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『悪役公爵令息レオンハルト』  作者: 覇王が好き
第三章 運命を奪われた勇者

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第140話 黒獅子と銀月の来訪――学園最強が挑む絶望的な頂上決戦

王国暦八二二年、新春月二十七日。


王立アストレア学園、中央闘技場。


春季学園序列戦、最終日。


朝の鐘が鳴るより早く、闘技場の周囲には長蛇の列ができていた。


今日、学園の頂点が決まる。


序列第一位、アーヴィン・グランフェルト。


対するは、無順位から勝ち上がり、序列第三位と第二位を立て続けに破った一年生。


レオンハルト・ヴァルディス。


誰もが、この一戦を見届けようとしていた。


だが、今日の観客席には、学園の教師たちですら予想していなかった人物が姿を現すことになる。


     ◇


「――ヴァルディス公爵閣下、ご到着!」


貴賓席の入口で、学園長が慌てて背筋を伸ばした。


現れたのは、四人の男女。


先頭を歩くのは、黒髪に鋭い金色の瞳を持つ壮年の男。


アルフォンス・ヴァルディス。


王国最強の武人の一角。


《黒獅子》の異名を持つ、ヴァルディス公爵家当主。


その隣には、月光を思わせる銀髪の美女がいた。


エレオノーラ・ヴァルディス。


《銀月の魔女》。


その魔法の腕前は、王国の宮廷魔導士たちですら一目置くほどだった。


そして、二人の後ろを歩くのは――。


《黒狼》レオナード・ヴァルディス。


《白銀の女帝》イザベラ・シルヴェイン。


王国でも指折りの実力者が、四人揃って学園へ現れたのだ。


「……ほ、本日はようこそお越しくださいました」


学園長の額には、薄い汗が浮かんでいた。


アルフォンスは、静かに頷いた。


「息子の初めての序列戦だ。最後くらいは見届けようと思ってな」


「ふふ。レオンがどんな顔で戦っているのか、楽しみですわ」


エレオノーラが微笑む。


その笑顔は穏やかだったが、周囲の教師たちは妙に緊張していた。


レオナードは、闘技場を見下ろして笑った。


「しかし、レオンの相手になる学生がいるとはな」


「あなた。少しは言葉を選びなさい」


イザベラが優雅に扇を開く。


「相手の方も、三年間努力を重ねてこられたのでしょう?」


「そりゃそうだが……」


「その努力に敬意を払うことと、実力差を認めることは別ですわ」


イザベラは、静かに微笑んだ。


「レオンがどこまで丁寧に戦うか、見せていただきましょう」


     ◇


「――父上! 母上!」


控室へ向かう途中、俺は思わず足を止めた。


貴賓席へ続く通路に、見慣れた四人の姿があったのだ。


「叔父上も、イザベラ叔母様まで!」


「よう、レオン!」


レオナード叔父上が、豪快に笑った。


「決勝だって聞いたら、見に来るしかないだろう!」


「……皆さん、お忙しいのでは?」


「息子の晴れ舞台より大切な仕事などない」


父上は、当たり前のように言った。


……。


何だか、少し照れくさい。


母上が俺の前へ歩み寄り、制服の襟元を整えてくれた。


「レオン。怪我だけはしないようにね」


「はい、母上」


「それと」


母上は、少しだけ悪戯っぽく笑った。


「相手の方が真剣なら、あなたも誠実に応えてあげなさい」


「……はい」


その言葉に、俺は頷いた。


イザベラ叔母様も微笑む。


「勝つことだけが、良い戦いではありませんからね」


……。


俺は、静かに笑った。


「分かっています」


そのとき、通路の向こうから銀色の髪が揺れた。


「レオン様」


エレノアだ。


その後ろには、セレスティア、リゼット、エリシア、シャル姉、そしてルシウスもいる。


「レオン兄様!」


ルシウスが嬉しそうに手を振った。


「絶対に勝ってください!」


「ありがとう。でも、右腕はまだ無理しちゃ駄目だよ」


「分かっています!」


シャル姉が笑う。


「レオン。私たち、全員で応援しているからね」


セレスティアも頷いた。


「あなたらしい戦いを見せて」


「……はい。レオン様」


リゼットが小さく微笑む。


エリシアも両手を胸元で握った。


「どうか、ご無事で」


そして、エレノア。


彼女は俺の前へ進み出ると、静かに一礼した。


「ご武運を、レオン様」


俺は、彼女の青い瞳を見つめた。


「ありがとう、エレノア」


……。


不思議と、胸の奥が温かくなった。


     ◇


中央闘技場。


「――決勝戦!」


実況役の教官が声を張り上げた。


「学園序列第一位! 三年間、その頂点を守り続けてきた雷剣の天才!」


「アーヴィン・グランフェルト!!」


大歓声。


金髪の青年が、闘技場へ姿を現した。


白銀の軽鎧。


腰には、雷属性の魔力を通す特製の模擬剣。


その表情は、驚くほど落ち着いていた。


だが。


彼の指先は、わずかに震えていた。


――怖い。


アーヴィンは、心の中で認めていた。


昨日、レオナルドが敗れた。


クラウディアも敗れた。


二人とも、自分がよく知る強者だ。


三年間、互いに競い合ってきた仲間たち。


その二人が、まるで別次元の相手と戦っているようだった。


……。


それでも。


――逃げるわけにはいかない。


――俺は、序列第一位だ。


アーヴィンは、静かに剣を抜いた。


そして。


「――挑戦者!」


「レオンハルト・ヴァルディス!!」


闘技場が、再び歓声に包まれた。


俺は、ゆっくりと入場した。


アーヴィン先輩が、真っ直ぐこちらを見ている。


「……来たか」


「お待たせしました」


「……レオンハルト」


彼は、静かに笑った。


「正直に言えば、君が怖い」


……。


俺は、少しだけ目を見開いた。


「……そうですか」


「ああ。だが、それ以上に」


アーヴィンは、剣を構えた。


「君と戦えることが、楽しみだ」


……。


俺は、微笑んだ。


「俺もです」


審判が、右手を上げる。


「――両者、構え!」


……。


空気が張り詰めた。


「――始め!!」


     ◇


最初に動いたのは、アーヴィンだった。


「――《雷迅歩》!」


バチィッ!!


