはないよ」


 アルベルトは、静かに微笑んだ。


「ただ、少しだけ不名誉な出来事が起きるだけさ」


 その瞳には、冷たい悪意が宿っていた。


 そして。


 偽善の勇者は、次の罠を仕掛け始めた。

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