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『悪役公爵令息レオンハルト』  作者: 覇王が好き
第四章 黒獅子の戦旗――七星の公爵令息と帝国戦争

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第180話 黒獅子と七星――北西の村を守る親子

 グランフェル要塞、北西街道。


 朝靄の残る丘陵地帯を、二騎の馬が駆け抜けていた。


 一人は漆黒の外套をまとった壮年の騎士。


 ヴァルディス公爵家当主、アルフォンス・ヴァルディス。


《黒獅子》の異名を持つ、王国最強の剣士の一人。


 そして、もう一人。


 黒髪に七色の魔力を宿す少年。


 レオンハルト・ヴァルディス。


 俺は馬上から、遠方の森を見つめていた。


「……父上。敵の反応が増えています」


「数は?」


「およそ千二百。三つの部隊に分かれて移動しています」


 父上は静かに頷いた。


「……やはり、集落を包囲するつもりか」


 俺は魔力探知をさらに広げた。


 森の向こうには、小さな村がある。


 村の周囲には、まだ避難しきれていない住民たちが集まっていた。


 数は、百五十名ほど。


 老人や子供も多い。


「……急ぎましょう」


「ああ」


 父上は手綱を引いた。


 黒獅子の外套が、朝風に大きく翻る。


「レオン。今日は、お前と私で村を守る」


「はい!」


 俺は力強く頷いた。


 * * *


 北西の村、ハルディア。


 村の広場には、避難を待つ住民たちが集まっていた。


 王国軍の護衛兵は、わずか四十名。


 彼らは必死に馬車を準備し、老人や子供たちを乗せている。


「急げ!」


 護衛隊長が叫ぶ。


「帝国軍が近づいている!」


 そのとき。


 森の奥から、無数の足音が響いた。


 帝国軍の歩兵部隊が、村の入口へ姿を現す。


 その数、約四百。


 指揮官は馬上から村を見下ろした。


「……ここか」


 男は冷たく笑った。


「食料と家畜を確保しろ。抵抗する者は斬り捨てろ」


 兵士たちが、一斉に動き出した。


 王国軍の護衛兵たちが、剣を抜く。


「……ここから先へは通さん!」


 護衛隊長が叫んだ。


 だが、帝国軍の指揮官は笑った。


「四十名で、我々を止めるつもりか?」


 その瞬間。


 空気が震えた。


 森の奥から、低く重い声が響く。


「――そこまでだ」


 帝国軍の兵士たちが振り返った。


 丘の上に、一人の男が立っていた。


 漆黒の外套。


 鋭い眼差し。


 そして、腰に下げた巨大な剣。


 アルフォンス・ヴァルディス。


 黒獅子が、戦場へ現れた。


 * * *


「……なっ!?」


 帝国軍の指揮官が、顔を青ざめさせた。


「……黒獅子!?」


 父上は、静かに剣を抜いた。


「王国の民へ手を出すことは、許さん」


 その声は、驚くほど落ち着いていた。


 だが。


 周囲の空気が、明らかに変わった。


 圧倒的な威圧感。


 まるで巨大な獅子が、獲物を見据えているかのようだった。


 帝国兵たちが、思わず後退する。


「……レオン」


 父上が静かに言った。


「村の住民を守れ」


「はい!」


 俺は右手を掲げた。


「――《七彩神星陣》!」


 七色の魔法陣が、村全体を覆った。


 光の結界が住民たちを包み込み、外部からの攻撃を遮断する。


 同時に、大地が盛り上がり、村へ続く道を塞いだ。


「……何だ、これは!?」


 帝国兵たちが叫ぶ。


 俺は静かに答えた。


「……これ以上、村へは入れません」


 * * *


 帝国軍の指揮官は、歯を食いしばった。


「……構うな!」


 剣を掲げる。


「全軍、突撃!」


 帝国兵たちが、一斉に動き出した。


 だが。


 父上は、静かに一歩踏み出した。


「……愚かな」


 漆黒の魔力が、剣へ集まる。


「――《黒獅子烈破》!」


 次の瞬間。


 巨大な黒い斬撃が、地面を駆け抜けた。


 帝国軍の先頭部隊が、まとめて吹き飛ばされる。


 大地が裂け、衝撃波が森の入口を薙ぎ払った。


「ぐあああっ!」


 帝国兵たちが、次々と倒れる。


 父上は、さらに踏み込んだ。


 その動きは、速すぎて目で追えない。


 一閃。


 二閃。


 三閃。


 帝国兵たちの武器が砕け、鎧が裂ける。


