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『悪役公爵令息レオンハルト』  作者: 覇王が好き
第二章・王立学園編

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第69話 華麗なる舞踏会の幕開け――王女の微笑みと勇者の暗躍

第69話 華麗なる舞踏会の幕開け――王女の微笑みと勇者の暗躍


 王国暦八二一年、夏月二十九日。


 王立アストレア学園。


 新入生歓迎交流舞踏会、当日。


 学園の大講堂は、普段とはまるで違う姿になっていた。


 天井には、無数の魔法灯。


 壁には、王国の紋章と七色の花飾り。


 中央には、広大な舞踏会場。


 そして、優雅な音楽が流れている。


「……すごいな」


 俺は、思わず呟いた。


 隣にいたカイルが、にやりと笑う。


「お前、こういうの慣れてんじゃねえのか?」


「公爵家の式典には出たことあるけど、学園の舞踏会は初めてだからな」


「まあ、そうだよな」


 カイルは、紺色の礼装を着ていた。


 肩には、アッシュフォード辺境伯家の紋章。


 普段の豪快な雰囲気とは違い、なかなか様になっている。


「……カイル」


「何だ?」


「お前、結構似合ってるな」


「おっ、分かるか?」


 カイルは得意げに笑った。


「まあ、俺も一応、名門貴族の息子だからな!」


「一応って……」


「はははっ!」


 俺たちは笑い合った。


 その時。


「……レオン」


 聞き慣れた声がした。


 振り向く。


 そこには、一人の少女が立っていた。


 金色の髪。


 澄んだ青い瞳。


 そして、淡い青色のドレス。


 セレスティア・ルミナス。


 王国の王女。


 幼い頃から、俺の隣にいてくれた少女。


「……セレス?」


 俺は、思わず言葉を失った。


 普段の制服姿も綺麗だと思っていた。


 だが、今夜の彼女は、それ以上だった。


「……どう?」


 セレスが、少し不安そうに尋ねた。


「……似合ってるよ」


「……本当?」


「ああ」


 俺は、素直に答えた。


「すごく綺麗だ」


 その瞬間。


 セレスの頬が、真っ赤になった。


「……っ!」


「……セレス?」


「……もう!」


 彼女は、顔を逸らした。


「そういうこと、普通に言わないでよ……」


 ……何だ?


 褒めたら駄目だったのか?


 隣では、カイルが必死に笑いを堪えていた。


「……おい、レオン」


「何だ?」


「お前、ほんと罪な男だな」


「……意味が分からん」


「だろうな!」


 ……こいつ。


 絶対、楽しんでやがる。


     ◇


 舞踏会が始まると、会場には次々と華やかな衣装の生徒たちが集まった。


 赤いドレスのアリシア。


 紫を基調としたドレスのリゼット。


 白いドレスのエリシア。


 銀色の刺繍が入った淡い水色のドレスを着たエレノア。


 全員が、普段とは違う雰囲気を纏っていた。


「……みんな、綺麗だな」


 俺が呟くと、四人の動きが止まった。


「……っ!」


「……レオン、あなたね……」


「……そんな真顔で言わないで」


「……ありがとうございます」


 それぞれ違う反応。


 だが、全員の頬が赤くなっていた。


 ……やっぱり、何か間違えたか?


