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『悪役公爵令息レオンハルト』  作者: 覇王が好き
第三章 運命を奪われた勇者

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第143話 奪われた主人公の座――禁断の覚醒実験と勇者候補の選択

王国暦八二二年、新春月二十九日。


神託院地下特別監察区画。


厚い石壁。


窓のない部屋。


天井に埋め込まれた魔石灯が、冷たい白色の光を放っていた。


カイン・ヴェルナーは、椅子に座ったまま机を睨みつけていた。


……。


学園序列第一位。


レオンハルト・ヴァルディス。


……。


その名前が、頭から離れない。


「……ふざけるな」


低い声が漏れた。


……。


本来なら。


学園で注目されるのは、自分だったはずだ。


勇者候補として認められ。


強敵を倒し。


仲間を増やし。


ヒロインたちに囲まれる。


……。


それが、ゲームの主人公に用意された道だった。


……。


なのに。


……。


「……何で、あいつなんだよ」


……。


カインは、拳を握り締めた。


……。


リゼット。


エリシア。


セレスティア。


……。


誰も、自分を見ようとしない。


……。


それどころか。


……。


学園では、レオンハルトの名前ばかりが響いている。


……。


「……俺が、主人公なのに……!」


……。


そのとき。


……。


扉が、静かに開いた。


……。


「……随分と、悔しそうですね」


……。


セルディオ・クロイツ。


……。


神託院特別研究局局長補佐。


……。


黒い法衣をまとった男が、ゆっくりと入ってきた。


……。


「……何の用だ」


……。


カインが、睨みつける。


……。


セルディオは、静かに微笑んだ。


……。


「……あなたに、朗報があります」


……。


「……朗報?」


……。


「……はい」


……。


彼は、机の上へ一枚の書類を置いた。


……。


《勇者適性覚醒試験》


……。


その文字を見た瞬間。


……。


カインの瞳が、鋭く光った。


……。


「……何だ、これ」


……。


セルディオは、静かに答えた。


……。


「……あなたの潜在能力を、完全に解放するための試験です」


……。


……。


カインは、書類を掴んだ。


……。


「……本当に、強くなれるのか?」


……。


「……もちろんです」


……。


セルディオは、微笑んだ。


……。


「……ただし、危険は伴います」


……。


「……危険?」


……。


「……はい」


……。


「……あなたの魔力回路には、魔剣の影響が残っています」


……。


カインは、包帯の巻かれた右腕を見た。


……。


その下には、まだ黒い紋様が残っている。


……。


「……これが、何だってんだ」


……。


セルディオは、静かに言った。


……。


「……その残留魔力を利用すれば、通常の勇者候補では到達できない領域へ踏み込める可能性があります」


……。


カインの呼吸が、わずかに速くなった。


……。


「……つまり」


……。


「……レオンハルトを、超えられるのか?」


……。


セルディオは、しばらく黙っていた。


……。


そして。


……。


「……可能性は、あります」


……。


その言葉に。


……。


カインの金色の瞳が、強く輝いた。


     ◇


神託院地下第三実験室。


……。


巨大な円形の部屋。


……。


床には、複雑な魔法陣が描かれていた。


……。


中央には、黒い結晶。


……。


魔剣グリムヴェインの残留魔力を封じたものだ。


……。


セルディオは、静かに説明した。


……。


「……この結晶は、古代の魔力構造を持っています」


……。


「……あなたの魔力回路と共鳴させることで、潜在能力を引き出します」


……。


カインは、結晶を見つめた。


……。


「……これで、強くなれるんだな?」


……。


「……ええ」


……。


セルディオは、頷いた。


……。


「……ただし、途中で意識を失う可能性があります」


……。


「……構わねえ」


……。


カインは、即答した。


……。


「……強くなれるなら、何でもやる」


……。


セルディオの口元に、薄い笑みが浮かんだ。


……。


「……素晴らしい覚悟です」


……。


だが。


……。


その瞳には、冷たい光が宿っていた。


……。


彼は、心の中で呟く。


……。


――実験体としては、理想的だ。


……。


――嫉妬。


――執着。


――強さへの渇望。


……。


――魔剣の残留魔力と、極めて相性が良い。


……。


セルディオは、右手を上げた。


……。


「――実験を開始します」


     ◇


魔法陣が、輝いた。


……。


最初は、淡い赤色。


……。


だが。


……。


次第に、黒い光が混ざり始める。


……。


カインの身体が、震えた。


……。


「……ぐっ!」


……。


右腕の包帯が、内側から膨れ上がる。


……。


黒い紋様が、皮膚の上を這うように広がった。


……。


「……ああああっ!!」


……。


カインの叫びが、実験室へ響いた。


……。


