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『悪役公爵令息レオンハルト』  作者: 覇王が好き
第二章・王立学園編

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第62話 生徒会長からの招待状――そして、生涯の親友との出会い

第62話 生徒会長からの招待状――そして、生涯の親友との出会い


 王国暦八二一年、夏月二十一日。


 王立アストレア学園の実力測定が終わった直後。


 俺は、人生で何度目になるか分からないため息をついていた。


「……普通に過ごしたかっただけなんだけどな」


「無理に決まってるだろ!」


 隣にいたアリシアが、呆れたように笑った。


「魔力量は測定不能、魔法制御は満点。おまけにグランフェルト侯爵家のエドワードを一瞬で倒したんだぞ?」


「一瞬ではなかったと思うけど」


「そういう問題じゃない!」


 周囲では、まだ新入生たちが興奮した様子で話していた。


「見たか、さっきの剣術!」


「エドワード様の《蒼閃》を、あんな簡単に……」


「ヴァルディス公爵家って、やっぱり化け物揃いなのか?」


 最後の一言は、聞かなかったことにした。


 俺の隣では、セレスティアが妙に満足そうな顔をしている。


「当然よ。レオンは昔からすごいんだから」


「セレス、あんまり自慢するなよ」


「どうして? 本当のことでしょう?」


 ……この王女様、最近ますます遠慮がなくなってきた気がする。


 すると、背後から澄んだ声が響いた。


「レオンハルト・ヴァルディス様でいらっしゃいますね?」


 振り向くと、上級生らしい女子生徒が立っていた。


 整った制服に、生徒会の紋章。


「生徒会長フィオナ・エルグランデ様より、招待状をお預かりしております」


「……生徒会長?」


 差し出された封筒には、金色の封蝋が押されていた。


 開いてみる。


『本日の放課後、生徒会室へお越しください。あなたと少し、お話がしたいのです。――フィオナ・エルグランデ』


 短い文章だった。


 だが、妙に断りづらい。


「……俺、何かしたかな」


「十分したと思うわよ」


 リゼットが即答した。


「測定器を壊しかけて、学園中を騒がせたんだから」


「壊してないだろ」


「ひびは入ったわ」


「……それはそうだけど」


 セレスが手紙を覗き込む。


「フィオナ先輩……」


「知り合いなのか?」


「もちろん。エルグランデ公爵家のご令嬢よ。学園の生徒会長で、成績も剣術も魔法も一流」


「へえ」


「それに……」


 セレスは少しだけ口を尖らせた。


「とても綺麗な方なの」


「そうなのか」


「……それだけ?」


「何が?」


「もう!」


 また怒られた。


 どうやら、俺は何か間違えたらしい。


     ◇


 昼休み。


 俺は学園の食堂で、ようやく一息ついていた。


 王立アストレア学園の食堂は、想像以上に広い。


 高い天井に、巨大な窓。


 貴族も平民も同じ空間で食事を取る。


 ただし、実際には自然と家柄や交友関係ごとに席が分かれているようだった。


「レオンハルト様、こちらを」


 エレノアが俺の前に皿を置く。


「ありがとう。でも、学園ではそんなに世話を焼かなくてもいいぞ」


「……それは困ります」


「どうして?」


「私の楽しみが減ってしまいますので」


 真顔で言われた。


 ……そうか。


 それなら仕方ない。


 俺が料理に手を伸ばした、その時だった。


「おい、そこの黒髪!」


 突然、横から声が飛んできた。


 振り向くと、一人の男子生徒が立っていた。


 無造作に跳ねた茶色の髪。


 琥珀色の瞳。


 背は俺より少し高く、制服の上からでも鍛えられた身体が分かる。


 少年は俺の顔を見るなり、にやりと笑った。


「お前がレオンハルト・ヴァルディスだろ?」


「そうだけど」


「やっぱりな!」


 彼は空いている椅子を引き、俺の向かいに腰を下ろした。


 ……いや、ちょっと待て。


 まだ座っていいとは言ってないんだが。


「俺はカイル・アッシュフォード。よろしくな!」


「アッシュフォード……?」


「西方の辺境伯家だよ。聞いたことあるだろ?」


 ある。


 王国西方の国境を守る名門武門貴族。


 代々優秀な将軍や騎士を輩出している一族だ。


「アッシュフォード辺境伯家の……」


「次男だ。兄貴が家を継ぐから、俺は好きにやっていいってさ」


 カイルは豪快に笑った。


「で、さっきの試合見たぞ!」


「……ああ」


「お前、めちゃくちゃ強えな!」


 まっすぐな言葉だった。


 そこには媚びも、嫉妬もない。


 ただ純粋に、強い相手を見つけた喜びがあった。


「エドワードの剣、あれ普通なら見切れねえぞ。なのに、お前は全部受け流しやがった」


「よく見てたな」


「そりゃそうだ。俺も剣を使うからな」


 カイルは自分の腰の剣を軽く叩いた。


「いつか俺とも勝負してくれよ」


「いいぞ」


「お、即答か!」


「同級生なんだろ?」


「ははっ! 気に入った!」


 カイルは笑いながら、俺の肩を叩いた。


 その瞬間。


 周囲の席から、微かなざわめきが起きた。


「おい、あいつ……公爵家の嫡男の肩を……」


「アッシュフォード辺境伯家の次男だろ?」


「それにしても、随分気安いな……」


 カイルは周囲の視線など気にしていない。


「なあ、レオン。お前って普段からそんな感じなのか?」