 なおも斬りかかる兵士たちは、黒獅子の剣によって次々と倒された。


 だが、武器を捨てた者には、それ以上攻撃しなかった。


 俺は、その姿を見つめていた。


 ……これが、父上の戦い方。


 迷いがない。


 だが、無闇に命を奪っているわけでもない。


 必要な相手だけを、確実に止めている。


 その姿が、俺には強く印象に残った。


 * * *


 そのとき。


 森の反対側から、帝国軍の別働隊が現れた。


 数は、約五百。


 村の裏手へ回り込み、避難路を塞ごうとしている。


「……レオン!」


 父上が叫ぶ。


「裏手を頼む!」


「はい!」


 俺は転移魔法を発動した。


 次の瞬間。


 村の裏手へ移動していた。


 帝国軍の騎兵たちが、馬車へ迫っている。


「……止まれ!」


 俺は右手を掲げた。


「――《大地封鎖》!」


 巨大な岩壁が、騎兵の進路を塞いだ。


 馬たちが驚き、足を止める。


 俺は続けて魔法を発動した。


「――《雷鎖封縛》!」


 雷の鎖が騎兵たちの武器を弾き飛ばし、身体を拘束する。


 だが。


 一人の帝国兵が、馬車へ向かって弓を引いた。


 その先には、幼い子供が座っている。


 俺の瞳が、鋭く光った。


「……やめろ」


 帝国兵は、矢を放った。


 俺は即座に風魔法を発動し、矢を吹き飛ばす。


 そして、次の瞬間。


 雷の槍が、帝国兵の肩を貫いた。


「ぐあっ!」


 兵士は地面へ倒れた。


 俺は、その姿を見つめた。


 ……殺さずに済んだ。


 だが、もし間に合わなかったなら。


 俺は、迷わず致命の一撃を放っていただろう。


 その覚悟は、既に胸の中にあった。


 * * *


 戦闘開始から、わずか三十分。


 帝国軍の先頭部隊と別働隊は、完全に制圧されていた。


 残る帝国軍も、王国軍の増援が到着したことで撤退を始めている。


 村の住民百五十名は、全員無事だった。


 俺は、安堵の息を吐いた。


「……よかった」


 父上が隣へ歩いてきた。


「よくやった、レオン」


「ありがとうございます」


 俺は微笑んだ。


 父上は、村の住民たちを見つめた。


「……これが、守るということだ」


 俺は頷いた。


「……はい」


 そのとき。


 遠方の丘の上に、深紅の鎧をまとった少女が現れた。


 長い赤髪。


 黄金の瞳。


 そして、腰に下げた美しい剣。


 ヴァレリア・ローゼンベルク。


 帝国軍の若き女将軍だった。


 彼女は、村の惨状を見つめていた。


 そして。


 静かに呟いた。


「……間に合わなかったか」


 その声には、深い悔しさが滲んでいた。


 * * *


 ヴァレリアは、馬から降りた。


 そして、ゆっくりと俺たちへ歩み寄ってきた。


 王国軍の騎士たちが、剣を構える。


「……帝国軍の将軍だ!」


 だが、俺は右手を掲げた。


「……待ってください」


 騎士たちが、動きを止める。


 俺は、ヴァレリアを見つめた。


「……ヴァレリアさん」


 彼女は、静かに頷いた。


「……レオンハルト」


 そして、父上へ視線を向けた。


「……黒獅子、アルフォンス・ヴァルディス殿」


 父上は静かに頷いた。


「……ローゼンベルク将軍か」


 ヴァレリアは、深く頭を下げた。


「……今回の作戦について、帝国軍の将軍として謝罪する」


 王国軍の騎士たちが、驚いた顔をした。


 俺も、少しだけ目を見開いた。


 ヴァレリアは続けた。


「民間人を狙う命令が下されたと知り、止めようとした。だが、間に合わなかった」


 父上は、しばらく彼女を見つめていた。


 そして、静かに口を開いた。


「……謝罪だけでは、失われた命は戻らん」


 ヴァレリアは頷いた。


「……分かっている」


 父上は続けた。


「だが、今回の村では民間人に死者は出ていない」


 ヴァレリアの瞳が、わずかに揺れた。


「……そうか」


 俺は静かに頷いた。


「……はい。全員、無事です」


 ヴァレリアは、深く息を吐いた。


「……よかった」


 その言葉は、心からのものに聞こえた。


 だが。


 戦争は、まだ終わっていない。


 そして。


 この出会いが、帝国軍の内部に大きな波紋を広げることになる。



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