 その時。


「ふふ。賑やかね」


 優雅な声が響いた。


 振り向く。


 そこには、フィオナ・エルグランデが立っていた。


 深い緑色のドレス。


 金色の髪を美しく結い上げた姿は、まさに貴族令嬢そのものだった。


「……フィオナ先輩」


「こんばんは、レオンハルト様」


 彼女は優雅に微笑んだ。


「その礼装、とてもお似合いね」


「ありがとうございます。先輩も、とても綺麗です」


 その瞬間。


 フィオナが、わずかに目を見開いた。


「……あら」


 そして、楽しそうに微笑む。


「……嬉しいことを言ってくれるのね」


 隣では、セレスが少しだけ頬を膨らませていた。


「……レオン」


「何?」


「……何でもないわ」


 ……何なんだ、今日は。


     ◇


 やがて、開会の鐘が鳴った。


 大講堂の中央に、学園長が立つ。


「諸君。本日は、新入生歓迎交流舞踏会へようこそ」


 会場が静まり返る。


「王立アストレア学園は、身分ではなく、学問と実力を重んじる場所である」


 学園長は、ゆっくりと続けた。


「互いを尊重し、学び合い、未来の王国を支える者となってほしい」


 拍手が起きた。


 そして。


「それでは、舞踏会を始めよう」


 音楽が流れ始めた。


 俺は、セレスへ手を差し出した。


「……セレス」


「……はい」


 彼女は、少し緊張した様子で俺の手を取った。


「一曲、お願いできますか?」


 セレスの瞳が、大きく見開かれた。


 そして。


「……喜んで」


 彼女は、幸せそうに微笑んだ。


     ◇


 音楽に合わせて、俺たちは踊り始めた。


 セレスの手は、少しだけ震えていた。


「……緊張してる?」


 俺が尋ねると、彼女は小さく頷いた。


「……少し」


「珍しいな」


「だって……」


 セレスは、俺を見上げた。


「……レオンと、こうして踊るのは初めてだから」


 その言葉に、俺も少しだけ胸が高鳴った。


 幼い頃から、何度も一緒に過ごしてきた。


 だが、こうして手を取り合い、音楽に合わせて踊るのは初めてだ。


「……綺麗だよ、セレス」


 俺は、もう一度言った。


 彼女は、嬉しそうに微笑んだ。


「……ありがとう」


 そして、少しだけ声を落とす。


「……レオン」


「何?」


「私、あの日の返事を急がせるつもりはないわ」


 俺は、彼女を見つめた。


「……でも」


 セレスの青い瞳が、まっすぐ俺を捉える。


「……私の気持ちは、変わらないから」


 胸の奥が、少しだけ熱くなった。


「……分かってる」


 俺は、静かに頷いた。


「ちゃんと、考えてるよ」


 セレスは、幸せそうに微笑んだ。


「……うん」


 音楽が、ゆっくりと終わる。


 俺たちは、互いに一礼した。


 周囲から、大きな拍手が起きた。


 その瞬間。


 俺は、少しだけ思った。


 ……こういう時間が、ずっと続けばいいのに。


     ◇


 だが。


 その光景を、遠くから見つめる男がいた。


 アルベルト・レイフォード。


 彼は、手にしたグラスを静かに握り締めていた。


「……レオンハルト」


 その声には、抑えきれない嫉妬が滲んでいた。


 隣にいたノエルが、小声で尋ねる。


「……準備は?」


「問題ないよ」


 アルベルトは、爽やかな笑顔を浮かべた。


「もうすぐ、始まる」


「……本当に大丈夫なのか?」


「もちろんさ」


 彼は、懐から小さな黒い魔道具を取り出した。


「少しだけ、会場を混乱させるだけだから」


 その指先で、魔道具の紋様が淡く光った。


 同時に。


 会場の東側。


 平民特待生たちが集まる一角で、微かな魔力の揺らぎが生じた。


 誰も気づかないほど、小さな変化。


 だが。


 俺だけは、気づいていた。


「……?」


 セレスが、俺の表情を見た。


「……レオン?」


「……いや」


 俺は、東側の壁へ視線を向けた。


 何かが、おかしい。


 魔力の流れが、わずかに歪んでいる。


 それも、自然なものではない。


 誰かが、意図的に干渉している。


「……セレス」


「何?」


「少しだけ、待っててくれ」


 俺は、静かに歩き始めた。


     ◇


 その頃。


 東側の待機区域。


 ミア・フェルナーは、友人たちと談笑していた。


「……来てよかったね」


「うん!」


 ミアは、嬉しそうに頷いた。


 あの日。


 レオンハルトが、自分の話を聞いてくれた。


 そのおかげで、こうして舞踏会に参加できている。


 だからこそ、今日は楽しみたかった。


 だが。


「……あれ?」


 ミアは、足元に違和感を覚えた。


 床に刻まれた装飾。


 その一部が、淡く赤く光っている。


「……何、これ?」


 次の瞬間。


 ――ドクン。


 まるで、巨大な心臓が脈打つような音が響いた。


 床の下から、黒い魔力が滲み出す。


 ミアの顔から、血の気が引いた。


「……え?」


 周囲の魔法灯が、一斉に明滅した。


 そして。


 大講堂の東側で、巨大な魔法陣が浮かび上がった。


「……きゃあああっ!」


 悲鳴が響く。


 会場が、一瞬で混乱に包まれた。


 アルベルトは、遠くからその光景を見つめていた。


 口元には、薄い笑み。


「……さあ」


 彼は、静かに呟いた。


「英雄の出番だ」


 だが、その時。


 彼の予想していなかったことが起きた。


 黒い魔法陣の中心に、七つの星が浮かび上がったのだ。


「……何?」


 アルベルトの笑顔が、消えた。


 それは、彼が用意した術式には存在しない紋様だった。


 そして。


 魔法陣の奥から、低い声が響いた。


『……見つけた』


 誰にも聞こえないはずの声。


 だが、俺には確かに聞こえた。


『黒星を継ぐ者よ』


 俺は、ゆっくりと足を止めた。


 ……まさか。


 あの七つの封印と、関係があるのか?


 次の瞬間。


 黒い魔法陣から、巨大な影が姿を現し始めた。


 交流舞踏会。


 その華やかな夜は。


 今、最悪の事件へと変わろうとしていた。

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