第53話 黒幕の正体――三百年を生きた亡霊王子の野望
第53話 黒幕の正体――三百年を生きた亡霊王子の野望
王国暦八百二十一年、夏月十六日。
午後二時十分。
ルミナス王城、地下禁書庫。
静寂が、書庫を包んでいた。
目の前に立つ男。
黒い外套。
赤く輝く瞳。
そして、三百年前の王家の紋章。
ルシアン・セレスティス。
七星王家最後の王太子。
歴史上では、三百年前に死亡したとされている人物だった。
「……お前の魂を、私に寄越せ」
男の声が、静かに響いた。
俺は、ゆっくりと剣を構えた。
「……断る」
即答だった。
ルシアンは、わずかに眉を上げた。
「……理由を聞こうか」
俺は、静かに答えた。
「……俺には、守りたい人たちがいる」
そして。
「……お前の都合で、命を差し出すつもりはない」
ルシアンは、しばらく俺を見つめていた。
そして。
静かに笑った。
「……なるほど」
その声には、どこか懐かしむような響きがあった。
「……三百年前の私も、同じことを言った」
◇◆◇
ルシアンは、ゆっくりと書庫の中央へ歩いた。
「……七星王家は、かつて世界を統べるために神の力を求めた」
その声が、静かに響く。
「……七つの属性を統合し、七つの魂を一つの器へ収める」
そして。
「……その器として選ばれたのが、私だった」
俺は、眉をひそめた。
「……お前も、黒き星だったのか」
「……そうだ」
ルシアンは、静かに頷いた。
「……だが、私は失敗した」
彼は、右手を掲げた。
そこには、黒い魔法陣が浮かび上がっていた。
「……七つの魂を受け入れた瞬間、私の肉体は崩壊した」
そして。
「……魂だけが、この世界へ縛りつけられた」
リゼットが、息を呑んだ。
「……魂だけで、三百年も……?」
ルシアンは、静かに笑った。
「……苦しかったぞ」
その声には、深い憎しみが宿っていた。
「……肉体もなく、眠ることもできず、死ぬことすら許されなかった」
そして。
「……私は、三百年間、次の器を待ち続けた」
◇◆◇
セレスが、静かに口を開いた。
「……だから、レオンを狙ったの?」
ルシアンは、彼女を見た。
「……そうだ」
そして。
「……黒き星の魂は、十七歳で完成する」
俺は、静かに頷いた。
「……だから、俺を十七歳で殺す計画を立てた」
「……正確には、魂を回収する計画だ」
ルシアンは、冷たく笑った。
「……肉体は不要だった」
その言葉に、アリシアが剣を抜いた。
「……ふざけないで!」
彼女の声が、怒りに震えた。
「……レオンを、物みたいに扱うな!」
ルシアンは、彼女を一瞥した。
「……感情的だな」
そして。
「……だが、感情では運命は変えられん」
俺は、静かに答えた。
「……そうか?」
ルシアンが、俺を見た。
「……何?」
俺は、仲間たちを見渡した。
セレス。
エリシア。
リゼット。
アリシア。
エレノア。
そして、俺を待つ父上と母上。
「……少なくとも、俺は違うと思う」
◇◆◇
その瞬間。
ルシアンの周囲に、黒い魔法陣が浮かび上がった。
「……ならば、試してみるがいい」
彼の声が、冷たく響く。
「……お前の力が、どこまで通じるのか」
次の瞬間。
黒い魔力が、書庫全体を包み込んだ。
ドォォォォン!!
巨大な衝撃波。
だが、俺は即座に右手を掲げた。
「――《万有引力・重力障壁》!」
空間が歪む。
黒い衝撃波が、俺たちの前で停止した。
ルシアンが、わずかに目を見開いた。
「……ほう」
そして。
「……その力、七属性魔法ではないな」
俺は、静かに笑った。
「……そうだ」
《無限神力》。
膨大な神力が、身体の奥から溢れ出す。
だが、ルシアンは怯まなかった。
むしろ。
楽しそうに笑った。
「……なるほど」
その瞳が、赤く輝いた。
「……異界の魂が宿ると、ここまで変わるのか」
◇◆◇
俺は、眉をひそめた。
「……知っているのか?」
ルシアンは、静かに頷いた。
「……黒星降臨録に記されていた」
そして。
「……異界の魂が宿れば、黒き星は運命の支配を離れる」
彼は、ゆっくりと手を広げた。
「……だが、それは同時に、私の計画を狂わせる存在でもある」
俺は、静かに剣を構えた。
「……なら、諦めろ」
ルシアンは、笑った。
「……諦める?」
その声が、冷たく響く。
「……三百年待った私が、今さら諦めるとでも?」
◇◆◇
次の瞬間。
ルシアンの背後に、七つの巨大な魔法陣が現れた。
火。
水。
風。
土。
雷。
氷。
光。
七属性魔法。
そのすべてが、同時に発動した。
リゼットが、驚愕の声を上げた。
「……そんな……!」
そして。
「……七属性を、完全に同時制御している……!」
俺は、静かに息を吐いた。
……なるほど。
確かに、こいつは天才だ。
だが。
俺は、ゆっくりと右手を掲げた。
「……悪いな」
そして。
「……俺も、同じことができる」
七つの魔法陣が、俺の背後に展開された。
ルシアンの瞳が、わずかに揺れた。
「……何?」
俺は、静かに笑った。
「……七属性魔法くらい、珍しくもないだろ?」
◇◆◇
次の瞬間。
七属性魔法が、正面から激突した。
ドォォォォォン!!
