↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『悪役公爵令息レオンハルト』  作者: 覇王が好き
第一章 運命を覆す者

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
45/379

第45話【IF編・完結・】銀月の終焉――愛する息子を奪われた世界への復讐

第45話【IF編・完結・】銀月の終焉――愛する息子を奪われた世界への復讐


 王国暦八百二十三年、秋月二十四日。


 午後三時。


 ルミナス王国、王都。


 王城の中央塔が崩れ落ちたとき、王都中の人々は空を見上げた。


 巨大な銀色の魔法陣。


 空を覆う黒い闘気。


 そして、瓦礫の上に立つ二人の人物。


 黒獅子アルフォンス。


 銀月の魔女エレオノーラ。


 王国最強の夫婦が、ついに王国そのものへ牙を剥いた。


 ◇◆◇


 王城の地下。


 アルフォンスは、薄暗い廊下を歩いていた。


 その後ろには、数人の護衛騎士が続いている。


 だが、彼らは剣を抜いていなかった。


 すでに戦う意思を失っていたのだ。


「……この先です」


 一人の騎士が、震える声で言った。


「……討伐軍の作戦記録は、地下保管庫にあります」


 アルフォンスは、静かに頷いた。


「案内しろ」


 重い扉が開かれる。


 そこには、無数の書類が並べられていた。


 討伐軍の配置図。


 封印兵器の使用記録。


 そして、レオンハルトの戦闘経過報告。


 アルフォンスは、一枚の記録を手に取った。


『対象は三日目午前八時十二分、封印槍により死亡』


 その文字を見た瞬間、胸の奥が締めつけられた。


 ……八時十二分。


 息子が死んだ時刻。


 父である自分は、そのとき何をしていたのか。


 北方の迎賓館で、外交官たちと朝食を取っていた。


 妻と笑いながら、帰国後の予定を話していた。


 その間に。


 息子は、一人で死んでいた。


「…………っ」


 アルフォンスは、書類を握りしめた。


 そして、静かに目を閉じた。


 ……レオン。


 ……すまない。


 何度謝っても、届かない。


 ◇◆◇


 そのとき。


 保管庫の奥から、一人の男が現れた。


 討伐軍総司令官。


 六万の軍勢を指揮した人物だった。


「……ヴァルディス公爵」


 男は、静かに頭を下げた。


「……私は、あなたに殺されても仕方のないことをしました」


 アルフォンスは、ゆっくりと彼を見た。


「……お前が、レオンを殺したのか」


 総司令官は、首を横へ振った。


「……最後の封印槍を放ったのは、聖教会の術者です」


 そして。


「……ですが、私が軍を動かしました」


 アルフォンスは、黙っていた。


 男は、震える声で続けた。


「……最初は、王国のためだと思っていました」


 そして。


「……ですが、三日間戦い続けるあの少年を見て、私は間違っていたと気づきました」


 アルフォンスの瞳が、鋭く光った。


「……ならば、なぜ止めなかった」


 総司令官は、答えられなかった。


 長い沈黙。


 そして。


「……怖かったのです」


 男は、俯いた。


「……命令に逆らうことが」


 アルフォンスは、ゆっくりと剣を抜いた。


「……そうか」


 その声は、冷たかった。


「……お前は、自分の命が惜しかったのだな」


 総司令官は、静かに頷いた。


「……はい」


 アルフォンスは、剣を構えた。


「……レオンも、生きたかったはずだ」


 そして。


「……だが、あの子は逃げなかった」


 剣が閃いた。


 総司令官は、床へ崩れ落ちた。


 アルフォンスは、その身体を見下ろした。


「……お前に、その覚悟があったなら」


 その声が、わずかに震えた。


「……私の息子は、死なずに済んだかもしれん」


 ◇◆◇


 午後五時。


 王都、聖教会大聖堂。


 巨大な鐘楼の上に、エレオノーラが立っていた。


 眼下には、白い石造りの大聖堂。


 レオンハルトを異端と断じ、討伐を正当化した場所だった。


 彼女は、静かに右手を上げた。


「……《銀月・封魔結界》」


 銀色の光が、大聖堂を包み込んだ。


 内部にいた聖職者たちの魔法が、次々と封じられる。


 そして、エレオノーラの声が響いた。


『討伐計画に関わった者は、前へ出なさい』


 沈黙。


 誰も動かない。


『逃げても無駄よ』


 銀色の魔法陣が、床に浮かび上がる。


 記憶を照合する術式。


