第137話 七属性の衝撃――上級生たちが認めた規格外の才能
王国暦八二二年、新春月二十五日。
王立アストレア学園。
中央闘技場。
「――勝者、レオンハルト・ヴァルディス!」
審判の宣言が、再び場内へ響き渡った。
観客席から、大きな歓声が上がる。
……。
俺――レオンハルト・ヴァルディスは、剣を鞘へ納めた。
目の前では、三年生のガルド・ヘルマンが、ゆっくりと立ち上がっている。
「……まさか、ここまで差があるとはな」
ガルドが、苦笑した。
「……正直、舐めてた」
……。
俺は、軽く頭を下げた。
「……こちらこそ、ありがとうございました」
……。
ガルドは、しばらく俺を見つめていた。
そして。
「……次は、もっと強くなって挑ませてもらう」
……。
俺は、微笑んだ。
「……楽しみにしています」
……。
彼は、大きく笑った。
「……ああ!」
……。
その様子を見て、観客席から拍手が起こった。
◇
貴賓区画。
セレスティアは、嬉しそうに微笑んでいた。
「……やっぱり、レオンはすごいわね」
リゼットも、目を輝かせている。
「……あの剣の動き、ほとんど無駄がありませんでした」
……。
エリシアは、ほっとしたように息を吐いた。
「……お怪我がなくて、よかったです」
……。
シャルロットは、少しだけ得意そうに笑った。
「……だから言ったでしょう?」
……。
「レオンの本当の強さは、あんなものじゃないって」
……。
そのとき。
「……確かに、見事な剣技だった」
低い声が響いた。
振り向くと、そこにはアーヴィン・グランフェルトが立っていた。
学園序列第一位。
三年生。
……。
彼は、静かに闘技場を見下ろしていた。
「……だが」
……。
「剣技だけでは、私には勝てない」
……。
シャルロットが、少しだけ眉を上げた。
「……そうかしら?」
……。
アーヴィンは、微笑んだ。
「……序列戦で、確かめることになるだろう」
……。
そして。
「……楽しみにしているよ」
……。
彼は、静かに去っていった。
……。
セレスティアは、少しだけ息を吐いた。
「……アーヴィン先輩、本気みたいね」
……。
シャルロットは、笑った。
「……望むところよ」
……。
「レオンなら、きっと勝つわ」
◇
午後。
予選第二試合。
《レオンハルト・ヴァルディス》
対するは。
《フェリクス・ローゼンベルク》
三年生。
序列第八位。
魔導研究会の実力者。
……。
俺は、闘技場へ入場した。
対面には、青い髪の青年が立っていた。
「……初めまして、レオンハルト殿」
フェリクスが、丁寧に一礼した。
「……よろしくお願いします」
俺も、頭を下げる。
……。
フェリクスは、微笑んだ。
「……クローディア嬢から、あなたの魔法研究について伺いました」
……。
俺は、少し驚いた。
「……リゼットから?」
「ええ」
……。
彼は、少しだけ目を細めた。
「……あなたの七属性魔法、ぜひ見せていただきたい」
……。
俺は、頷いた。
「……分かりました」
……。
審判が、右手を上げる。
「――両者、構え!」
……。
フェリクスの周囲に、三つの魔法陣が浮かび上がった。
水。
風。
雷。
……。
なるほど。
三属性の複合魔法か。
……。
俺は、静かに左手を開いた。
……。
「――始め!」
◇
フェリクスが、先手を取った。
「――《水風連刃》!」
水属性の刃が、風に乗って飛来する。
……。
俺は、軽く手を振った。
「――《土壁》」
薄い岩壁が、目の前へ立ち上がる。
……。
水の刃が、岩壁へ突き刺さった。
ズガガッ!
……。
だが。
フェリクスは、すぐに次の魔法を放った。
「――《雷穿》!」
紫電が、岩壁の隙間を貫く。
……。
俺は、少しだけ目を細めた。
……なるほど。
最初の攻撃は、目くらましか。
……。
俺は、右手を上げた。
「――《水鏡障壁》」
透明な水の膜が、雷撃を包み込む。
……。
パァン!
