第35話 黒き暴君の剣と、裏切り者ベルナールの正体
第35話 黒き暴君の剣と、裏切り者ベルナールの正体
王国暦八百二十一年、夏月十一日。
午前零時。
王都地下、古代神殿跡。
巨大な黒い守護騎士が、ゆっくりと大剣を持ち上げた。
その刃は、通常の騎士が使うものの三倍はある。
そして、剣身には黒い魔力が渦巻いていた。
「……レオンハルト様!」
エレノアが、警戒するように叫ぶ。
俺は、静かに頷いた。
「……大丈夫だ」
そして。
腰の剣を抜いた。
銀色の刃が、地下神殿の光を反射する。
……さて。
相手の性能を、少し見てみるか。
次の瞬間。
守護騎士が、凄まじい速度で踏み込んできた。
ドォン!!
巨大な大剣が、俺へ振り下ろされる。
俺は、半歩だけ横へ動いた。
ズガァン!!
大剣が石畳へ叩きつけられ、床が大きく砕けた。
……なるほど。
威力は高い。
だが。
……動きが、少し単調だな。
俺は、静かに息を吐いた。
そして。
一歩踏み込んだ。
キィン!
俺の剣が、守護騎士の腕を捉える。
次の瞬間。
ガキィン!!
重厚な装甲に、深い亀裂が入った。
「……なっ!?」
ベルナールが、驚愕した。
「……古代守護騎士の装甲に、傷を!?」
俺は、静かに微笑んだ。
「……悪くない鎧だな」
そして。
「……だが、少し硬いだけだ」
次の瞬間。
俺は、剣を振り抜いた。
ザンッ!!
守護騎士の右腕が、肩から切り離された。
巨大な大剣が、床へ落ちる。
ドォン!!
地下神殿が、大きく揺れた。
◇◆◇
ベルナールは、信じられないものを見るように俺を見つめていた。
「……馬鹿な」
その声には、明らかな動揺があった。
「……古代の守護騎士が、こうも簡単に……!」
俺は、静かに答えた。
「……簡単ではないさ」
そして。
「……相手が、俺だっただけだ」
ベルナールの表情が、険しくなった。
だが。
次の瞬間。
彼は、突然笑い始めた。
「……ははは……!」
俺は、静かに目を細めた。
「……何がおかしい?」
ベルナールは、ゆっくりと顔を上げた。
「……やはり、素晴らしい」
その瞳には、狂気じみた光が宿っていた。
「……あなたこそ、我々が求めていた存在だ」
……我々?
俺は、静かに眉をひそめた。
「……何の話だ?」
ベルナールは、静かに微笑んだ。
「……七星王家の復活」
その言葉に、俺の瞳がわずかに動いた。
「……七星王家?」
「……そうです」
ベルナールは、静かに頷いた。
「……我々は、消された王家の正統なる継承者」
そして。
「……この国を、本来あるべき姿へ戻す者たちです」
……なるほど。
俺は、静かに息を吐いた。
……こいつらの目的は、王国の支配か。
◇◆◇
「……そのために、王太子殿下を利用したのか?」
俺が尋ねると、ベルナールは平然と答えた。
「……当然でしょう」
そして。
「……王家の血は、封印を解くために必要ですから」
俺は、静かに目を細めた。
……やはり。
アドリアン殿下は、最初から道具だったのか。
俺は、祭壇へ視線を向けた。
黒い鎖に拘束された王太子。
その顔には、恐怖と怒りが入り混じっていた。
「……ベルナール……!」
アドリアンが、震える声で呟く。
「……私は、お前を信じていた……!」
ベルナールは、冷たく笑った。
「……それが、あなたの弱さです」
その瞬間。
アドリアンの表情が、絶望に染まった。
◇◆◇
俺は、静かに右手を上げた。
《万有引力》。
祭壇へ作用する重力を調整し、黒い鎖の動きを止める。
だが。
……妙だな。
鎖の一部が、王太子の魂へ繋がっている。
無理に破壊すれば、魂そのものへ傷をつける可能性がある。
……厄介だな。
俺は、静かに息を吐いた。
「……エレノア」
「……はい!」
「……殿下の身体を支えてくれ」
エレノアは、すぐに祭壇へ駆け寄った。
俺は、右手を上げた。
《無限神力》。
神力を細かく調整し、魂縛りの術式へ流し込む。
……慎重に。
……一つずつ。
黒い鎖が、ゆっくりとほどけていく。
そして。
パキィン!
