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『悪役公爵令息レオンハルト』  作者: 覇王が好き
第一章 運命を覆す者

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第29話 銀髪の王女と、黒き暴君が交わした約束

第29話 銀髪の王女と、黒き暴君が交わした約束


 王国暦八百二十一年、夏月五日。


 王城、薔薇の庭園。


 夕暮れの陽光が、庭園を柔らかな橙色に染めていた。


 俺とセレスは、白い石造りのベンチへ腰を下ろしていた。


 周囲には、赤や白の薔薇が咲き誇っている。


 遠くから、噴水の水音が聞こえてきた。


「……ねえ、レオン」


 セレスが、静かに口を開いた。


「……最近、何か隠してるでしょ?」


 俺は、少しだけ驚いた。


「……どうして?」


 彼女は、じっと俺を見つめた。


「……顔を見れば、わかるわ」


 その言葉に、俺は苦笑した。


 ……幼馴染って、凄いな。


 俺は、少しだけ考えた。


 七星王家。


 黒星の観測記録。


 そして、十七歳の運命。


 ……全部を話すわけにはいかない。


 だが。


 彼女に、嘘をつきたくもなかった。


「……少し、厄介なことが起きている」


 俺は、静かに答えた。


「……そう」


 セレスは、ゆっくりと頷いた。


 そして。


「……危険なの?」


 その声には、不安が滲んでいた。


「……可能性はある」


 俺は、正直に答えた。


 セレスは、しばらく黙っていた。


 そして。


 小さく呟いた。


「……また、一人で抱え込むつもり?」


 俺は、思わず彼女を見た。


「……え?」


「……昔から、そうだったじゃない」


 セレスは、少しだけ寂しそうに微笑んだ。


「……誰かが困っていたら、すぐに助ける」


 そして。


「……でも、自分が困っていても、誰にも言わない」


 俺は、何も言えなかった。


 ……確かに。


 思い当たることがある。


 ◇◆◇


「……覚えてる?」


 セレスが、静かに尋ねた。


「……何を?」


「……七歳のときのこと」


 俺は、少しだけ考えた。


 ……七歳。


 原作レオンハルトの記憶が、頭の中へ浮かんでくる。


 王城の庭園。


 転んで泣いていた小さな王女。


 そして。


 その膝へ、回復魔法をかけた少年。


「……ああ」


 俺は、静かに微笑んだ。


「……転んで、膝を擦りむいたときだろ」


 セレスは、少しだけ頬を赤くした。


「……そうよ」


 そして。


「……あのとき、あなたは言ったの」


 彼女は、静かに続けた。


「……『泣くな。俺が治してやる』って」


 俺は、思わず苦笑した。


「……随分、偉そうだな」


「……本当にね」


 セレスも、小さく笑った。


 だが。


 その表情は、すぐに真剣なものへ変わった。


「……でも、嬉しかった」


 俺は、彼女を見た。


「……どうして?」


 セレスは、少しだけ目を伏せた。


「……王女だから、って理由じゃなかったから」


 その声は、静かだった。


「……ただ、私が泣いていたから、助けてくれた」


 俺は、しばらく黙っていた。


 ……そうか。


 そんなふうに、覚えていてくれたのか。


 ◇◆◇


「……レオン」


 セレスが、静かに俺の名前を呼んだ。


「……ん?」


「……今度は、私が助けたいの」


 俺は、少しだけ驚いた。


「……セレスが?」


「……そうよ」


 彼女は、真っ直ぐに俺を見つめた。


「……あなたが困っているなら、私も力になりたい」


 その瞳には、確かな決意が宿っていた。


「……王女としてできることも、きっとあるはずだから」


 俺は、静かに息を吐いた。


 ……そうだな。


 彼女は、ただ守られるだけの存在じゃない。


 第一王女。


 そして。


 俺の、大切な幼馴染だ。


「……ありがとう」


 俺は、穏やかに微笑んだ。


「……そのときは、頼むよ」


 セレスの顔が、ぱっと明るくなった。


「……本当?」


「ああ」


 俺は、静かに頷いた。


「……約束だ」


 その瞬間。


 セレスは、嬉しそうに微笑んだ。


 ◇◆◇


 しばらくして。


 庭園に、夜の気配が近づいてきた。


 セレスは、静かに立ち上がった。


「……そろそろ、戻らないと」


「……そうだな」


 俺も、立ち上がった。


 すると。


 セレスが、突然俺の袖を掴んだ。


「……レオン」


「……ん?」


 彼女は、少しだけ顔を赤くしていた。


「……もう一つ、お願いがあるの」


「……何だ?」


 セレスは、少しだけ迷った。


 そして。


「……今度、二人で街へ行かない?」


 俺は、思わず目を瞬かせた。


「……街?」


「……そう」


 彼女は、静かに頷いた。


