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『悪役公爵令息レオンハルト』  作者: 覇王が好き
第一章 運命を覆す者

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第34話 王太子の愚行と、地下神殿に仕掛けられた罠

第34話 王太子の愚行と、地下神殿に仕掛けられた罠


 王国暦八百二十一年、夏月十日。


 午後十一時。


 王都ルミナス、旧市街。


 昼間の賑わいが嘘のように、石畳の通りは静まり返っていた。


 街灯の魔石が淡い光を放ち、古い建物の壁へ長い影を落としている。


 その通りを、一台の黒い馬車が走っていた。


 御者台には、王宮内務局の制服を着た男。


 そして馬車の中には、王太子アドリアン・ルミナスと、その側近ベルナール・クロイツが座っていた。


「……本当に、この先に証拠があるのだな?」


 アドリアンが、険しい表情で尋ねた。


 ベルナールは、落ち着いた様子で頷いた。


「はい、殿下」


 そして、懐から一枚の古い地図を取り出した。


「この地下施設には、ヴァルディス公爵家と古代七星王家の関係を示す記録が残されている可能性がございます」


 アドリアンは、地図を睨んだ。


「……それが本当なら、父上も考えを改めるはずだ」


「おっしゃる通りです」


 ベルナールは、穏やかに微笑んだ。


「殿下こそが、王国の未来を守るお方なのですから」


 その言葉に、アドリアンの表情が少しだけ緩んだ。


 だが。


 彼は気づいていなかった。


 ベルナールの指先が、懐に隠された黒い魔石へ触れていたことに。


 ◇◆◇


 同じ頃。


 ヴァルディス公爵家、王都別邸。


「……王太子殿下が、旧市街へ?」


 俺は、セバスティアンの報告を聞きながら眉をひそめた。


「はい。ベルナール・クロイツと共に、王宮を出られたようです」


 ……やっぱりか。


 俺は、窓の外を見つめた。


 王都の夜景。


 その下には、古代七星文明の遺構がいくつも眠っている。


 ……嫌な予感がするな。


「……父上には?」


「すでに、ご報告しております」


 セバスティアンは、静かに頷いた。


「アルフォンス様は、国王陛下へ連絡を取られております」


 ……さすがだ。


 俺は、静かに息を吐いた。


 王太子が、夜中に不審な人物と地下施設へ向かう。


 普通なら、警戒して当然だ。


 だが。


 問題は、アドリアン殿下がこちらを信用していないことだ。


 ……直接止めても、逆効果かもしれない。


「……セバスティアン」


「はい」


「……エレノアを呼んでくれ」


「承知いたしました」


 数分後。


 銀髪の侍女が、静かに部屋へ入ってきた。


「……レオンハルト様」


「……今夜、少し出る」


 エレノアの表情が、すぐに引き締まった。


「……護衛ですね」


「ああ」


 俺は頷いた。


「……頼めるか?」


 彼女は、迷うことなく頭を下げた。


「……もちろんです」


 そして。


「……どこまでも、お供いたします」


 その声には、揺るぎない決意が宿っていた。


 ◇◆◇


 旧市街、地下神殿跡。


 アドリアンとベルナールは、古い石造りの階段を下りていた。


 壁には、七つの星を象った紋章が刻まれている。


「……こんな場所が、王都の地下にあったとは」


 アドリアンが、驚いたように呟いた。


 ベルナールは、静かに頷いた。


「王国の歴史には、記録されていない場所も多いのです」


 そして。


 大きな石扉の前で足を止めた。


「……こちらです」


 ベルナールが、扉へ手をかざした。


 黒い魔石が、淡く光る。


 ゴゴゴゴ……。


 巨大な扉が、ゆっくりと開いた。


 その先には、広い円形の空間があった。


 中央には、古い祭壇。


 そして、床一面に刻まれた複雑な魔法陣。


 ……何だ、これは。


 アドリアンは、思わず眉をひそめた。


「……ベルナール」


「はい」


「……証拠は、どこにある?」


 ベルナールは、静かに振り返った。


 そして。


 薄く笑った。


「……こちらでございます」


 その瞬間。


 床の魔法陣が、黒く輝いた。


「……っ!?」


 アドリアンが、咄嗟に後退する。


