↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『悪役公爵令息レオンハルト』  作者: 覇王が好き
第一章 運命を覆す者

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
38/382

第38話 偽りの密告と、七星の地下水路

第38話 偽りの密告と、七星の地下水路


 王国暦八百二十一年、夏月十四日。


 午前八時。


 王国監察院の執務室には、朝から重苦しい空気が漂っていた。


 長机の中央に置かれているのは、一通の封書。


 黒い封蝋には、七つの星を囲む古い紋章が刻まれている。


「差出人は不明。昨夜、監察院の受付へ届けられました」


 王国監察官ルドルフ・ヘインズが、慎重に説明した。


 俺は封書へ目を向ける。


 父アルフォンス、母エレオノーラ、そしてセバスティアンも同席していた。


「内容は?」


 俺が尋ねると、ルドルフは書類を読み上げた。


「王都西部の地下水路に、七星王家の失われた記録が保管されている。そこには、黒星の器に関する真実が記されている……とのことです」


 ……ずいぶん親切な密告だな。


 俺は、静かに息を吐いた。


 昨日、リゼットが術式の中継点を二つ特定したばかりだ。


 その直後に、同じ場所を示す匿名の手紙が届く。


 偶然とは考えにくい。


「……罠でしょうね」


 母が、穏やかな声で言った。


 だが、その紫色の瞳には鋭い光が宿っていた。


「ええ」


 俺は頷いた。


「ただ、無視するわけにもいきません」


 父が腕を組む。


「敵がこちらを誘い込もうとしているなら、逆に利用する手もある」


「はい。ただし、今回は相手の術式が特殊です」


 俺は、机の上に置かれた地図を指差した。


「魂への干渉を前提に準備している可能性があります。力任せに突入するのは避けたい」


 父は、満足そうに頷いた。


「よく考えているな」


 ……父上に褒められると、少し嬉しいな。


 だが、今回は慎重すぎるくらいでちょうどいい。


 敵は俺の力を研究している。


 そして、こちらの行動まで予測している可能性があるのだから。


 ◇◆◇


 午前十時。


 ヴァルディス公爵家、王都別邸。


 俺は、今回の調査に参加する仲間たちと作戦を確認していた。


 エレノア。


 エリシア。


 リゼット。


 アリシア。


 そして、第一王女セレスティア。


 ……最後の一人については、正直予想外だった。


「セレス、本当に参加するつもりか?」


 俺が尋ねると、彼女は真っ直ぐに俺を見つめた。


「もちろんよ」


「危険な場所だぞ」


「わかってる」


 セレスは、静かに頷いた。


「だからこそ、王家の人間として確認する必要があるの」


 俺は、少しだけ考えた。


 確かに、地下水路には王家の封印が存在する可能性がある。


 だが。


「……無理はしないでくれ」


 俺がそう言うと、セレスは小さく微笑んだ。


「それ、レオンにも言えることよ?」


 ……一本取られたな。


 その隣で、アリシアが腕を組んだ。


「私は前衛を担当するわ。接近戦なら任せて」


 リゼットが、すぐに口を開く。


「私は術式解析を担当します。今回の目的は、敵を倒すことだけではありませんから」


 エリシアも、静かに頷いた。


「魂に関する術式なら、私の力が役立つはずです」


 そして。


 エレノアが、俺の隣へ立った。


「レオンハルト様の護衛は、私が務めます」


 ……頼もしいな。


 俺は、皆を見渡した。


「ありがとう。だが、最優先は全員の無事だ」


 そして。


「危険だと判断したら、必ず撤退する。いいな?」


 少女たちは、それぞれ頷いた。


 ◇◆◇


 午後一時。


 王都西部、旧地下水路。


 古い石造りの入口は、街の外れにある廃倉庫の地下に隠されていた。


 階段を下りると、湿った空気が肌へまとわりつく。


 壁には苔が生え、遠くから水の流れる音が響いていた。


「……思ったより、広いわね」


 アリシアが、周囲を見渡した。


「古い王都の排水設備を利用して、後から増築されたようです」


 リゼットが、地図を確認しながら答える。


 俺は、静かに魔力感知を広げた。


 ……いるな。


 複数の魔力反応。


 だが、どれも不自然に弱い。


 ……囮か?


「……全員、警戒してくれ」


 俺が告げた瞬間。


 足元の石畳が、淡く光った。


「……っ!?」


 リゼットが、即座に叫ぶ。


「術式反応! 足元です!」


 次の瞬間。


 地下水路全体に、黒い魔法陣が浮かび上がった。


 ゴゴゴゴ……!


