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『悪役公爵令息レオンハルト』  作者: 覇王が好き
第三章 運命を奪われた勇者

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第141話 黒獅子の怒りと王者の誇り――不正疑惑を砕く完全勝利

王国暦八二二年、新春月二十七日。


王立アストレア学園、中央闘技場。


「――不正だ!」


「何か細工をしているに決まっている!」


「検査しろ! あの一年生を調べろ!」


怒号が、観客席の一角から次々と上がった。


序列第一位アーヴィン・グランフェルト。


三年間、学園の頂点に立ち続けた男。


その彼が、たった十五歳の公爵令息に圧倒されている。


その現実を受け入れられない上級生たちが、声を荒らげていた。


俺――レオンハルト・ヴァルディスは、静かに剣を下ろした。


……。


不正、か。


……。


まあ、そう見えるのも無理はないのかもしれない。


俺自身、この世界で自分の力がどれほど規格外なのか、理解しているつもりだ。


……。


だが。


……。


少しだけ、残念だった。


目の前のアーヴィン先輩は、あれほど真剣に戦っていたのに。


その努力まで、否定されてしまうのだから。


……。


「……レオンハルト」


アーヴィン先輩が、低い声で呟いた。


……。


その顔には、怒りが浮かんでいた。


……。


俺は、静かに答えた。


「……はい」


……。


「……すまない」


……。


俺は、少し驚いた。


「……どうして、先輩が謝るんですか?」


……。


アーヴィンは、歯を食いしばった。


……。


「……私の戦いを、見ていたはずなのに」


……。


「……あいつらは……!」


……。


彼の拳が、震えていた。


     ◇


貴賓席。


……。


アルフォンス・ヴァルディスは、静かに立ち上がった。


……。


その瞬間。


……。


周囲の空気が、変わった。


……。


《黒獅子》。


……。


王国最強の武人の一角。


……。


その男が、ただ立ち上がっただけで。


……。


近くにいた教師たちの背筋が、凍りついた。


……。


「……学園長」


……。


低い声。


……。


学園長が、慌てて振り向く。


「……は、はい!」


……。


アルフォンスは、静かに言った。


「……この学園では、実力で勝つことが不正になるのか?」


……。


その言葉に。


……。


学園長の顔から、血の気が引いた。


……。


「……い、いえ! 決して、そのようなことは……!」


……。


「ならば」


……。


アルフォンスの金色の瞳が、鋭く光った。


……。


「……証拠もなく、戦士の誇りを汚すことを許すのか?」


……。


……。


沈黙。


……。


誰も、答えられなかった。


……。


その隣で。


……。


エレオノーラ・ヴァルディスが、静かに微笑んだ。


……。


「……あなた」


……。


その声は、驚くほど優しかった。


……。


「……少し、落ち着いてくださいませ」


……。


アルフォンスが、妻を見る。


……。


「……しかし」


……。


エレオノーラは、微笑んだまま続けた。


……。


「……怒るのは、検査が終わってからでも遅くありませんわ」


……。


……。


その笑顔を見た瞬間。


……。


レオナード叔父上が、小さく呟いた。


……。


「……あ、これ母上より怖いやつだ」


……。


イザベラ叔母様が、静かに扇を閉じた。


……。


「……当然ですわ」


……。


「……レオンの努力を、侮辱されたのですもの」


……。


その声には。


……。


氷のような冷たさが宿っていた。


     ◇


闘技場。


……。


生徒会長フィオナ・エルグランデが、中央へ歩み出た。


……。


「――静粛に!」


……。


その声が、闘技場へ響き渡る。


……。


「現在、不正行為の申し立てがありました」


……。


「学園規則に従い、正式な検査を実施します」


……。


……。


観客席が、ざわめいた。


……。


フィオナは、続けた。


……。


「ただし、証拠のない中傷は認められません」


……。


「検査結果が出るまで、すべての生徒は静粛にしてください」


……。


……。


俺は、静かに頷いた。


……。


「……分かりました」


……。


フィオナが、俺を見た。


……。


「……レオンハルト様、ご協力いただけますか?」


……。


俺は、微笑んだ。


……。


「……もちろんです」


……。


そのとき。


……。


「――待ってくれ!」


……。


アーヴィン先輩が、声を上げた。


……。


全員が、彼を見る。


……。


アーヴィンは、観客席を見上げた。


……。


その瞳には、怒りが宿っていた。


……。


「……お前たち」


……。


低い声。


……。


「……私の戦いを、何だと思っている?」


……。


観客席が、静まり返った。


……。


「……私は、全力で戦った」


……。


「……剣も、魔法も、三年間磨いてきたすべてを使った」


……。


そして。


……。


「……それでも、届かなかったんだ!」


……。


その声が、闘技場全体へ響いた。


……。


「……レオンハルトは、強い!」


……。


「……私より、遥かに強い!」


……。


アーヴィンの拳が、震えていた。


……。


「……その事実を、受け入れられないからといって!」


