第15話 古代対魔法兵器と、黒き暴君の真の力
王国暦八百二十一年、春月二十五日。
旧王国転移中継所、地下第二層。
巨大な扉の前で、俺たちは足を止めていた。
扉の向こうから、異様な魔力が漂ってくる。
……これは。
俺は、静かに目を細めた。
魔力を吸収する装置。
原作ゲーム『エターナル・レガリア』で、レオンハルトを追い詰めた古代兵器。
その技術が、目の前にある。
「……レオンハルト」
父アルフォンスが、静かに声をかけた。
「……はい」
「……無理はするな」
俺は、少しだけ笑った。
「……わかっています」
父は、ゆっくりと頷いた。
「……なら、行こう」
母エレオノーラが、扉へ手をかざした。
「……《銀月解錠》」
銀色の魔力が、扉の表面を走る。
そして。
ゴゴゴゴ……。
巨大な扉が、ゆっくりと開いた。
◇◆◇
扉の向こうには、巨大な円形の空間が広がっていた。
直径百メートルほど。
天井は高く、中央には巨大な魔導装置が設置されている。
十二本の魔力導線。
無数の古代文字。
そして、中心に浮かぶ黒い結晶。
……なるほど。
これが、魔力吸収機構か。
「……凄い」
魔導院の調査官たちが、驚嘆の声を上げた。
「これほど大規模な古代装置が、王国内に残っていたとは……!」
だが。
母の表情は、険しかった。
「……レオンちゃん」
「……はい?」
「……この装置、普通の魔力吸収装置じゃないわ」
俺は、静かに頷いた。
「……そうですね」
魔力の流れが、不自然だ。
吸収した魔力を蓄えるだけではない。
特定の波長へ変換し、外部へ放出する構造になっている。
……つまり。
「……魔力を吸収して、攻撃へ転用する?」
母が、静かに頷いた。
「……その通りよ」
父の瞳が、鋭く光った。
「……厄介だな」
そのとき。
突然。
ゴゴゴゴ……!
巨大な魔導装置が、動き始めた。
「……なっ!?」
調査官たちが、驚愕する。
中央の黒い結晶が、赤く光った。
そして。
空間全体に、異様な圧力が広がった。
「……全員、下がれ!」
父の声が響いた。
護衛騎士たちが、調査官を守るように後退する。
だが。
次の瞬間。
魔導装置から、黒い光が放たれた。
「……っ!?」
俺は、咄嗟に右手を上げた。
《万有引力》。
空間を歪め、光の軌道を逸らす。
だが。
その瞬間。
……何だ?
俺の魔力が、わずかに引き込まれる感覚があった。
……なるほど。
これは、普通の魔法攻撃じゃない。
魔力そのものを吸い取る仕組みだ。
俺は、静かに息を吐いた。
……面白い。
だが。
相手が悪かったな。
◇◆◇
その頃。
地下遺構の制御室。
黒い外套をまとった男たちが、魔導装置の反応を確認していた。
「……起動成功!」
部下が叫んだ。
「……対象の魔力を吸収しています!」
黒衣の男は、満足そうに笑った。
「……よし」
その瞳には、冷たい光が宿っていた。
「……黒き暴君といえど、魔力を奪われれば無力だ」
だが。
次の瞬間。
部下の表情が、変わった。
「……なっ!?」
「……どうした?」
「……吸収量が……!」
魔導装置の計測器が、激しく揺れ始めた。
「……あり得ません!」
部下が、震える声で叫んだ。
「……魔力量が、測定限界を超えています!」
黒衣の男の顔から、笑みが消えた。
「……何?」
計測器の針が、振り切れる。
そして。
バキィン!
