第49話 七星亡霊騎士団――最強の力と、七つの絆
第49話 七星亡霊騎士団――最強の力と、七つの絆
王国暦八百二十一年、夏月十六日。
午前六時四十五分。
聖オルディス廃修道院、地下第二層。
七つの石棺が開き、黒い霧が部屋を覆っていた。
その中から現れた七体の騎士は、ゆっくりと剣を構えた。
古代の鎧。
黒く染まった瞳。
そして、胸元に刻まれた七つの星の紋章。
リゼットが、測定器を確認する。
「……信じられません」
その声が、震えた。
「この騎士たち、全員が王国騎士団長級の魔力を持っています!」
アリシアが、剣を握り直した。
「……七人全員?」
「はい!」
俺は、ゆっくりと息を吐いた。
……なるほど。
七つの魂を、七体の騎士へ固定しているのか。
しかも、ただの亡霊兵ではない。
七星王家の古代術式によって、戦闘能力を強化されている。
だが。
「……問題ない」
俺は、静かに剣を構えた。
「俺たちなら、勝てる」
◇◆◇
最初に動いたのは、赤い鎧の騎士だった。
炎をまとった大剣が、凄まじい速度で振り下ろされる。
ドォォォン!
床が砕け、火柱が立ち上がった。
だが、俺はすでにその場から離れていた。
《万有引力》。
重力の向きを変え、身体を横へ滑らせる。
そして。
「――《雷帝穿牙》」
青白い雷が、騎士の胸元へ突き刺さった。
バチィィッ!
赤い鎧が砕け散る。
だが、騎士は倒れなかった。
黒い霧が集まり、破損した鎧を修復していく。
「……再生するのか」
リゼットが叫んだ。
「レオン様! 肉体を破壊しても無駄です! 魂の拘束術式が残っている限り、何度でも再生します!」
「了解!」
俺は、剣を引いた。
……ならば。
倒すだけじゃ、意味がない。
◇◆◇
「エリシア!」
「はい!」
エリシアが、七星のペンダントを掲げた。
黄金色の光が、部屋を照らす。
《七星聖光》。
魂を縛る禁術を浄化する、聖女の力。
その光が赤い騎士へ触れた瞬間。
黒い霧が、激しく揺れた。
『……ぐ……あ……』
騎士の口から、苦しげな声が漏れる。
そして。
胸元の七星紋章に、亀裂が走った。
「……効いています!」
エリシアが叫ぶ。
だが、次の瞬間。
青い鎧の騎士が、巨大な氷槍を放った。
狙いは、エリシア。
俺は、咄嗟に右手を掲げた。
「――《万有引力》」
氷槍の軌道が、空中でねじ曲がる。
そのまま、壁へ突き刺さった。
ドゴォォン!
俺は、エリシアの前へ立った。
「大丈夫か?」
「はい!」
彼女は、力強く頷いた。
「……レオン様が守ってくださるなら、私は全力で浄化します!」
俺は、静かに笑った。
「頼んだ」
◇◆◇
その頃。
アリシアとエレノアは、二体の騎士を相手にしていた。
緑の鎧の騎士。
紫の鎧の騎士。
風と雷を操る、恐るべき剣士たち。
だが。
「……遅い!」
アリシアの剣が、緑の騎士の武器を弾いた。
鋭い踏み込み。
そして、横薙ぎの一撃。
ガキィィン!
騎士の剣が、宙を舞った。
その隙に、エレノアが背後へ回り込む。
「――《月影一閃》!」
銀色の剣閃が、紫の騎士の鎧を切り裂いた。
だが、二体はすぐに再生した。
「……本当に、面倒ね!」
アリシアが舌打ちする。
エレノアは、冷静に答えた。
「ですが、再生には時間がかかっています」
「……つまり?」
「……その間に、リゼット様とエリシア様が術式を解除できれば」
アリシアが、ニヤリと笑った。
「……なるほど」
そして。
「……なら、時間稼ぎは得意よ!」
二人は、再び剣を構えた。
◇◆◇
午前七時。
戦闘開始から十五分。
七体の亡霊騎士は、なおも立ち続けていた。
だが。
戦況は、少しずつ変わり始めていた。
リゼットが、床の魔法陣を解析し終えたのだ。
「……わかりました!」
彼女が叫ぶ。
「この七体は、それぞれ別の魂を使って動いています!」
「つまり、七つの棺とつながっている?」
「はい!」
リゼットは、素早く説明した。
「騎士を破壊するのではなく、棺と騎士を結ぶ魔力回路を切断すれば、魂を解放できます!」
俺は、頷いた。
「……よし」
そして。
「……エリシア、リゼット。準備は?」
「いつでも!」
「私もです!」
俺は、ゆっくりと剣を構えた。
「……なら、一気にいくぞ」
◇◆◇
《無限神力》。
俺の身体から、膨大な神力が溢れ出した。
七体の騎士が、一斉に動きを止める。
その力の規模に、古代術式が反応したのだ。
だが、俺は攻撃しなかった。
代わりに。
「――《万有引力・七重拘束》」
七つの重力場を、同時に展開した。
ゴゴゴゴゴ……!
