第54話 王女覚醒――黄金の七星と、決して離さない手
第54話 王女覚醒――黄金の七星と、決して離さない手
王国暦八百二十一年、夏月十六日。
午後二時十八分。
ルミナス王城、地下禁書庫。
黒い魔法陣が、床一面に広がっていた。
七つの星を結ぶ線。
その中央に浮かぶ、禍々しい黒星の紋章。
《七星魂環術式》。
三百年前の七星王家が生み出した、魂を束縛する禁術だった。
「……さあ、黒き星よ」
ルシアン・セレスティスが、静かに両手を広げた。
「お前の大切な者たちを、私に捧げるがいい」
その瞬間。
セレスティアの身体を、黒い光が包み込んだ。
「……っ!」
彼女の足元に、七つの鎖が現れる。
だが。
「……冗談じゃないわ!」
セレスティアは、右手を掲げた。
金色の魔力が、身体の奥から溢れ出す。
その瞳が、強く輝いた。
「……私は、レオンを守るためにここへ来たの!」
次の瞬間。
黒い鎖の一本が、音を立てて砕け散った。
バキィィン!
ルシアンの表情が、わずかに変わった。
「……ほう」
そして。
「……王家の血が、目覚めたか」
◇◆◇
俺は、セレスの姿を見つめていた。
彼女の周囲に広がる金色の魔力。
それは、普段の彼女が使う魔法とは明らかに違っていた。
純粋な光属性魔法ではない。
もっと古い、王家の血そのものに刻まれた力。
リゼットが、驚いたように叫んだ。
「……レオン様! セレスティア様の魔力が、七星魂環術式と共鳴しています!」
「……共鳴?」
「はい!」
彼女は、測定器を確認しながら続けた。
「……王家の血が、術式の制御権を奪い返そうとしているんです!」
俺は、思わず笑った。
「……なるほど」
そして、セレスへ声をかけた。
「……セレス!」
彼女が、こちらを見た。
「……レオン!」
「……そのまま、術式を押し返せ!」
セレスは、力強く頷いた。
「……任せて!」
◇◆◇
ルシアンは、静かに右手を掲げた。
「……面白い」
その声には、わずかな興奮が混じっていた。
「……現代の王家にも、まだその力が残っていたとは」
彼の背後に、巨大な黒い魔法陣が現れる。
「……だが、未熟だ」
次の瞬間。
黒い鎖が、再びセレスへ襲いかかった。
俺は、即座に右手を掲げた。
「――《万有引力・重力偏向》!」
鎖の軌道が、空中でねじ曲がる。
だが。
その一部が、俺の重力場をすり抜けた。
……なるほど。
魂へ直接干渉する鎖か。
物理空間への重力操作だけでは、完全には防げない。
だが。
俺は、静かに剣を構えた。
「……なら、別の方法だ」
◇◆◇
「エリシア!」
「はい!」
エリシアが、七星のペンダントを掲げた。
黄金色の光が、書庫全体を照らす。
「――《七星聖光》!」
聖光が、黒い鎖へ触れた。
バチィィッ!
黒い魔力が、激しく弾ける。
その隙に。
セレスが、両手を広げた。
「――《王血解放》!」
金色の魔法陣が、彼女の足元に展開された。
そして。
七つの星が、一斉に輝き始めた。
ルシアンの瞳が、わずかに揺れた。
「……何?」
セレスは、まっすぐ彼を見つめた。
「……あなたは、王家の力を支配のために使った」
そして。
「……でも、私は違う!」
彼女の声が、書庫へ響いた。
「……この力は、大切な人を守るために使うの!」
次の瞬間。
金色の光が、黒い魔法陣を押し返した。
ドォォォン!