 討伐命令へ関与した者たちの魔力痕跡が、次々と浮かび上がった。


 高位司祭。


 封印術師。


 兵器の管理責任者。


 そして、魂縛りの術式を設計した魔導師。


 彼らは、恐怖に顔を引きつらせた。


「……た、助けてくれ!」


「……我々は命令に従っただけだ!」


 エレオノーラは、静かに微笑んだ。


「……そう」


 そして。


「……レオンちゃんも、きっと助けてほしかったでしょうね」


 銀色の鎖が、彼らを拘束した。


 ◇◆◇


 その中に、一人の老魔導師がいた。


 封印槍の設計者。


 レオンハルトの魂を拘束する術式を作った人物だった。


 エレオノーラは、彼の前へ歩み寄った。


「……あなたが、あの槍を作ったの?」


 老魔導師は、震えながら頷いた。


「……は、はい……」


「……そう」


 エレオノーラは、静かに尋ねた。


「……あの子は、苦しんだ?」


 老魔導師は、何も答えられなかった。


「……教えて」


 その声が、震えた。


「……レオンちゃんは、最後に苦しんだの?」


 老魔導師は、俯いた。


「……魂縛りの術式は、対象の生命力を強制的に停止させます」


 そして。


「……その過程で、激しい苦痛を伴うことがあります……」


 エレオノーラの瞳から、涙が零れた。


「……そう」


 彼女は、静かに微笑んだ。


「……教えてくれて、ありがとう」


 次の瞬間。


 銀色の光が、老魔導師を包み込んだ。


 短い悲鳴。


 そして、静寂。


 光が消えたとき、彼は二度と動かなかった。


 エレオノーラは、ゆっくりと目を閉じた。


「……レオンちゃん」


 そして。


「……お母様、遅くなってごめんね」


 ◇◆◇


 午後六時。


 聖教会大聖堂は、崩壊した。


 巨大な銀色の魔法陣が、建物の中心を貫いたのだ。


 討伐計画に関与していない聖職者や一般の信徒たちは、事前に外へ避難させられていた。


 だが、計画の中核を担った者たちは、誰一人として逃げられなかった。


 王都の人々は、その光景を恐怖とともに見つめた。


 王城。


 評議会。


 聖教会。


 王国を支えてきた三つの権力が、一日のうちに崩壊した。


 ◇◆◇


 王国暦八百二十三年、秋月二十五日。


 王都の朝。


 アルフォンスとエレオノーラは、再びヴァルディス公爵家へ戻っていた。


 大広間には、レオンハルトの棺が置かれている。


 エレオノーラは、静かに棺の傍らへ座った。


「……レオンちゃん」


 その声は、優しかった。


「……お母様たち、帰ってきたわよ」


 アルフォンスも、棺の前へ膝をついた。


「……レオン」


 そして。


「……お前を殺した者たちは、もういない」


 返事はなかった。


 当然だった。


 息子は、もう二度と目を覚まさない。


 エレオノーラは、少年の頬へ触れた。


「……ねえ、あなた」


 アルフォンスが、静かに顔を上げる。


「……何だ」


「……私、わかったことがあるの」


 その声は、ひどく疲れていた。


「……何人殺しても、レオンちゃんは帰ってこないのね」


 アルフォンスは、何も言えなかった。


 エレオノーラは、静かに涙を流した。


「……当たり前なのにね」


 そして。


「……私、どこかで期待していたのかもしれない」


 彼女は、息子の手を握った。


「……あの子を殺した人たちがいなくなれば、少しは楽になるんじゃないかって」


 だが。


 何も変わらなかった。


 胸の奥に空いた穴は、少しも埋まらなかった。


 ◇◆◇


 その日の午後。


 ヴァルディス公爵領へ向かう馬車の中で、アルフォンスは妻へ尋ねた。


「……これから、どうする」


 エレオノーラは、窓の外を見つめていた。


「……レオンちゃんを、静かな場所に眠らせてあげたい」


 アルフォンスは、静かに頷いた。


「……ああ」


 そして。


「……私も、そう思う」


 二人は、それ以上何も話さなかった。


 ◇◆◇


 王国暦八百二十三年、冬月一日。


 ルミナス王国は、事実上崩壊した。


 国王と王太子は死亡。


 評議会は消滅。


 聖教会の中枢も失われた。


 各地の貴族たちは、次々と独立を宣言した。


 王国軍は統一された指揮系統を失い、地方領主たちが自領の防衛へ兵を引き上げた。


 かつて大陸有数の強国だったルミナス王国は、わずか数週間で歴史の表舞台から姿を消した。


 そして。


 その崩壊を引き起こした黒獅子と銀月は、王国の再建に関わろうとはしなかった。


 彼らにとって。