七体の騎士が、床へ押しつけられる。
鎧が軋み、剣が地面へ落ちた。
だが、魂を傷つけるほどの圧力はかけていない。
あくまで、動きを止めるだけ。
「……今だ!」
俺の声に、リゼットが魔法陣を起動した。
《七星回路分断》。
七つの棺から伸びる魔力の線が、次々と切断されていく。
そして。
エリシアが、ペンダントを掲げた。
「――《七星聖光・魂環解放》!」
黄金色の光が、部屋全体を包み込んだ。
黒い霧が、次々と消えていく。
七体の騎士が、ゆっくりと崩れ始めた。
だが。
その表情は、どこか穏やかだった。
『……ありがとう……』
かすかな声が、響いた。
そして。
七つの光が、天井へ昇っていった。
◇◆◇
午前七時十分。
戦闘は、終わった。
七体の亡霊騎士は、完全に消滅していた。
だが、彼らの魂は破壊されていない。
エリシアの聖光によって、長い拘束から解放されたのだ。
「……よかった」
エリシアが、小さく微笑んだ。
俺は、彼女の肩へ手を置いた。
「よくやった」
「……ありがとうございます」
その頬が、少しだけ赤くなった。
アリシアが、剣を鞘へ収めた。
「……しかし、七体全部が騎士団長級って、どんな冗談よ」
エレノアも、静かに頷いた。
「……ですが、レオンハルト様のおかげで、誰も傷つかずに済みました」
リゼットが、測定器を確認した。
「……いえ」
その声が、急に険しくなった。
「……まだ、終わっていません」
俺は、彼女を見た。
「……どうした?」
リゼットは、震える指で測定器を示した。
「……地下に、さらに巨大な魔力反応があります」
◇◆◇
その瞬間。
部屋の床が、大きく揺れた。
ゴゴゴゴゴ……!
七つの石棺が、音を立てて崩れ始める。
その中央に、巨大な穴が開いた。
そして。
暗闇の底から、低い声が響いた。
『……ようやく、来たか……』
俺は、ゆっくりと剣を抜いた。
「……誰だ?」
暗闇の中で、二つの赤い光が灯る。
次の瞬間。
巨大な黒い腕が、床を突き破って現れた。
ドゴォォォン!
石材が砕け、部屋全体が揺れる。
リゼットが、悲鳴を上げた。
「……そんな……!」
その声が、震えた。
「……これは、古代王国の最終兵器……!」
俺は、目を細めた。
「……最終兵器?」
リゼットが、青ざめた顔で答えた。
「……《七星魔神兵》」
そして。
「……七つの魂を核として動く、古代の対神兵器です!」
◇◆◇
暗闇の底から、巨大な影が立ち上がった。
全高、三十メートル以上。
黒い装甲。
七つの魔力炉。
そして、胸元に刻まれた七星紋章。
その姿は、まるで巨大な黒い騎士だった。
だが。
俺は、違和感を覚えた。
……おかしい。
七つの魂は、すでに解放したはずだ。
ならば、なぜ動いている?
その瞬間。
巨大な魔神兵の胸元に、赤い光が灯った。
そして。
『……レオンハルト……』
聞き覚えのある声が響いた。
「……ベルナール?」
魔神兵の胸元から、苦しげな声が返ってきた。
『……頼む……』
そして。
『……私を……止めてくれ……!』
その瞬間。
魔神兵の右腕が、ゆっくりと持ち上がった。
巨大な魔法陣が、手のひらに浮かび上がる。
狙いは、俺たち全員。
リゼットが叫んだ。
「……レオン様! あれは、対神力砲です!」
俺は、静かに右手を掲げた。
《万有引力》。
周囲の重力が、ゆっくりと歪み始める。
そして。
「……なるほど」
俺は、笑った。
「……ようやく、本命のお出ましか」
だが。
その笑みは、決して油断ではなかった。
……七つの魂を解放しても、まだ終わらない。
……しかも、ベルナールが核になっている。
ならば。
「……全員、下がれ」
俺は、仲間たちへ告げた。
「……ここからは、少し本気を出す」
そして。
巨大な魔神兵へ向かって、一歩踏み出した。
――七星魔神兵。
――古代王国の対神兵器。
――そして、囚われたベルナールの魂。
レオンハルトの前に、ついに黒幕が用意した最大の障害が立ちはだかった。