「……王女としてじゃなくて、ただのセレスとして」


 その声には、小さな期待が宿っていた。


 俺は、少しだけ考えた。


 ……なるほど。


 王女としての生活は、自由が少ない。


 たまには、普通の女の子として過ごしたいのだろう。


「……いいよ」


 俺は、穏やかに微笑んだ。


「……都合のいい日を決めよう」


 セレスの瞳が、大きく見開かれた。


「……本当!?」


「ああ」


 俺は、静かに頷いた。


 すると。


 セレスは、嬉しそうに笑った。


「……約束だからね!」


 そして。


 小さく呟いた。


「……絶対、忘れないでよ」


 俺は、苦笑した。


「……わかってる」


 ◇◆◇


 その頃。


 ヴァルディス公爵家王都別邸。


 エレノアは、レオンハルトの帰りを待っていた。


 窓の外には、夕暮れの空が広がっている。


「……レオンハルト様」


 彼女は、小さく呟いた。


 最近、レオンハルトの周囲には多くの少女が集まっている。


 第一王女セレスティア。


 聖女エリシア。


 天才魔導少女リゼット。


 そして、紅蓮の騎士令嬢アリシア。


 ……皆様、素敵な方ばかり。


 エレノアは、静かに微笑んだ。


 だが。


 胸の奥には、小さな痛みがあった。


 ……私は、ただの侍女。


 身分も、立場も違う。


 それでも。


 彼女は、そっと胸へ手を当てた。


 ……この気持ちだけは、誰にも負けません。


 六年前。


 絶望の中から、自分を救い出してくれた少年。


 その手の温もりを、彼女は今も覚えていた。


 ……レオンハルト様。


 私は、ずっとお傍におります。


 たとえ、どんな未来が待っていても。


 ◇◆◇


 夜。


 ヴァルディス公爵家王都別邸。


 俺が帰宅すると、エレノアが玄関で迎えてくれた。


「……お帰りなさいませ、レオンハルト様」


「……ただいま」


 俺は、穏やかに微笑んだ。


 彼女は、少しだけ俺を見つめた。


「……今日は、セレスティア様とお話しされたのですか?」


「ああ」


 俺は頷いた。


「……少しな」


「……そうですか」


 エレノアは、静かに微笑んだ。


 だが。


 その笑顔には、少しだけ寂しさが混じっていた。


 俺は、思わず首を傾げた。


「……どうした?」


「……いえ」


 彼女は、首を振った。


「……何でもございません」


 ……本当に?


 俺は、少しだけ考えた。


 そして。


「……エレノア」


「……はい?」


「……今度、休みの日に街へ行かないか?」


 彼女の瞳が、大きく見開かれた。


「……え?」


「……たまには、仕事を忘れて出かけるのもいいだろ」


 俺は、穏やかに微笑んだ。


「……いつも、世話になってるしな」


 エレノアは、しばらく固まっていた。


 そして。


 顔を真っ赤にした。


「……レ、レオンハルト様!?」


「……ん?」


「……そ、それは……!」


 彼女は、必死に言葉を探していた。


 だが。


 やがて、小さく頷いた。


「……はい」


 その声は、震えていた。


「……ぜひ、ご一緒させてください」


 俺は、静かに微笑んだ。


「……決まりだな」


 その瞬間。


 エレノアの表情が、花が咲いたように明るくなった。


 ◇◆◇


 その夜。


 王城の一室。


 第一王女セレスティアは、鏡の前に立っていた。


「……街へ、お出かけ」


 彼女は、小さく呟いた。


 そして。


 頬を赤くした。


「……レオンと、二人で……」


 その表情には、隠しきれない喜びが宿っていた。


 だが。


 次の瞬間。


 彼女は、ふと真剣な表情になった。


「……レオン」


 小さく、その名前を呼ぶ。


「……絶対に、守るから」


 彼女は、静かに拳を握った。


 ……王女として。


 そして。


 ……一人の女の子として。


 ◇◆◇


 同じ頃。


 王都の地下。


 黒衣の男は、机の上に置かれた報告書を読んでいた。


「……第一王女が、レオンハルトへ接近している?」


「……はい」


 部下が答えた。


 男は、静かに笑った。


「……なるほど」


 そして。


「……ならば、利用できる」


 その声には、冷たい計算が宿っていた。


「……王女の存在は、あの少年にとって弱点となる」


 部下が、恐る恐る尋ねた。


「……次の標的は、第一王女ですか?」


 男は、しばらく黙っていた。


 そして。


「……まだだ」


 静かに答えた。


「……まずは、王宮内部の駒を動かす」


 その言葉と共に、一枚の書類が机へ置かれた。


 そこには、王太子アドリアン・ルミナスの名前が記されていた。


 ――黒き暴君と銀髪の王女が交わした小さな約束。


 その裏で、王宮を揺るがす新たな陰謀が動き始めていた。

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