↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『悪役公爵令息レオンハルト』  作者: 覇王が好き
第三章 運命を奪われた勇者

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
133/390

第133話 失墜した勇者候補――神託院の密議と黒き預言

王国暦八二二年、新春月二十一日。


王都ルミナス。


神託院本部。


白い大理石で造られた巨大な建物の最上階。


そこには、一般の神官でさえ立ち入ることを許されない会議室があった。


円形の広間。


壁一面に刻まれた古代文字。


中央には、淡い光を放つ水晶球が置かれている。


その周囲に、七人の高位神官が座っていた。


「……カイン・ヴェルナーの件について、報告を」


最も奥に座る老人が、静かに口を開いた。


神託院最高評議会。


その議長、オルディス・レインハルト。


白い長髪。


深い皺。


そして、鋭い灰色の瞳。


彼は、長年にわたって神託院の運営を担ってきた人物だった。


「はい」


若い神官が、書類を開いた。


「勇者適性第二位、カイン・ヴェルナー」


……。


「王都西方の禁足地へ無断侵入し、《忘却の神殿》の封印魔導具を解除」


……。


「その結果、古代魔将ヴァルグリムが復活いたしました」


……。


会議室に、重い沈黙が落ちた。


「……古代魔将、か」


一人の神官が、低く呟いた。


「まさか、あの封印が破られるとは」


……。


若い神官は、続けた。


「なお、魔将ヴァルグリムは、レオンハルト・ヴァルディス公爵令息によって討伐されました」


……。


その瞬間。


会議室の空気が、変わった。


「……また、あの少年か」


「七属性の使い手……」


「王国七星功労章を授与されたばかりだというのに……」


……。


オルディスは、静かに目を閉じた。


「……レオンハルト・ヴァルディス」


その名を、ゆっくりと口にする。


「……神託に記されていない少年」


……。


一人の神官が、眉をひそめた。


「議長。やはり、あの少年の存在は……」


……。


「慎重に扱うべきだ」


オルディスが、静かに答えた。


「我々が長年守ってきた神託の解釈が、揺らぎ始めている」


……。


「ですが、議長」


別の神官が、口を開いた。


「レオンハルト様は、王国に多大な貢献をされています」


……。


「今回も、魔将を討伐し、神殿の崩壊を防ぎました」


……。


「それは、紛れもない事実です」


……。


オルディスは、ゆっくりと頷いた。


「……分かっている」


そして。


「だからこそ、問題なのだ」


……。


会議室に、再び沈黙が落ちた。


     ◇


神託院地下。


特別監察室。


カイン・ヴェルナーは、椅子に座っていた。


右腕には、白い包帯。


魔剣グリムヴェインによる魔力侵食の痕跡が、まだ完全には消えていない。


「……くそっ」


彼は、小さく呟いた。


勇者候補としての資格停止。


学園での特別待遇の停止。


そして、神託院による監察。


……。


すべてが、気に入らなかった。


――何で、俺がこんな目に遭わなきゃならないんだ。


前世では、ゲームの主人公として数々の敵を倒した。


仲間を集め。


ヒロインたちに慕われ。


世界を救う。


……。


そのはずだった。


だが。


この世界では。


レオンハルト・ヴァルディス。


本来なら悪役として倒されるはずの男が、すべてを手に入れている。


……。


「……ふざけんなよ」


カインは、拳を握り締めた。


……。


そのとき。


扉が、静かに開いた。


「……カイン・ヴェルナー」


低い声。


顔を上げると、黒い法衣をまとった男が立っていた。


年齢は、四十代ほど。


細い目。


整えられた黒髪。


そして、口元には薄い笑み。


「……誰だ、お前」


男は、静かに頭を下げた。


「神託院特別研究局、局長補佐」


……。


「セルディオ・クロイツと申します」


……。


カインは、眉をひそめた。


「……研究局?」


「ええ」


セルディオは、微笑んだ。


「あなたの勇者適性について、少し興味がありましてね」


