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『悪役公爵令息レオンハルト』  作者: 覇王が好き
第一章 運命を覆す者

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第50話 対神兵器、起動――無限神力すら喰らう黒き巨人

第50話 対神兵器、起動――無限神力すら喰らう黒き巨人


 王国暦八百二十一年、夏月十六日。


 午前七時十二分。


 聖オルディス廃修道院、地下第三層。


 轟音とともに、巨大な黒い騎士が立ち上がった。


 全高三十二メートル。


 黒曜石のような装甲。


 胸部に埋め込まれた七つの魔力炉。


 そして、額に刻まれた七星の紋章。


 古代王国の対神兵器。


 ――《七星魔神兵》。


 その右腕に、漆黒の魔法陣が展開された。


「レオン様! 対神力砲、発射まで三秒!」


 リゼットの叫びが響く。


 俺は即座に右手を掲げた。


「《万有引力・重力偏向》!」


 空間が歪む。


 次の瞬間。


 ドォォォォォン!!


 黒い光の奔流が、魔神兵の右腕から放たれた。


 直径十メートルを超える破壊光線。


 その威力は、王国の攻城魔導砲など比較にならない。


 だが、光線は俺たちへ届かなかった。


 俺が展開した重力場によって、軌道を上方へ曲げられたのだ。


 漆黒の光が天井を貫き、廃修道院の地上部分を吹き飛ばす。


 轟音。


 崩落。


 大量の瓦礫が降り注ぐ。


「きゃっ!」


 エリシアが悲鳴を上げた。


 俺は左手を掲げる。


「《万有引力・空間固定》」


 落下する瓦礫が、空中で停止した。


 そのまま、全員を包む重力結界を展開する。


「全員、無事か!」


「はい!」


 エレノアが答えた。


 アリシアも剣を構え直す。


「……とんでもない威力ね」


 リゼットが、青ざめた顔で測定器を見つめていた。


「……あれ、一撃で王城の防御結界を破壊できる出力です」


 俺は、巨大な魔神兵を見上げた。


「……なるほど」


 そして、静かに笑った。


「……面白い」


 ◇◆◇


 魔神兵の胸元に、赤い光が灯った。


『……レオンハルト……』


 苦しげな声。


 ベルナール・クロイツ。


 王太子アドリアンの側近として暗躍していた男。


 だが、今はその魂が魔神兵の核に利用されている。


『……頼む……』


 声が震えた。


『……私を……止めてくれ……!』


 俺は、静かに答えた。


「……ああ」


 そして。


「……だが、殺すつもりはない」


 魔神兵の赤い瞳が、激しく揺れた。


『……何……?』


「……お前の魂を、引きずり出す」


 ◇◆◇


 次の瞬間。


 魔神兵が、巨大な剣を抜いた。


 全長二十メートルを超える黒い大剣。


 その刃には、神力を分解する特殊な術式が刻まれている。


 リゼットが叫んだ。


「レオン様! あの剣は神力を吸収します!」


「了解!」


 俺は、地面を蹴った。


 《万有引力》。


 重力を反転させ、空中へ跳び上がる。


 魔神兵の剣が、横薙ぎに振るわれた。


 ブォォォン!!


 凄まじい風圧。


 だが、俺はその上を飛び越えた。


「――《雷帝穿牙》!」


 青白い雷が、魔神兵の肩へ突き刺さる。


 バチィィッ!


 黒い装甲が砕けた。


 しかし。


 次の瞬間、破損部分が再生した。


「……やっぱりか」


 俺は、空中で体勢を整えた。


 魔神兵の装甲は、神力を吸収して再生する構造になっている。


 つまり、俺が力を注げば注ぐほど、敵も強くなる可能性がある。


 リゼットの声が、通信魔石から響いた。


『レオン様! 神力を直接ぶつけるのは危険です!』


「わかってる!」


 俺は、静かに息を吐いた。


 ……ならば。


 神力を、直接ぶつけなければいい。


 ◇◆◇


 俺は右手を掲げた。


「《万有引力・重力崩壊》」


 魔神兵の足元に、巨大な重力場が発生した。


 ゴゴゴゴゴ……!


 黒い巨体が、地面へ沈み込む。


 装甲が軋み、関節部分から火花が散った。


 だが、魔神兵はなおも動こうとする。


 胸部の魔力炉が、激しく輝いた。


 リゼットが叫ぶ。


「レオン様! 七つの魔力炉が連動しています!」


「……つまり?」


「一つを破壊しても、残り六つが補完します!」


 俺は、魔神兵を見上げた。


 ……七つの魔力炉。


 ……七つの魂。


 ……七星魂環術式。


 なるほど。


 これは、単なる兵器ではない。


 魂を燃料として使う、古代の禁忌そのものだ。


 ◇◆◇


「リゼット!」


「はい!」


「七つの魔力炉を同時に停止させる方法はあるか?」


「……あります!」


 彼女は、素早く測定器を操作した。


「ただし、七つの魔力炉すべてへ同時に干渉する必要があります!」


「なら、俺がやる」


 リゼットが、驚いたように顔を上げた。


「……え?」


 俺は、静かに笑った。


「……七つどころか、七十でも七百でも構わない」


 そして。


「……同時制御なら、得意分野だ」


 ◇◆◇


 俺は、両手を広げた。


 《無限神力》。


 膨大な神力が、身体の奥から溢れ出す。


 だが、その力を攻撃には使わない。


 七つの重力場を、魔神兵の魔力炉それぞれへ展開する。


 《万有引力・七重封鎖》。


 ゴゴゴゴゴ……!