紫電が走る。


その姿が、視界から掻き消えた。


次の瞬間。


俺の右側から、鋭い斬撃が迫る。


……速い。


俺は剣を斜めに構えた。


キィィンッ!!


金属音。


アーヴィンの剣が、俺の剣へ激突する。


だが、彼は止まらなかった。


「――《雷閃連牙》!」


一撃。


二撃。


三撃。


四撃。


雷をまとった斬撃が、連続して襲いかかる。


……。


俺は、そのすべてを受け流した。


キィンッ!


ギィンッ!


カァンッ!


……。


アーヴィンの表情が、わずかに歪んだ。


――速さでは、勝てない。


――ならば。


「――《雷槍陣》!」


足元に、四つの魔法陣。


そこから雷の槍が同時に放たれる。


俺は、左手を軽く振った。


「――《土壁》」


薄い岩壁が、雷槍を遮る。


……。


だが。


アーヴィンは、それを読んでいた。


「――《雷転》!」


雷槍が、途中で軌道を変える。


岩壁の側面を回り込み、俺へ迫った。


……なるほど。


俺は、少しだけ感心した。


……術式の制御が上手い。


「――《風流》」


風が、雷槍の軌道を逸らす。


紫電が、俺の左右を通過した。


……。


アーヴィンが、目を見開いた。


――これも、防ぐのか。


……。


俺は、静かに剣を構え直した。


「……いい攻撃です」


……。


その言葉に。


アーヴィンは、歯を食いしばった。


――まだだ。


――まだ、終わっていない。


     ◇


貴賓席。


「……ほう」


レオナード叔父上が、少しだけ目を細めた。


「なかなかやるな、あの金髪」


父上も、静かに頷いた。


「剣と雷魔法の連携がよく練られている」


……。


母上は、微笑んだ。


「でも、レオンはまだほとんど魔力を使っていませんわね」


イザベラ叔母様が、扇を閉じた。


「ええ。相手の術式を見極めながら、必要最低限の魔法だけを使っています」


……。


ルシウスが、目を輝かせた。


「レオン兄様、すごい!」


シャル姉が、嬉しそうに笑う。


「当然よ」


……。


その隣で、エレノアは静かに闘技場を見つめていた。


「……レオン様」


……。


彼女の瞳には、深い信頼が宿っていた。


     ◇


闘技場。


アーヴィンの呼吸が、少しずつ荒くなっていた。


額から汗が流れる。


腕が重い。


魔力の消費も、決して少なくない。


だが。


目の前の少年は、変わらない。


呼吸は穏やか。


剣先は一切ぶれない。


そして。


何より。


――俺の攻撃が、すべて見えている。


……。


アーヴィンは、悟った。


――このままでは、勝てない。


……。


彼は、剣を大きく引いた。


「……レオンハルト」


……。


俺は、静かに彼を見た。


「……はい」


……。


アーヴィンが、笑った。


「……ここからは、全力だ」


……。


俺は、頷いた。


「……受けて立ちます」


……。


瞬間。


アーヴィンの周囲に、巨大な雷の魔法陣が展開された。


……。


「――《雷王降臨》!」


……。


紫電が、彼の全身を包む。


髪が逆立つ。


瞳が、雷光を帯びる。


……。


観客席が、どよめいた。


「……雷王降臨!?」


「アーヴィン先輩の最終奥義だ!」


……。


彼は、剣を構えた。


……。


「――《雷帝絶剣》!」


……。


紫電が、巨大な刃となって伸びる。


……。


俺は、静かに息を吐いた。


……。


……すごいな。


……。


本当に、よく鍛えられた魔法だ。


……。


俺は、剣へ光と風の魔力をまとわせた。


……。


「――《光風一閃》」


……。


二本の剣が、激突する。


……。


ドォォォンッ!!


……。


衝撃波が、闘技場全体へ広がった。


……。


防護結界が、激しく輝く。


……。


そして。


……。


アーヴィンの剣が、大きく弾かれた。


……。


俺は、その懐へ踏み込む。


……。


剣先が、彼の胸元へ向かう。


……。


――決着。


……。


その瞬間だった。


「――待てぇぇぇ!!」


……。


観客席から、怒号が響いた。


……。


「そんなの、あり得るわけがない!!」


……。


俺の剣が、止まる。


……。


観客席の一角で、数人の上級生が立ち上がっていた。


……。


「序列第一位のアーヴィン先輩が、一年生にここまで圧倒されるなんて!」


……。


「何か、不正な魔導具を使っているんじゃないのか!?」


……。


「そうだ! 絶対におかしい!」


……。


その声が、闘技場へ広がっていく。


……。


審判が、慌てて右手を上げた。


「――試合、一時中断!!」


……。


闘技場が、騒然となった。


……。


そして。


……。


貴賓席。


……。


アルフォンス・ヴァルディスの表情から。


……。


静かに、笑みが消えた。



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