 もう、王国などどうでもよかった。


 ◇◆◇


 冬月七日。


 ヴァルディス公爵領、北方の丘。


 静かな雪が、降っていた。


 その丘の上には、一つの墓が建てられている。


 白い石碑。


 そして、そこに刻まれた名前。


『レオンハルト・ヴァルディス』


『王国暦八百六年生』


『王国暦八百二十三年没』


『最愛の息子へ』


 エレオノーラは、墓石の前へ花を供えた。


「……レオンちゃん」


 彼女は、静かに微笑んだ。


「……今日はね、あなたの好きだったお菓子を持ってきたの」


 そして。


「……お母様、ちゃんと覚えていたのよ」


 その声は、優しかった。


 だが。


 返事はなかった。


 アルフォンスは、墓石の前へ膝をついた。


「……レオン」


 その声には、深い悲しみが宿っていた。


「……父は、すべてを終わらせた」


 そして。


「……だが」


 アルフォンスは、静かに目を閉じた。


「……お前がいない世界では、何の意味もないな」


 エレオノーラの瞳から、涙が零れた。


「……本当に、そうね……」


 ◇◆◇


 そのとき。


 銀髪の侍女が、静かに近づいてきた。


 エレノア・シルヴェイン。


 彼女は、レオンハルトから贈られた小さな護符を胸元に下げていた。


「……旦那様、奥様」


 そして、深々と頭を下げた。


「……私も、ここにいてよろしいでしょうか」


 エレオノーラは、静かに微笑んだ。


「……もちろんよ」


 そして。


「……あなたも、レオンちゃんの家族だもの」


 エレノアの瞳から、涙が零れた。


「……ありがとうございます……」


 彼女は、墓石の前へ膝をついた。


「……レオンハルト様」


 そして。


「……私は、これからもあなたを忘れません」


 その声は、震えていた。


「……ずっと、ずっと……」


 ◇◆◇


 少し離れた場所には、数人の少女たちが立っていた。


 第一王女セレスティア。


 聖女エリシア。


 魔導研究者リゼット。


 剣士アリシア。


 そして、ヴィオレッタ。


 彼女たちは、それぞれ違う形でレオンハルトと関わっていた。


 だが。


 共通していたことが、一つだけあった。


 誰もが、少年の死を悲しんでいた。


 セレスティアは、静かに涙を流した。


「……レオン……」


 エリシアは、胸元の七星のペンダントを握りしめた。


「……あなたを、救えなかった……」


 リゼットは、俯いたまま拳を握った。


「……もっと早く、術式を解明できていれば……」


 アリシアは、涙を拭いながら空を見上げた。


「……馬鹿……」


 そして。


「……一人で、全部背負わないでよ……」


 ヴィオレッタは、何も言えなかった。


 ただ、静かに頭を下げていた。


 ◇◆◇


 その夜。


 アルフォンスとエレオノーラは、息子の墓の前に座っていた。


 夜空には、無数の星が輝いている。


「……あなた」


 エレオノーラが、静かに声をかけた。


「……何だ」


「……もし、もう一度やり直せるなら」


 その声が、震えた。


「……私は、絶対にあの子を一人にしないわ」


 アルフォンスは、静かに頷いた。


「……ああ」


 そして。


「……私もだ」


 二人は、夜空を見上げた。


 だが。


 どれほど願っても。


 時間は、戻らなかった。


 ◇◆◇


 ――そして。


 世界のどこか。


 誰も知らない、暗い空間。


 一人の男が、静かに古い羊皮紙を見つめていた。


『黒き暴君――十七歳にて死亡』


 男は、ゆっくりと笑った。


「……これで、第一段階は完了した」


 その手には、黒い水晶が握られていた。


 水晶の内部には、かすかな赤い光が揺れている。


「……黒き星の魂は、まだ完全には消えていない」


 そして。


「……次こそ、器として完成させる」


 男は、静かに水晶を掲げた。


 ――王国は崩壊した。


 黒獅子と銀月は、最愛の息子を失った。


 多くの人々が、取り返しのつかない悲しみを背負った。


 だが。


 この世界の悲劇は、まだ終わっていなかった。


 なぜなら。


 すべての元凶は、今も闇の中で笑っていたからだ。


 ◇◆◇


 ――IFルート、完。


 これは、誰にも救われなかった世界の物語。


 そして。


 運命を変える者が現れなかった場合に訪れた、もう一つの結末だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。