魔導装置の一部が、破裂した。
「……なっ!?」
男たちが、慌てて後退する。
「……どういうことだ!?」
部下が、震える声で答えた。
「……吸収しきれません!」
黒衣の男は、呆然と呟いた。
「……馬鹿な……」
その声には、初めて恐怖が混じっていた。
「……人間の魔力量では、ない……!」
◇◆◇
地下第二層。
俺は、静かに魔導装置を見つめていた。
……なるほど。
魔力を吸収する。
それ自体は、確かに強力な能力だ。
だが。
俺の《無限神力》は、通常の魔力とは根本的に異なる。
必要に応じて、神力を魔力へ変換できる。
そして、その供給量には実質的な限界がない。
……つまり。
相手が吸収しようとすればするほど、俺は魔力を供給できる。
だが、無制限に流し込めば施設全体が崩壊する可能性がある。
それでは、証拠が失われる。
……さて。
どうするか。
俺は、静かに右手を上げた。
《万有引力》。
魔力導線の流れを、わずかに変える。
そして。
《無限神力》。
必要最小限の神力を、装置の制御系へ流し込んだ。
次の瞬間。
魔導装置の動きが、変わった。
黒い結晶の光が、徐々に弱まっていく。
「……なっ!?」
調査官たちが、驚愕する。
「……装置が、停止していく……!」
母が、俺を見つめた。
「……レオンちゃん」
「……はい」
「……今、何をしたの?」
俺は、少しだけ笑った。
「……魔力の流れを、整えました」
母は、しばらく黙っていた。
そして。
にっこりと微笑んだ。
「……凄いわ♡」
……あ。
また始まる。
だが。
そのとき。
父が、静かに声を上げた。
「……待て」
俺は、振り返った。
「……父上?」
父は、部屋の奥を見つめていた。
「……誰かいる」
その瞬間。
空間の奥から、黒い外套をまとった男たちが姿を現した。
◇◆◇
「……まさか」
黒衣の男が、震える声で呟いた。
「……本当に、止めたのか……?」
俺は、静かに微笑んだ。
「……期待外れだったか?」
男の顔が、怒りに歪んだ。
「……化け物め!」
その瞬間。
父の表情が、変わった。
「……今、何と言った?」
低い声。
その一言で、空気が凍りついた。
黒衣の男が、思わず後退する。
「……っ!?」
父は、ゆっくりと前へ進んだ。
「……我が息子を」
一歩。
「……化け物と呼んだのか?」
その声には、凄まじい怒りが宿っていた。
……あ。
まずい。
俺は、思わず額に手を当てた。
「……父上」
「……レオンハルト」
「……落ち着いてください」
父は、静かに俺を見た。
「……私は、落ち着いている」
……絶対、嘘だ。
そのとき。
母も、静かに微笑んだ。
「……そうね」
銀色の魔力が、周囲に広がる。
「……私のレオンちゃんを、化け物だなんて」
……母上まで。
俺は、深くため息をついた。
「……お二人とも」
俺は、静かに告げた。
「……まずは、捕まえましょう」
父と母は、同時に俺を見た。
そして。
ゆっくりと頷いた。
「……そうだな」
「……そうね♡」
……よし。
何とか、落ち着いてくれた。
◇◆◇
黒衣の男たちは、必死に逃げようとしていた。
だが。
逃げ道は、すでに塞がれていた。
父アルフォンス。
母エレオノーラ。
そして、俺。
……正直に言って。
この三人を相手に逃げ切るのは、不可能だと思う。
「……くそっ!」
黒衣の男が、短剣を抜いた。
だが。
次の瞬間。
父が動いた。
……速い。
俺は、思わず目を細めた。
父の剣が、一閃する。
キィン!
男の短剣が、空中へ弾き飛ばされた。
そして。
父の剣先が、男の喉元へ突きつけられた。
「……動くな」
その声は、冷たかった。
男は、完全に戦意を失った。
他の者たちも、母の銀色の拘束魔法によって動きを封じられている。
……さすがだな。
俺は、静かに息を吐いた。
だが。
そのとき。
一人の男が、懐から黒い魔石を取り出した。
「……道連れだ!」
……っ!