魔力が、暴走する。


……。


床の魔法陣が、激しく脈打った。


……。


研究員たちが、慌てて声を上げる。


……。


「……魔力出力、急上昇!」


……。


「……回路負荷が、許容値を超えています!」


……。


「……このままでは、被験者の魔力回路が……!」


……。


セルディオは、静かに手を上げた。


……。


「……続行してください」


……。


研究員が、目を見開いた。


……。


「……し、しかし!」


……。


「……続行です」


……。


その声には、冷たい威圧感があった。


……。


研究員たちは、震えながら装置を操作した。


……。


……。


カインの身体を、黒い炎が包み始める。


……。


「……ぐ、あああああっ!!」


……。


視界が、赤く染まる。


……。


頭の中で、声が響いた。


……。


『……力が、欲しいか……』


……。


カインは、歯を食いしばった。


……。


「……欲しい……!」


……。


『……すべてを、取り戻したいか……』


……。


「……ああ……!」


……。


『……ならば……』


……。


……。


『……憎め……』


……。


その瞬間。


……。


カインの金色の瞳が、黒く染まり始めた。


……。


「……レオンハルト……!」


……。


彼の口から、低い声が漏れる。


……。


「……絶対に……!」


……。


「……絶対に、お前を……!」


……。


……。


ドォォォンッ!!


……。


巨大な爆発音が、実験室を揺らした。


……。


黒い炎が、天井へ噴き上がる。


……。


研究員たちが、悲鳴を上げた。


……。


「……制御不能!」


……。


「……結界が、持ちません!」


……。


……。


だが。


……。


セルディオは、笑っていた。


……。


「……素晴らしい」


……。


「……予想以上です」


……。


その瞳には、狂気に近い喜びが宿っていた。


     ◇


同じ頃。


王立アストレア学園。


……。


俺――レオンハルト・ヴァルディスは、図書塔で魔法理論の資料を読んでいた。


……。


隣には、リゼット。


……。


彼女は、熱心に術式を書き写している。


……。


「……レオン様」


……。


「……うん?」


……。


「……この七属性の循環式、少しだけ改良できるかもしれません」


……。


俺は、彼女のノートを覗き込んだ。


……。


「……どれどれ」


……。


……。


その瞬間。


……。


胸の奥に、奇妙な違和感が走った。


……。


……何だ?


……。


俺は、顔を上げた。


……。


遠く。


……。


王都の北西。


……。


神託院の方角。


……。


そこから。


……。


かすかな、黒い魔力の波動が伝わってきた。


……。


「……レオン様?」


……。


リゼットが、不思議そうに俺を見る。


……。


俺は、静かに首を振った。


……。


「……ごめん。少し、気になることがあって」


……。


……。


俺は、窓の外を見つめた。


……。


……この魔力。


……。


どこかで、感じたことがある。


……。


……まさか。


……。


……魔剣グリムヴェイン?


……。


俺の表情が、少しだけ険しくなった。


……。


……。


そのとき。


……。


遠くの空で。


……。


黒い雲が、ゆっくりと渦を巻き始めた。


     ◇


神託院地下第三実験室。


……。


黒い炎が、静かに収束していく。


……。


魔法陣の中央。


……。


そこには、一人の少年が立っていた。


……。


カイン・ヴェルナー。


……。


だが。


……。


その姿は、以前とは明らかに違っていた。


……。


右腕には、黒い紋様。


……。


金色の瞳には、赤い光。


……。


そして。


……。


身体の周囲には、黒い炎が静かに揺らめいている。


……。


セルディオは、満足そうに微笑んだ。


……。


「……成功、ですね」


……。


カインは、ゆっくりと右手を開いた。


……。


黒い炎が、掌の上に生まれる。


……。


「……これが……」


……。


「……俺の、力……」


……。


その声には、以前にはなかった冷たさが宿っていた。


……。


セルディオは、静かに頷いた。


……。


「……おめでとうございます」


……。


「……あなたは、覚醒の第一段階へ到達しました」


……。


カインは、ゆっくりと笑った。


……。


「……はは……」


……。


「……これなら……」


……。


「……これなら、あいつを……!」


……。


その瞬間。


……。


黒い炎が、激しく燃え上がった。


……。


セルディオは、静かに目を細めた。


……。


――まだ、足りない。


……。


――七つの星を持つ者へ届くには、さらに深い覚醒が必要だ。


……。


だが。


……。


――これで、第一歩は踏み出した。


……。


彼は、背後の黒い翼の紋章へ視線を向けた。


……。


「……計画は、順調です」


……。


その声が。


……。


暗い実験室へ、静かに響いた。



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