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『悪役公爵令息レオンハルト』  作者: 覇王が好き
第四章 黒獅子の戦旗――七星の公爵令息と帝国戦争

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第165話 黒狼と白銀の女帝――双璧の大反撃

 グランフェル要塞東南部。


 王国軍の補給路へ続く谷には、帝国軍の大部隊が集結していた。


 南方部隊の残存兵。


 東方から進軍してきた軽騎兵。


 そして、後方から投入された新たな歩兵部隊。


 その総数は、一万六千。


 彼らの目的は、王国軍の補給路を完全に遮断することだった。


「急げ! 王国軍の援軍が来る前に谷を突破しろ!」


 帝国軍の指揮官が叫ぶ。


 狭い谷を抜ければ、東方の街道へ出られる。


 そこを押さえれば、グランフェル要塞への食料と医薬品の輸送を断つことができる。


 帝国軍にとって、戦局を覆す重要な作戦だった。


 だが。


 彼らはまだ知らなかった。


 その谷こそが、黒狼と白銀の女帝によって選ばれた戦場であることを。


 * * *


 谷の上空。


 銀色の魔法陣が、静かに展開されていた。


 イザベラ・シルヴェイン。


《白銀の女帝》。


 彼女は高台に立ち、眼下の帝国軍を見つめていた。


「……予定どおりですわね」


 銀色の瞳が細くなる。


 帝国軍の先頭部隊が、谷の中央へ進んだ。


 その瞬間。


 イザベラは右手を掲げた。


「――《白銀封鎖・天鎖陣》」


 巨大な銀色の魔法陣が、谷全体を覆った。


 次の瞬間、地面から無数の光の鎖が伸び、帝国軍の進軍経路を遮断する。


「な、何だ!?」


「魔法陣だ!」


「前へ進めない!」


 兵士たちが混乱する。


 さらに、谷の左右には巨大な銀色の壁が出現した。


 帝国軍は、狭い通路へ押し込められる形となった。


「……これは、罠か!」


 指揮官が叫ぶ。


 だが、既に遅かった。


 イザベラは静かに呟いた。


「……レオナード。準備は整いましたわ」


 * * *


 谷の入口。


 黒い鎧をまとった男が、一人立っていた。


 レオナード・ヴァルディス。


《黒狼》。


 彼は大剣を肩に担ぎ、眼前の帝国軍を眺めていた。


「……おう。ずいぶん集まったじゃねえか」


 帝国兵たちが顔を青ざめさせる。


「……黒狼!」


「何で、ここに……!」


 レオナードは笑った。


「悪いが、ここから先は通行止めだ」


 彼は大剣を構えた。


 黒い魔力が刃へ集まる。


「……さあ、始めようぜ!」


《黒狼震天斬》


 漆黒の斬撃が、大地を裂くように走った。


 谷の中央へ向かって、巨大な衝撃波が突き進む。


 最前列の帝国兵たちが、まとめて吹き飛ばされた。


 盾が砕け、鎧が裂ける。


 地面が抉れ、土煙が舞い上がる。


「うわあああっ!」


「前線が崩壊した!」


 帝国軍の指揮官が叫ぶ。


「魔導兵! 反撃しろ!」


 後方の魔導兵たちが、一斉に魔法を放つ。


 炎。


 雷。


 氷。


 無数の魔法がレオナードへ向かって飛翔する。


 だが、その瞬間。


 銀色の結界が彼の前方へ現れた。


《白銀天幕》


 すべての魔法が、結界へ激突して消滅した。


「……ありがとよ、イザベラ!」


 レオナードが笑う。


『当然ですわ。あなたは前だけ見ていなさい』


「おう!」


 彼は再び大剣を振るった。


《黒狼烈破》


 漆黒の衝撃波が、帝国軍の中央部隊を貫いた。


 数百の兵士が倒れ、陣形が崩壊する。


 帝国軍の指揮官は、呆然と立ち尽くした。


「……馬鹿な」


 黒狼の攻撃力。


 白銀の女帝の防御力。


 その二つが組み合わさったとき、帝国軍の攻撃はほとんど意味をなさなかった。


 * * *


 イザベラは高台から戦場を見下ろしていた。


 彼女の周囲には、無数の銀色の魔法陣が浮かんでいる。


「……次はこちらですわね」


 右手を掲げる。


《白銀流星雨》


 銀色の魔力弾が、空から降り注いだ。


 狙いは、帝国軍の後方に配置された魔導兵部隊。


 魔法陣が次々と破壊され、魔導兵たちが倒れていく。