雷が、水の中で拡散した。
……。
フェリクスが、驚いたように目を見開く。
「……雷を、水で受けた!?」
……。
俺は、微笑んだ。
「……魔力の流れを調整すれば、可能ですよ」
……。
フェリクスは、しばらく俺を見つめていた。
そして。
「……面白い!」
……。
彼の周囲に、さらに三つの魔法陣が浮かび上がった。
……。
「――《三重魔導連鎖》!」
水。
風。
雷。
三属性の魔法が、連続して放たれる。
……。
俺は、静かに息を吐いた。
……。
そして。
左手を開いた。
「――《七彩神星陣》」
……。
瞬間。
七つの魔法陣が、俺の周囲へ展開された。
火。
水。
風。
土。
雷。
光。
闇。
……。
七色の光が、巨大な星形を描く。
……。
観客席が、静まり返った。
……。
「……な、七つ!?」
「本当に、七属性全部使えるのか!?」
「……あり得ない……!」
……。
フェリクスも、言葉を失っていた。
「……これが……」
……。
「……七属性の、完全統御……」
……。
俺は、静かに手を動かした。
……。
土属性が、水の刃を受け止める。
風属性が、雷撃の軌道を逸らす。
火属性が、残った水を蒸発させる。
光属性が、魔力の乱れを浄化する。
そして。
闇属性が、余剰魔力を吸収する。
……。
すべての攻撃が、消えた。
……。
フェリクスは、呆然としていた。
……。
俺は、静かに言った。
「……次は、こちらから行きます」
……。
「――《雷風連鎖》」
……。
雷と風が、螺旋を描く。
……。
フェリクスは、慌てて防御魔法を展開した。
「――《三重防壁》!」
……。
だが。
俺の魔法は、その防壁へ正面からぶつからなかった。
……。
風が、雷の軌道を変える。
……。
雷撃が、防壁の側面へ回り込む。
……。
そして。
「――《光縛》」
……。
白い光の鎖が、フェリクスの足元から伸びた。
……。
「……なっ!?」
……。
彼の身体が、一瞬硬直する。
……。
その隙に。
俺は、剣を抜いた。
……。
一歩。
……。
そして。
剣先を、彼の胸元へ向けた。
……。
「……ここまでです」
……。
審判が、右手を上げる。
「――勝者!」
……。
「レオンハルト・ヴァルディス!」
……。
闘技場が、再び歓声に包まれた。
……。
フェリクスは、しばらく黙っていた。
そして。
小さく笑った。
「……完敗です」
……。
俺は、剣を下ろした。
「……ありがとうございました」
……。
フェリクスは、静かに頷いた。
「……あなたの魔法理論、ぜひ教えていただきたい」
……。
俺は、微笑んだ。
「……もちろんです」
……。
その瞬間。
観客席から、さらに大きな拍手が起こった。
◇
夕方。
学園の中央掲示板。
予選結果が、次々と更新されていた。
《レオンハルト・ヴァルディス》
二戦二勝。
予選突破確定。
……。
俺は、その文字を見上げていた。
「……お疲れさまでございました」
隣に立つエレノアが、静かに微笑んだ。
「……ありがとう」
……。
俺は、少しだけ息を吐いた。
「……思ったより、楽しかったよ」
……。
エレノアは、嬉しそうに頷いた。
「……それは、何よりでございます」
……。
そのとき。
背後から、声が響いた。
「――レオンハルト」
……。
振り向く。
そこには、アーヴィン・グランフェルトが立っていた。
……。
「……アーヴィン先輩」
……。
彼は、静かに微笑んだ。
「……見事だった」
……。
「だが」
……。
その瞳に、鋭い光が宿る。
「……本戦では、あれほど簡単にはいかない」
……。
俺は、静かに頷いた。
「……楽しみにしています」
……。
アーヴィンは、笑った。
「……私もだ」
……。
そして。
「……学園の頂点で、待っている」
……。
彼は、静かに去っていった。
……。
俺は、その背中を見送りながら思った。
……。
序列戦。
まだ、始まったばかりだ。
……。
そして。
この大会が。
学園の未来を、大きく変えることになるとは。
そのときの俺は、まだ知らなかった。