 だが。


 足元から、黒い鎖が伸びてきた。


「……何だ、これは!?」


 鎖は、アドリアンの手足へ絡みついた。


 そして。


 身体を、祭壇の中央へ引き寄せ始めた。


「……ベルナール!!」


 アドリアンが、怒鳴った。


「……どういうことだ!?」


 ベルナールは、静かに頭を下げた。


「……申し訳ございません、殿下」


 その声には、まったく感情がなかった。


「……あなたには、重要な役目がございます」


 アドリアンの瞳が、大きく見開かれた。


「……役目だと!?」


「……はい」


 ベルナールは、静かに続けた。


「……王家の血を持つ者だけが、開けられる扉があるのです」


 そして。


「……そのために、殿下をお連れしました」


 アドリアンは、必死に抵抗した。


「……貴様、私を裏切ったのか!!」


 ベルナールは、薄く微笑んだ。


「……最初から、あなたの味方だったことなどございません」


 その瞬間。


 アドリアンの顔から、血の気が引いた。


 ◇◆◇


 地下神殿の外。


 俺とエレノアは、古い石造りの入口へ辿り着いていた。


「……レオンハルト様」


 エレノアが、静かに声をかけた。


「……中から、強い魔力反応があります」


「ああ」


 俺は頷いた。


 ……しかも。


 この魔力。


 以前の魂縛りの儀式と、よく似ている。


 ……まさか。


 俺は、静かに目を細めた。


「……急ぐぞ」


「……はい!」


 俺たちは、階段を駆け下りた。


 ◇◆◇


 地下神殿、祭壇。


 アドリアンは、黒い鎖に拘束されていた。


「……やめろ!」


 彼は、必死に叫んだ。


「……私は、王太子だぞ!!」


 ベルナールは、冷たく答えた。


「……存じております」


 そして。


「……だからこそ、必要なのです」


 祭壇の中央に、黒い結晶が浮かび上がった。


 七つの星が、一斉に光る。


 ……王家の血。


 ……七星の封印。


 ……そして、黒き暴君。


 ベルナールは、静かに微笑んだ。


「……これで、次の段階へ進める」


 そのとき。


「……そこまでだ」


 低い声が、地下神殿へ響いた。


 ベルナールが、ゆっくりと振り返った。


 入口には、黒髪と深紅の瞳を持つ少年が立っていた。


 レオンハルト・ヴァルディス。


 そして、その隣には銀髪の侍女エレノア。


「……レオンハルト」


 ベルナールの瞳が、わずかに動いた。


 俺は、静かに微笑んだ。


「……ずいぶんと、面白いことをしているな」


 そして。


 祭壇へ視線を向けた。


「……王太子殿下を、人質にするとは」


 アドリアンが、驚いたように俺を見た。


「……レオンハルト!?」


 俺は、静かに頷いた。


「……助けに来ました」


 その言葉に、アドリアンの表情が複雑に歪んだ。


「……なぜだ……?」


 俺は、少しだけ首を傾げた。


「……何がです?」


「……なぜ、私を助ける!?」


 俺は、静かに答えた。


「……見捨てる理由がありませんから」


 アドリアンは、言葉を失った。


 ◇◆◇


 ベルナールは、静かに笑った。


「……なるほど」


 そして。


「……やはり、来ましたか」


 俺は、静かに目を細めた。


「……俺を誘い出すことも、目的だったのか?」


「……ご明察です」


 ベルナールは、ゆっくりと頭を下げた。


「……さすがは、黒き暴君」


 次の瞬間。


 祭壇の周囲に、無数の黒い魔法陣が現れた。


 そして。


 巨大な黒い鎧の騎士が、ゆっくりと姿を現した。


 身長は、三メートル以上。


 全身を覆う重厚な鎧。


 そして、赤く光る双眼。


 ……古代の守護騎士か。


 俺は、静かに息を吐いた。


「……エレノア」


「……はい」


「……殿下を頼む」


 エレノアは、静かに頷いた。


「……承知いたしました」


 俺は、ゆっくりと前へ出た。


 そして。


 腰の剣へ手をかけた。


「……さて」


 深紅の瞳が、静かに光る。


「……始めようか」


 ――王太子を利用した罠。


 その中心で、黒き公爵令息は静かに剣を抜いた。

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