「魔導兵部隊、壊滅!」


「後方からも攻撃が!」


 帝国軍は、完全に混乱していた。


 レオナードは前方から進撃し、イザベラは上空から攻撃する。


 逃げ道は銀色の結界によって制限され、指揮系統は次々と崩壊していく。


 もはや、組織的な反撃など不可能だった。


「……これが」


 帝国軍の指揮官は、震える声で呟いた。


「……黒狼と、白銀の女帝……!」


 * * *


 戦闘開始から、わずか一時間。


 帝国軍一万六千のうち、数千が戦死・負傷し、残る兵士たちも統制を失っていた。


 指揮官は、震える手で剣を握りしめる。


「……撤退だ!」


 しかし、後方には銀色の壁が立ちはだかっていた。


「退路がありません!」


「くそっ……!」


 そのとき、レオナードの声が響いた。


「……おい」


 帝国軍の兵士たちが顔を上げる。


「まだ戦う気があるなら相手してやる。だが、武器を捨てるなら命までは取らねえ」


 静かな声だった。


 だが、その言葉には絶対的な威圧感があった。


 指揮官は周囲を見渡した。


 倒れた兵士たち。


 砕けた武器。


 そして、悠然と立つ黒狼。


 勝ち目など、どこにもなかった。


「……降伏する」


 指揮官が剣を地面へ落とした。


 それを合図に、兵士たちが次々と武器を捨て始める。


 イザベラは銀色の結界を変化させ、降伏した兵士たちを一か所へ誘導した。


「降伏した者は、こちらへ。負傷者には治療を施します」


 レオナードは大剣を肩に担いだ。


「……よし。終わりだ」


 帝国軍東南部隊は、事実上壊滅した。


 * * *


 グランフェル要塞。


 王国軍の作戦室に、勝利の報告が届いた。


「東南部の帝国軍、一万六千を撃破!」


「敵の戦死・負傷者多数! 残存部隊の多くが降伏しました!」


「補給路の安全を確保しました!」


 将校たちが歓声を上げた。


「やったぞ!」


「これで、食料と医薬品が届く!」


 しかし、王国軍の指揮官はすぐに表情を引き締めた。


「……まだ終わっていない」


 地図には、帝国軍の大部隊が残っていた。


 正面。


 北方。


 そして、後方の予備兵力。


 帝国軍は大きな損害を受けた。


 だが、なお王国軍を上回る戦力を保持している。


 さらに、王国軍自身も連日の戦闘で疲弊していた。


 補給路を守れても、食料が無限にあるわけではない。


 負傷者を治療できても、失われた兵士が戻るわけではない。


 * * *


 夕暮れ。


 レオナードとイザベラは、要塞の城壁に並んで立っていた。


 遠方には、帝国軍の野営地が広がっている。


「……派手にやったな」


 レオナードが笑う。


 イザベラは静かに微笑んだ。


「ええ。ですが、必要な戦いでしたわ」


「ああ」


 レオナードは頷いた。


「これで、しばらくは補給路が使える」


 イザベラは、要塞の内側を見下ろした。


 そこでは、負傷兵たちが治療を受けている。


「……レオナード」


「ん?」


「もし、レオンがこの戦場にいたら、どうしたでしょうね」


 レオナードは少し考えた。


 そして、苦笑した。


「……あいつなら、全員殺さずに何とかしようとするだろうな」


「ええ」


 イザベラは頷いた。


「優しい子ですもの」


 レオナードは遠くを見つめた。


「……だが、戦場じゃそれが命取りになることもある」


 その声には、経験からくる重みがあった。


「敵を生かした結果、味方が死ぬことだってある。俺たちは、それを何度も見てきた」


 イザベラは静かに答えた。


「だからこそ、あの子には学んでほしいのです」


「……何を?」


「優しさを捨てるのではなく、守るために必要な覚悟を持つことを」


 レオナードは小さく笑った。


「……ああ」


 彼は夜空を見上げた。


「レオンなら、きっと分かるさ」


 遠く、王都の方角。


 そこには、まだ戦場を知らない少年がいる。


 レオンハルト・ヴァルディス。


 圧倒的な力と、誰よりも優しい心を持つ少年。


 彼がこの戦場へ立つとき。


 その優しさは、初めて本当の意味で試されることになるのだった。



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