……。


「……私の戦いを、不正などという言葉で汚すな!!」


……。


……。


完全な静寂。


……。


誰も、声を上げなかった。


……。


俺は、静かに彼を見つめていた。


……。


……すごいな。


……。


本当に、立派な人だ。


     ◇


検査が始まった。


……。


学園の魔導検査官。


王国騎士団の監督官。


そして、神託院とは独立した王立魔導研究所の専門家。


……。


三つの組織による、合同検査。


……。


俺の剣。


制服。


魔導具。


魔力回路。


……。


すべてが、調べられた。


……。


リゼットが贈ってくれた銀紫水晶の腕輪も、検査台へ置かれた。


……。


検査官が、首を傾げる。


「……これは?」


……。


俺は、静かに答えた。


「……友人からいただいた、魔力調整用の腕輪です」


……。


検査官が、魔導具を調べた。


……。


「……なるほど」


……。


「……確かに、魔力の流れを整える効果があります」


……。


その言葉に。


……。


観客席の一部が、ざわめいた。


……。


「……やっぱり、魔導具を……!」


……。


だが。


……。


検査官は、静かに首を振った。


……。


「……しかし、外部から魔力を供給する機能はありません」


……。


「……術式の補助も、通常の魔導具の範囲内です」


……。


そして。


……。


「……不正な機能は、確認できません」


……。


……。


俺は、少しだけ安心した。


……。


……リゼットからの贈り物を、疑われるのは嫌だったからな。


……。


そのとき。


……。


イザベラ叔母様が、静かに立ち上がった。


……。


「……一つ、よろしいかしら?」


……。


検査官たちが、慌てて振り向く。


……。


「……イザベラ様!」


……。


彼女は、優雅に微笑んだ。


……。


「……レオンの魔力制御について、少しだけ補足させていただきますわ」


……。


そして。


……。


右手を軽く上げた。


……。


銀色の魔法陣が、空中へ浮かび上がる。


……。


「――《魔力流動解析》」


……。


瞬間。


……。


俺の周囲に、七色の魔力の流れが可視化された。


……。


火。


水。


風。


土。


雷。


光。


闇。


……。


七つの魔力が、完全に独立しながら、同時に循環している。


……。


観客席が、静まり返った。


……。


「……これが、レオンの魔力です」


……。


イザベラ叔母様は、静かに言った。


……。


「……外部からの魔力供給は、ありません」


……。


「……不正な術式も、存在しません」


……。


そして。


……。


「……すべて、本人の力です」


……。


……。


その言葉に。


……。


観客席の上級生たちが、言葉を失った。


……。


「……そんな……」


……。


「……七属性を、同時に……?」


……。


「……あり得ない……」


……。


……。


母上が、静かに微笑んだ。


……。


「……あり得ないことを、成し遂げるのが」


……。


「……私たちのレオンですもの」


     ◇


検査終了。


……。


学園長が、中央へ歩み出た。


……。


「――検査結果を発表する!」


……。


闘技場が、静まり返る。


……。


「レオンハルト・ヴァルディスに、不正行為は一切確認されなかった!」


……。


「使用魔導具は規定内!」


……。


「外部魔力供給、禁止術式、身体強化薬、すべて不使用!」


……。


そして。


……。


「――よって、試合を再開する!」


……。


大歓声が、闘技場を揺らした。


……。


俺は、静かに剣を構えた。


……。


アーヴィン先輩も、剣を持ち上げる。


……。


「……レオンハルト」


……。


「……はい」


……。


「……待たせたな」


……。


俺は、微笑んだ。


……。


「……いえ」


……。


「……最後まで、よろしくお願いします」


……。


アーヴィンは、静かに頷いた。


……。


「……ああ!」


     ◇


「――試合、再開!!」


……。


アーヴィンが、地面を蹴った。


……。


「――《雷王降臨》!」


……。


再び、紫電が彼の全身を包む。


……。


だが。


……。


その魔力は、先ほどよりも強かった。


……。


……限界を超えている。


……。


俺は、少しだけ目を細めた。


……。


アーヴィンの額には、汗が浮かんでいた。


……。


呼吸も荒い。


……。


それでも。


……。


彼は、笑っていた。


……。


「――レオンハルト!」


……。


「……はい!」


……。


「……これが、私のすべてだ!!」


……。


巨大な雷の魔法陣が、展開された。


……。


「――《雷帝天翔斬》!!」


……。


雷光が、巨大な剣となって振り下ろされる。


……。


俺は、静かに息を吐いた。


……。


……見事だ。


……。


本当に、見事な一撃だ。


……。


俺は、剣を構えた。


……。


七属性の魔力が、静かに循環する。


……。


だが。


……。


黒星覚醒は、使わない。


……。


この戦いに、必要ないからだ。


……。


俺は、剣へ光と風の魔力をまとわせた。


……。


「――《光風神閃》」


……。


一歩。


……。


そして。


……。


剣が、走った。


……。


キィィィィンッ!!