「そんな感じ?」


「公爵家の跡取りって、もっとこう……偉そうにしてるもんだと思ってた」


「期待に添えなくて悪いな」


「いや、最高だわ!」


 また笑った。


 俺も、つられて笑ってしまう。


 不思議な奴だ。


 初対面なのに、昔から知っている友人のように話せる。


「……レオン」


 セレスが、少し不思議そうに俺を見ていた。


「何?」


「楽しそうね」


「ああ。面白い奴だよ」


 カイルはすぐにセレスへ向き直った。


「おっと、王女殿下。挨拶が遅れました」


 立ち上がり、きちんと礼をする。


「カイル・アッシュフォードです」


「ええ。あなたのことは聞いているわ。西方の武門で、若くして雷魔法と剣術を修めた秀才だとか」


「いやあ、そんな大したもんじゃありませんよ」


 カイルは頭をかいた。


 そして俺の方へ顔を寄せ、小声で囁く。


「……なあ、レオン」


「何だ?」


「王女殿下、お前のこと好きすぎじゃね?」


「……ぶっ!」


 危うく飲み物を吹き出すところだった。


「な、何言ってんだよ!」


「いや、見りゃ分かるだろ」


「カイル!」


 セレスが真っ赤になった。


「余計なことを言わないで!」


「おっと、失礼!」


 カイルは楽しそうに笑った。


 ……こいつ。


 絶対、わざとやってるな。


     ◇


 昼食後。


 俺とカイルは、学園の中庭を歩いていた。


 セレスたちは午後の講義の準備で、先に教室へ戻っている。


「なあ、レオン」


「ん?」


「お前、さっきから気になってたんだけどさ」


「何だよ」


「なんで俺に、そんな普通に接するんだ?」


 思わず足を止めた。


「……普通?」


「ああ。俺の家も辺境伯家だから、それなりに立場はある。でも、公爵家とは格が違うだろ?」


 カイルは肩をすくめた。


「普通は、もうちょっと距離を取る奴が多いんだよ」


「そうなのか?」


「そうなんだよ」


 俺は少し考えた。


 そして、素直に答えた。


「別に、お前の家柄と友達になるわけじゃないからな」


 カイルが黙った。


「俺が話してて面白いと思ったのは、カイル本人だし」


「……」


「それじゃ駄目か?」


 数秒の沈黙。


 次の瞬間。


「……ははっ!」


 カイルが大声で笑った。


「お前、マジで最高だな!」


「何がだよ」


「いや、決めた!」


 カイルは俺の肩に腕を回した。


「今日から俺たち、親友な!」


「早くないか?」


「早い方がいいだろ!」


「……そういうもんか?」


「そういうもんだ!」


 強引な奴だ。


 だが、不思議と嫌ではなかった。


 俺は笑って、拳を差し出した。


「じゃあ、よろしくな。カイル」


「おう!」


 拳と拳が、軽くぶつかった。


 この時の俺は、まだ知らなかった。


 この出会いが、これから先の長い人生で、どれほど大切なものになるのかを。


     ◇


 放課後。


 俺は招待状に書かれた場所へ向かっていた。


 学園本館の最上階。


 生徒会室。


 扉の前に立ち、軽くノックする。


「どうぞ」


 落ち着いた声が返ってきた。


 扉を開ける。


 そこには、一人の少女が座っていた。


 淡い金色の髪。


 深い緑色の瞳。


 整った顔立ちには、余裕のある微笑み。


「初めまして、レオンハルト・ヴァルディス様」


 少女は立ち上がり、優雅に一礼した。


「王立アストレア学園、生徒会長のフィオナ・エルグランデです」


「レオンハルト・ヴァルディスです。お招きいただき、ありがとうございます」


「ふふ。噂通り、礼儀正しい方なのね」


 フィオナは俺を向かいの席へ案内した。


 机の上には、二人分の紅茶が用意されている。


「今日は、あなたに一つお願いがあってお呼びしたの」


「お願い、ですか?」


「ええ」


 フィオナは微笑んだ。


「生徒会に入っていただけないかしら?」


「……え?」


 予想外の言葉だった。


「入学したばかりの俺が、ですか?」


「もちろん、特例よ」


 彼女は優雅にカップを持ち上げた。


「あなたほどの実力者を、放っておくのは惜しいもの」


「でも、俺は普通に学園生活を送りたいんですが……」


「普通、ね」


 フィオナは楽しそうに笑った。


「魔力量測定不能の新入生が、普通の学園生活を望むなんて」


「……それは俺も反省してます」


「ふふっ」


 彼女は少し身を乗り出した。


「それに、あなたには知っておいてほしいことがあるの」


「何でしょう?」


 フィオナの表情から、笑みが消えた。


「学園には、あなたを快く思っていない生徒たちがいるわ」


「……まあ、そうでしょうね」


「驚かないの?」


「全員に好かれるのは無理ですから」


 フィオナは一瞬、目を見開いた。


 それから、静かに微笑んだ。


「……本当に、面白い方ね」


 彼女は机の引き出しから、一枚の報告書を取り出した。


「ただし、単なる嫉妬で済むとは限らないわ」


 そこには、複数の生徒の名前が記されていた。


 そして、一番上に書かれていた名前。


 ――アルベルト・レイフォード。


 俺は思わず目を細めた。


 原作の勇者。


 ゲーム『エターナル・レガリア』で、レオンハルトを倒すはずだった男。


 どうやら、運命はまだ俺を放っておいてくれないらしい。

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