七つの鎖が、次々と砕け散る。
◇◆◇
俺は、その光景を見ていた。
……すごいな。
セレス。
幼い頃から知っている少女。
王女としての責任を背負いながら、いつも俺のことを気にかけてくれた。
その彼女が、今。
自分の力で、運命へ立ち向かっている。
俺は、静かに笑った。
「……やるじゃないか」
セレスが、少しだけ頬を赤くした。
「……当然でしょ!」
そして。
「……レオンの隣に立つんだから、これくらいできなくちゃ!」
その言葉に、俺は思わず目を見開いた。
……隣に立つ。
……か。
悪くないな。
◇◆◇
だが。
ルシアンは、まだ余裕を失っていなかった。
「……なるほど」
彼は、静かに頷いた。
「……王血の覚醒。聖女の浄化。そして、異界の魂を宿した黒き星」
その瞳が、赤く輝いた。
「……実に素晴らしい」
次の瞬間。
ルシアンの背後に、七つの巨大な魔法陣が現れた。
火。
水。
風。
土。
雷。
氷。
光。
七属性魔法。
そのすべてが、同時に発動した。
リゼットが、叫んだ。
「……レオン様! 七属性融合魔法です!」
俺は、静かに頷いた。
「……了解」
そして。
右手を掲げた。
「――《七耀天輪》!」
七つの属性が、俺の背後に集まる。
そして。
巨大な光輪となって、ルシアンの魔法へ激突した。
ドォォォォォン!!
凄まじい衝撃。
書庫の壁が、激しく揺れた。
だが。
俺は《万有引力》で周囲の空間を固定していた。
仲間たちには、衝撃が届かない。
ルシアンが、驚いたように目を見開いた。
「……七耀天輪を、ここまで制御するとは……」
俺は、静かに笑った。
「……まだまだ、こんなものじゃないぞ」
◇◆◇
その瞬間。
ルシアンの身体が、黒い霧へ変わった。
そして、俺の背後へ現れる。
「……ならば、試してみよう」
彼の手には、黒い短剣が握られていた。
魂を直接切り裂く、禁術の刃。
だが。
「……遅い!」
アリシアが、横から斬り込んだ。
ガキィィン!
彼女の剣が、ルシアンの短剣を弾いた。
その隙に、エレノアが背後へ回り込む。
「――《月影一閃》!」
銀色の剣閃が、ルシアンの外套を切り裂いた。
黒い霧が、激しく揺れる。
ルシアンが、わずかに後退した。
「……ほう」
アリシアが、剣を構え直した。
「……レオンだけ見てると、痛い目を見るわよ!」
エレノアも、静かに微笑んだ。
「……私たちも、ここにおりますので」
俺は、思わず笑った。
……本当に、頼もしいな。
◇◆◇
午後二時二十五分。
戦闘開始から、七分。
ルシアンは、ゆっくりと距離を取った。
その表情には、初めて苛立ちが浮かんでいた。
「……なるほど」
そして。
「……絆とは、これほど厄介なものか」
俺は、静かに答えた。
「……そうだ」
そして。
「……お前が弱点だと思っていたものは、俺たちの強さなんだよ」
ルシアンは、しばらく俺を見つめていた。
そして。
静かに笑った。
「……ならば」
彼は、右手を掲げた。
「……その絆ごと、奪ってやろう」
その瞬間。
書庫の床に、巨大な黒い魔法陣が現れた。
リゼットが、驚愕の声を上げた。
「……これは……!」
俺は、眉をひそめた。
「……何だ?」
リゼットが、青ざめた顔で答えた。
「……七星魂環術式の、第二段階です!」
そして。
「……魂の共鳴を利用して、七人の意識を強制的に接続する術式……!」
その瞬間。
セレスの身体が、再び黒い光に包まれた。
「……っ!」
俺は、咄嗟に手を伸ばした。
「……セレス!」
だが。
彼女は、静かに俺を見つめた。
「……大丈夫」
そして。
そっと、俺の手を握った。
「……今度は、離さないから」
その瞬間。
金色の光が、二人の間に広がった。
――王女セレスティアの覚醒。
――七星魂環術式の第二段階。
――そして、決して離さないと誓った手。
レオンハルトたちの戦いは、さらに激しさを増していく。