俺は、咄嗟に右手を上げた。
《万有引力》。
魔石が、男の手から浮かび上がる。
そして。
俺の掌へ吸い寄せられた。
「……なっ!?」
男が、呆然とする。
俺は、静かに魔石を見つめた。
……自爆用の魔導具か。
危ないな。
俺は、神力で内部の術式を停止させた。
そして、静かに微笑んだ。
「……こういうものは、使わない方がいい」
男は、完全に絶望した表情を浮かべた。
◇◆◇
数時間後。
地下遺構の調査は、一段落していた。
魔導装置は停止。
黒衣の男たちは全員拘束。
そして、古代対魔法兵器に関する資料も、無事に保全された。
王国監察官ルドルフは、深々と頭を下げた。
「……ヴァルディス公爵閣下」
「……何だ?」
「……本日は、ご協力ありがとうございました」
父は、静かに頷いた。
「……当然のことをしたまでだ」
ルドルフは、俺へ視線を向けた。
「……レオンハルト様」
「……はい」
「……あなた様のお力がなければ、我々は全滅していたかもしれません」
俺は、少しだけ苦笑した。
「……大袈裟ですよ」
「……いいえ」
ルドルフは、真剣な表情で続けた。
「……あの装置は、通常の魔法使いでは対処できません」
……まあ。
確かに、厄介な装置だった。
だが。
俺には、一つ気になることがあった。
「……ルドルフ監察官」
「……はい」
「……この施設の資料、すべて確認できますか?」
「……もちろんです」
俺は、静かに頷いた。
「……では、研究記録を重点的に調べてください」
「……研究記録?」
「……はい」
俺は、中央の黒い結晶を見つめた。
「……この装置が、誰のために作られたのか」
そして。
静かに続けた。
「……それを、知りたいのです」
◇◆◇
その日の夜。
ヴァルディス公爵家別邸。
俺は、セバスティアンから報告を受けていた。
「……レオンハルト様」
「……何だ?」
「……旧転移中継所から回収された研究資料について、新たな事実が判明いたしました」
俺は、静かに目を細めた。
「……何だ?」
セバスティアンは、一枚の書類を差し出した。
「……古代対魔法兵器の研究記録です」
俺は、それを受け取った。
そして。
内容を読んだ瞬間。
思わず息を呑んだ。
『対魔法兵器開発計画――黒獅子対策』
……黒獅子。
父アルフォンスの異名。
俺は、静かに拳を握った。
……まさか。
この兵器は。
最初から、父上を倒すために研究されていたのか?
そのとき。
セバスティアンが、静かに続けた。
「……さらに、もう一つ」
「……何だ?」
「……研究資料の中に、別の計画名が記されておりました」
俺は、ゆっくりと顔を上げた。
「……計画名?」
セバスティアンは、静かに頷いた。
そして。
低い声で告げた。
「……《黒き暴君討伐計画》」
その瞬間。
俺の心臓が、大きく跳ねた。
……黒き暴君。
それは。
原作ゲームで、レオンハルトに与えられた異名。
そして。
彼を討伐するために、王国が動員した軍勢の作戦名でもあった。
……なるほど。
俺は、静かに目を細めた。
……すでに、ここまで進んでいるのか。
だが。
俺は、恐怖を感じなかった。
むしろ。
静かな怒りが、胸の奥に広がっていた。
……父上を狙い。
母上を遠ざけ。
俺を孤立させる。
そして。
最後には、すべてを奪うつもりか。
……いいだろう。
俺は、ゆっくりと立ち上がった。
「……セバスティアン」
「……はい」
「……この計画に関わった者を、すべて調べてくれ」
老執事は、静かに頭を下げた。
「……承知いたしました」
俺は、窓の外へ視線を向けた。
夜空には、無数の星が輝いている。
……原作では。
レオンハルトは、何も知らないまま戦いへ追い込まれた。
だが。
今は違う。
俺は、すでに敵の存在を知っている。
そして。
家族も、仲間もいる。
……なら。
運命の方を、変えてやる。
――黒き暴君と呼ばれた少年は、ついに自らの死へ繋がる計画の存在を知った。
そして、その瞳には、決して消えない決意の炎が宿っていた。