 重い振動。


 そして。


 壁から、無数の黒い鎖が伸びてきた。


「……来たか!」


 俺は、右手を上げた。


 《万有引力》。


 重力場を展開し、鎖の動きを停止させる。


 だが。


 ……やはり。


 鎖の一部が、重力場をすり抜けた。


 魂へ直接作用する術式。


 以前と同じ系統だ。


「エリシア!」


「はい!」


 彼女が両手を掲げる。


 《聖光障壁》。


 白い光が、仲間たちを包み込んだ。


 黒い鎖が障壁へ触れた瞬間、激しい火花が散った。


 ……よし。


 以前より、明らかに強くなっている。


 ◇◆◇


 だが。


 敵の狙いは、別にあった。


 突然、地下水路の奥から声が響いた。


『……黒き星を宿す者よ』


 低く、冷たい声。


『……よく来たな』


 俺は、静かに目を細めた。


「……誰だ?」


『……名乗る必要はない』


 声は、壁全体から響いている。


『……お前に見せたいものがある』


 その瞬間。


 地下水路の奥に、巨大な水晶板が浮かび上がった。


 そこに映し出されたのは。


 ……王都?


 いや。


 燃え上がる王都だった。


 崩れ落ちる建物。


 逃げ惑う人々。


 そして。


 ヴァルディス公爵家の屋敷が、炎に包まれていた。


「……っ!?」


 俺は、思わず息を呑んだ。


 ……これは。


 原作ゲームで見た光景に、よく似ている。


 十七歳のレオンハルト。


 六万の軍勢。


 そして、公爵家の滅亡。


 ……まさか。


『……見えるか』


 声が、静かに続けた。


『……これがお前の未来だ』


 俺は、静かに拳を握った。


 ……ふざけるな。


 そんな未来。


 ……絶対に、認めない。


 ◇◆◇


「……レオン!」


 セレスの声が、響いた。


 俺は、はっと顔を上げた。


 彼女が、俺の腕を掴んでいた。


「……大丈夫?」


 その瞳には、強い心配が宿っていた。


 俺は、静かに頷いた。


「……ああ」


 だが。


 水晶板の映像は、さらに変化した。


 今度は、黒い鎧をまとった少年が映し出された。


 黒髪。


 深紅の瞳。


 そして。


 血に染まった剣。


 ……俺だ。


 いや。


 原作のレオンハルト。


 その姿だった。


『……十七歳』


 声が、冷たく響く。


『……その年齢に達したとき、黒き星は完全に覚醒する』


 そして。


『……王国は、お前を排除する』


 俺は、静かに息を吐いた。


 ……なるほど。


 敵は、俺の運命を知っている。


 少なくとも。


 ……そう思わせたいらしい。


 ◇◆◇


「……リゼット」


 俺は、静かに声をかけた。


「……この映像、解析できるか?」


 彼女は、すぐに水晶板へ視線を向けた。


「……はい」


 そして。


 魔力を集中させた。


「……これは、未来予知ではありません」


 俺の瞳が、わずかに動いた。


「……何?」


「……記録映像です」


 リゼットは、静かに続けた。


「……誰かが、意図的に作成した魔力映像です」


 ……やっぱり。


 俺は、静かに頷いた。


 だが。


 次の瞬間。


 エリシアが、突然胸元を押さえた。


「……っ!」


 俺は、すぐに彼女へ視線を向けた。


「……エリシア!?」


 彼女の胸元。


 七星のペンダントが、白く輝いていた。


「……聞こえます」


 エリシアが、震える声で呟いた。


「……何が?」


 俺が尋ねる。


 彼女は、ゆっくりと顔を上げた。


「……誰かが、助けを求めています」


 その声には、確かな悲しみが宿っていた。


「……この地下水路の、もっと奥から」


 俺は、静かに目を細めた。


 ……なるほど。


 敵の罠の中に。


 ……本当に、何かがあるのかもしれない。


 ◇◆◇


 その瞬間。


 地下水路の奥にある巨大な石扉が、ゆっくりと開いた。


 ゴゴゴゴ……。


 扉の向こうから、白い光が漏れ出す。


 そして。


 聞き覚えのない、幼い少女の声が響いた。


『……助けて』


 俺は、静かに息を呑んだ。


『……お願い』


 その声は、かすれていた。


『……もう、誰も傷つけたくないの』


 エリシアが、俺を見つめた。


「……レオンハルト様」


 俺は、静かに頷いた。


「……わかってる」


 そして。


 剣を握り直した。


「……行こう」


 ――偽りの未来を映し出す水晶。


 そして、地下水路の奥から響く少女の声。


 その先には、七星王家の失われた秘密が眠っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。