 魔神兵の胸部で、七つの魔力炉が同時に軋み始めた。


 黒い装甲が、激しく震える。


 リゼットが、目を見開いた。


「……すごい……!」


 彼女は、震える声で続けた。


「……七つの魔力炉を、完全に独立した重力場で拘束している……!」


 俺は、静かに息を吐いた。


「……まだだ」


 そして。


「……ここからが本番だ」


 ◇◆◇


 魔神兵の胸元から、ベルナールの声が響いた。


『……やめろ……!』


 俺は、眉をひそめた。


「……何?」


『……それ以上、魔力炉を止めるな……!』


 その声が、激しく震えた。


『……七つの炉が停止すれば……私の魂が……!』


 リゼットが、慌てて測定器を確認した。


「……そんな……!」


 彼女の顔が、青ざめた。


「……レオン様! 魔力炉の停止と同時に、魂の拘束術式が自壊します!」


「……つまり?」


「……ベルナールの魂も、一緒に消滅します!」


 俺は、思わず舌打ちした。


 ……やはり、そう来たか。


 敵は、俺が力で押し切ることを想定している。


 そして、その瞬間にベルナールの魂を破壊する仕組みを用意していた。


 ……本当に、性格の悪い奴だ。


 ◇◆◇


 俺は、重力場の出力を維持したまま叫んだ。


「エリシア!」


「はい!」


「ベルナールの魂を、魔力炉から切り離せるか?」


 エリシアは、七星のペンダントを握りしめた。


「……やってみます!」


 黄金色の光が、彼女の身体を包み込む。


 《七星聖光》。


 魂を縛る禁術を浄化する、聖女の力。


 だが、魔神兵の胸部へ光が触れた瞬間。


 バチィィッ!


 黒い障壁が、聖光を弾いた。


「……っ!」


 エリシアが、苦しげに顔を歪めた。


 リゼットが叫ぶ。


「……魂への干渉を防ぐ、対聖光結界です!」


 俺は、静かに目を細めた。


 ……なるほど。


 神力を吸収する装甲。


 七つの魔力炉。


 魂を人質にした自壊術式。


 そして、聖光への対策。


 ここまで用意されているとはな。


 ◇◆◇


 そのとき。


 アリシアが、俺の隣へ駆け寄ってきた。


「レオン!」


「……どうした?」


「……あの黒い装甲、剣なら切れるんじゃない?」


 俺は、彼女を見た。


「……剣?」


「神力を吸収するなら、純粋な剣技で突破すればいいじゃない!」


 その言葉に、俺は思わず笑った。


「……なるほど」


 アリシアも、ニヤリと笑った。


「……私たちの出番でしょ?」


 その隣へ、エレノアが並んだ。


「レオンハルト様。私も参ります」


 俺は、二人を見つめた。


 ……そうか。


 俺一人で、全部やる必要はない。


 昨日、皆と約束したばかりじゃないか。


「……頼む」


 俺は、静かに頷いた。


「……二人で、魔神兵の胸部装甲を破ってくれ」


 アリシアが、剣を構えた。


「任せなさい!」


 エレノアも、静かに微笑んだ。


「必ず、道を開きます」


 ◇◆◇


 午前七時二十分。


 魔神兵の巨大な腕が、再び動き始めた。


 だが、その瞬間。


 俺は、右手を掲げた。


「《万有引力・重力反転》!」


 魔神兵の右腕が、強制的に上方へ跳ね上がる。


 その隙に。


 アリシアとエレノアが、同時に駆け出した。


「――《紅蓮一閃》!」


「――《月影一閃》!」


 二つの剣閃が、魔神兵の胸部へ突き刺さる。


 ガキィィィン!!


 黒い装甲に、巨大な亀裂が走った。


 さらに。


 俺は、重力場を一点へ集中させた。


「――《万有引力・局所圧壊》!」


 装甲が、内側から砕け散った。


 ドゴォォォン!


 魔神兵の胸部が、ついに露出した。


 その奥には。


 赤い光に包まれた、一人の男の姿があった。


 ベルナール・クロイツ。


 肉体を失い、魂だけとなった彼が、七つの魔力炉の中心に拘束されていた。


「……見つけた」


 俺は、静かに呟いた。


 そして。


「……今度こそ、救い出す」


 ◇◆◇


 その瞬間。


 魔神兵の胸元に、黒い魔法陣が浮かび上がった。


 リゼットが、悲鳴を上げた。


「……レオン様! 自壊術式が起動しています!」


 七つの魔力炉が、一斉に赤く輝き始める。


 そして。


 ベルナールの声が、苦しげに響いた。


『……もう……間に合わない……!』


 俺は、静かに右手を掲げた。


 《無限神力》。


 膨大な神力が、身体の奥から溢れ出す。


 だが、今度は攻撃しない。


 俺は、七つの魔力炉を見つめた。


 そして。


「……いや」


 静かに笑った。


「……まだ、終わっていない」


 ――対神兵器《七星魔神兵》。


 その最終防衛機構が、ついに起動した。


 だが、レオンハルトは諦めなかった。


 なぜなら。


 彼には、無限の力だけではなく。


 共に戦う仲間たちがいたからだ。

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