……。


雷の巨大な剣が、真っ二つに裂けた。


……。


紫電が、空中へ散る。


……。


アーヴィンの瞳が、大きく開かれた。


……。


俺の剣先が、彼の胸元へ静かに止まる。


……。


「……ここまでです」


……。


アーヴィンは、しばらく動かなかった。


……。


そして。


……。


大きく息を吐いた。


……。


「……完敗だ」


……。


その顔には。


……。


悔しさと。


……。


そして。


……。


どこか、晴れやかな笑みが浮かんでいた。


……。


審判が、右手を上げる。


……。


「――勝者!!」


……。


「レオンハルト・ヴァルディス!!」


……。


「――新たなる学園序列第一位、誕生!!」


……。


闘技場が、爆発したような歓声に包まれた。


     ◇


貴賓席。


……。


アルフォンスは、静かに拍手した。


……。


「……よくやった、レオン」


……。


エレオノーラは、嬉しそうに微笑んだ。


……。


「……本当に、立派になりましたね」


……。


レオナード叔父上が、豪快に笑った。


……。


「……ははは! さすが俺の甥だ!」


……。


イザベラ叔母様も、静かに頷いた。


……。


「……美しい勝利でしたわ」


……。


シャルロットが、立ち上がった。


……。


「……レオン!」


……。


セレスティアも、笑顔を浮かべる。


……。


リゼットは、目を輝かせていた。


……。


エリシアは、嬉しそうに涙を浮かべていた。


……。


そして。


……。


エレノア。


……。


彼女は、静かに胸元へ手を当てた。


……。


「……レオン様」


……。


その青い瞳に、涙が浮かんでいた。


……。


「……おめでとうございます」


     ◇


その夜。


ヴァルディス公爵邸。


……。


大広間には、家族たちの笑い声が響いていた。


……。


レオンの序列第一位獲得を祝う、ささやかな祝勝会。


……。


俺は、少しだけ照れくさかった。


……。


「……皆さん、ありがとうございます」


……。


父上が、静かに頷いた。


……。


「……よく戦った」


……。


母上が、微笑んだ。


……。


「……でも、レオン」


……。


「……はい?」


……。


「……一番素晴らしかったのは、勝ったことではありませんよ」


……。


俺は、首を傾げた。


……。


母上は、優しく続けた。


……。


「……相手の誇りを、最後まで大切にしたことです」


……。


……。


俺は、少しだけ微笑んだ。


……。


「……ありがとうございます」


……。


そのとき。


……。


エレノアが、俺の隣へ歩み寄った。


……。


「……レオン様」


……。


「……うん?」


……。


彼女は、静かに微笑んだ。


……。


「……本当に、おめでとうございます」


……。


俺は、笑った。


……。


「……ありがとう、エレノア」


……。


そして。


……。


彼女の銀色の髪に、先日贈った髪飾りが輝いていることに気づいた。


……。


「……その髪飾り、似合ってるね」


……。


エレノアの頬が、赤く染まった。


……。


「……ありがとうございます」


……。


彼女は、少しだけ俯いた。


……。


「……レオン様に、そう言っていただけるのが、一番嬉しいです」


……。


俺は、微笑んだ。


……。


「……そっか」


……。


そのとき。


……。


シャルロットが、後ろから声を上げた。


……。


「……ちょっと、レオン!」


……。


「……うん?」


……。


「……私にも、ちゃんとお祝いさせてよ!」


……。


セレスティアも、微笑んだ。


……。


「……私もよ」


……。


リゼットとエリシアも、頷いた。


……。


……。


俺は、思わず笑ってしまった。


……。


「……分かった、分かった」


……。


その夜。


……。


ヴァルディス公爵邸には。


……。


久しぶりに、穏やかな笑い声が響き続けた。


……。


だが。


……。


その頃。


……。


神託院の地下特別研究局では。


……。


一人の男が、静かに報告書を読んでいた。


……。


セルディオ・クロイツ。


……。


その手には、学園序列戦の結果が記されていた。


……。


《レオンハルト・ヴァルディス》


《学園序列第一位》


……。


セルディオは、薄く笑った。


……。


「……なるほど」


……。


「……やはり、七つの星を持つ者は……」


……。


彼は、机の上の黒い結晶へ目を向けた。


……。


「……計画を、早める必要がありますね」


……。


その結晶が、かすかに赤く脈打った。



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