最後の鎖が、静かに消えた。
アドリアンの身体が、祭壇から崩れ落ちる。
エレノアが、すぐに支えた。
「……殿下!」
俺は、静かに頷いた。
「……もう大丈夫です」
アドリアンは、呆然と俺を見つめていた。
「……なぜ……」
その声は、震えていた。
「……なぜ、私を助けた……?」
俺は、穏やかに答えた。
「……何度も言わせないでください」
そして。
「……助けられる命を、見捨てる理由がありません」
アドリアンは、何も言えなかった。
◇◆◇
そのとき。
ベルナールが、突然祭壇へ手をかざした。
「……ならば!」
黒い魔力が、激しく噴き上がる。
「……封印そのものを、破壊してくれる!」
次の瞬間。
地下神殿全体が、大きく揺れた。
天井から、石片が落ち始める。
「……レオンハルト様!」
エレノアが、叫んだ。
俺は、静かに目を細めた。
……自爆する気か。
……やれやれ。
俺は、右手を上げた。
《万有引力》。
崩れ落ちる石片を、空中で停止させる。
そして。
《無限神力》。
暴走する魔力を、強制的に安定させる。
その瞬間。
地下神殿を覆っていた黒い光が、ゆっくりと消えていった。
「……馬鹿な!?」
ベルナールが、叫ぶ。
「……封印崩壊を、止めただと!?」
俺は、静かに微笑んだ。
「……悪いな」
そして。
「……そう簡単には、壊させない」
◇◆◇
だが。
次の瞬間。
ベルナールの身体が、黒い光に包まれた。
「……っ!?」
俺は、静かに目を細めた。
……転移魔法か?
ベルナールは、薄く笑った。
「……今回は、ここまでとしましょう」
俺は、すぐに右手を上げた。
《万有引力》。
空間を固定し、転移を阻止しようとする。
だが。
……違う。
これは、通常の転移魔法じゃない。
魂そのものを、別の場所へ移す術式。
……まさか。
俺は、静かに息を呑んだ。
ベルナールの身体が、ゆっくりと崩れ始めた。
「……この身体は、仮初めの器」
その声には、冷たい笑みが混じっていた。
「……本当の私は、別の場所におります」
……何だと?
俺は、静かに目を細めた。
……魂の遠隔操作?
なるほど。
だから、今まで正体を掴めなかったのか。
ベルナールは、最後に一言だけ残した。
「……また、お会いしましょう」
そして。
黒い光と共に、その身体が崩れ落ちた。
◇◆◇
静寂。
地下神殿には、俺たちだけが残された。
アドリアンは、呆然と床へ座り込んでいた。
「……ベルナール……」
その声には、深い絶望が滲んでいた。
俺は、静かに近づいた。
「……殿下」
アドリアンが、顔を上げる。
「……レオンハルト……」
「……まずは、王城へ戻りましょう」
俺は、穏やかに続けた。
「……陛下が、心配されています」
アドリアンは、しばらく黙っていた。
そして。
小さく頷いた。
「……ああ」
その声は、弱々しかった。
◇◆◇
王城。
国王執務室。
俺たちは、事件の経緯を報告していた。
国王アレクシスは、険しい表情で話を聞いていた。
そして。
「……アドリアン」
静かに息子の名前を呼んだ。
アドリアンは、俯いたまま答えた。
「……はい」
「……お前は、何をしていたのだ」
その声には、怒りと失望が混じっていた。
アドリアンは、何も答えられなかった。
だが。
しばらくして。
「……父上」
小さく口を開いた。
「……私は、間違っていたのかもしれません」
国王は、静かに息を吐いた。
「……そのことを、よく考えよ」
そして。
「……当面、王太子としての公務を制限する」
アドリアンは、静かに頷いた。
「……承知いたしました」
◇◆◇
その夜。
王都の地下。
黒衣の男は、静かに目を開いた。
その瞳には、冷たい光が宿っていた。
「……なるほど」
そして。
机の上に置かれた古い羊皮紙へ視線を向けた。
『黒星の器――覚醒予定年齢、十七歳』
男は、薄く笑った。
「……やはり、あの少年は特別だ」
そして。
「……次は、別の方法で試すとしよう」
その声と共に、黒い灯りが静かに揺れた。
――王太子の命は救われた。
だが、七星王家を名乗る者たちの陰謀は、まだ終わっていなかった。