凄まじい衝撃。
書庫の壁が砕け、天井が揺れる。
だが、俺は《万有引力》で周囲の空間を固定していた。
仲間たちには、衝撃が届かない。
ルシアンが、驚いたように目を見開いた。
「……空間そのものを固定している……?」
俺は、静かに頷いた。
「……そうだ」
そして。
「……お前の魔法は、確かに強い」
俺は、ゆっくりと剣を構えた。
「……だが」
その瞳が、鋭く光った。
「……俺の方が、強い」
◇◆◇
ルシアンは、しばらく俺を見つめていた。
そして。
突然、笑い始めた。
「……ははは……!」
その笑い声が、書庫へ響く。
「……素晴らしい!」
そして。
「……これほどの器が、存在するとは!」
俺は、眉をひそめた。
……器。
……また、それか。
ルシアンは、ゆっくりと右手を掲げた。
「……ならば、次の段階へ進もう」
その瞬間。
書庫の床に、巨大な黒い魔法陣が浮かび上がった。
リゼットが、悲鳴を上げた。
「……レオン様! これは……!」
俺は、足元を見た。
七つの星。
そして、中央の黒い紋章。
……七星魂環術式。
ルシアンは、静かに笑った。
「……お前は、知らないだろう」
そして。
「……黒き星が完成するために、必要なものを」
俺は、眉をひそめた。
「……何だ?」
ルシアンは、ゆっくりと答えた。
「……七つの絆だ」
その言葉に、俺は目を見開いた。
……七つの絆。
ルナリアが、地下水路で告げた言葉。
それは、俺を救うための鍵だと思っていた。
だが。
ルシアンは、冷たく笑った。
「……絆は、力になる」
そして。
「……同時に、最大の弱点にもなる」
その瞬間。
黒い魔法陣が、セレスたちの足元へ広がった。
「……っ!」
セレスが、息を呑んだ。
エリシアのペンダントが、激しく輝く。
リゼットが、慌てて術式を解析する。
「……これは、魂の共鳴を利用した拘束術式……!」
俺は、即座に右手を掲げた。
「――《万有引力》!」
だが。
ルシアンは、静かに笑った。
「……無駄だ」
そして。
「……その術式は、物理的な空間には存在しない」
俺は、眉をひそめた。
……魂の共鳴。
……絆。
……なるほど。
敵は、俺自身ではなく。
俺の大切な人たちを狙っている。
◇◆◇
その瞬間。
セレスの身体が、黒い光に包まれた。
「……レオン!」
彼女の声が響く。
俺は、咄嗟に手を伸ばした。
「……セレス!」
だが。
黒い光は、彼女を包み込んだまま消えなかった。
ルシアンの笑い声が、書庫へ響く。
「……さあ、黒き星よ」
そして。
「……お前の力で、大切な者を守れるか?」
俺は、静かに剣を握りしめた。
……なるほど。
……そういうことか。
だが。
俺は、ゆっくりと顔を上げた。
「……一つ、教えてやる」
ルシアンが、俺を見た。
「……何だ?」
俺は、静かに笑った。
「……俺の大切な人たちは」
そして。
「……守られるだけの存在じゃない」
その瞬間。
セレスの足元に、金色の魔法陣が浮かび上がった。
王家の血。
七星の紋章。
そして、彼女自身の魔力。
セレスが、ゆっくりと顔を上げた。
「……そうよ」
その瞳が、強く輝いた。
「……私だって、戦えるんだから!」
――黒幕ルシアンとの直接対決。
――七星魂環術式の真の目的。
――そして、七つの絆に秘められた力。
レオンハルトと仲間たちの運命は、ここから新たな局面へ突入する。