……。


カインは、鼻で笑った。


「……今さら何だよ」


「あなたは、勇者適性第二位として選ばれた」


……。


セルディオは、静かに続けた。


「ですが、現状では、その力を十分に発揮できていない」


……。


カインの表情が、歪んだ。


「……喧嘩売ってんのか?」


「いいえ」


セルディオは、首を振った。


「むしろ、その逆です」


……。


彼は、懐から一枚の古い羊皮紙を取り出した。


「……あなたに、興味深い情報をお伝えしたくて」


……。


カインは、目を細めた。


「……何だよ」


セルディオは、羊皮紙を机へ置いた。


そこには、古代文字が記されていた。


そして。


中央には、一つの紋章。


剣を持つ人影。


その背後に、七つの星。


……。


カインは、息を呑んだ。


――何だ、これ。


……。


「……古代の預言です」


セルディオが、静かに言った。


「神託院の地下文書庫に、長年封印されていたものです」


……。


カインは、羊皮紙を見つめた。


「……それが、どうした」


……。


セルディオは、薄く笑った。


「この預言には、こう記されています」


……。


『七つの星を従える者、運命の輪を乱す』


……。


『選ばれし剣の継承者、奪われた道を取り戻さん』


……。


カインの心臓が、大きく跳ねた。


……。


――七つの星。


――レオンハルト。


……。


そして。


――選ばれし剣の継承者。


……。


「……まさか」


カインが、呟いた。


セルディオは、静かに頷いた。


「……あなたには、まだ可能性があります」


……。


「ただし」


彼は、少しだけ声を落とした。


「そのためには、ある試練を受けていただく必要がある」


……。


カインは、顔を上げた。


「……試練?」


「ええ」


セルディオは、微笑んだ。


「勇者適性を、本来の形へ覚醒させるための試練です」


……。


カインは、拳を握り締めた。


……。


――これだ。


――これこそ、俺が探していたものだ。


……。


だが。


彼は、気づいていなかった。


セルディオの瞳の奥に。


冷たい計算が、隠されていることに。


     ◇


同日、午後。


王立アストレア学園。


生徒会室。


「……神託院から、正式な通達が届きました」


生徒会長フィオナ・エルグランデが、書類を机へ置いた。


俺――レオンハルト・ヴァルディスは、その内容へ目を通していた。


カイン・ヴェルナー。


勇者候補資格、当面停止。


特別待遇の停止。


学園での行動制限。


そして、神託院による監察。


……。


「……妥当な判断だと思います」


俺は、静かに答えた。


フィオナは、頷いた。


「ええ。ですが、問題はまだ残っています」


……。


「……問題?」


「神託院内部で、カインの処遇を巡って意見が分かれているようなのです」


……。


俺は、眉をひそめた。


「……そうなんですか」


「はい」


フィオナは、続けた。


「一部の神官は、勇者適性を持つ人材を失うべきではないと主張しています」


……。


「ですが、今回の件は重大です」


……。


俺は、静かに頷いた。


「……そうですね」


……。


カインが、何を考えているのか。


正直、俺には分からない。


だが。


あの神殿で見た彼の姿。


魔剣に侵食されながらも、力を求め続けていた少年。


……。


放っておけば、また同じことを繰り返すかもしれない。


「……フィオナ会長」


「はい」


「神託院の動きについて、何か分かったら教えてください」


……。


フィオナは、少し驚いたように俺を見た。


「……カインのことが、気になるのですか?」


「……はい」


俺は、静かに答えた。


「彼が、また危険なことをしないか心配です」


……。


フィオナは、しばらく俺を見つめていた。


そして。


「……分かりました」


静かに頷いた。


「何か動きがあれば、すぐにお伝えします」


……。


俺は、微笑んだ。


「ありがとうございます」


     ◇


夜。


神託院地下、特別研究局。


セルディオ・クロイツは、薄暗い研究室に立っていた。


机の上には、古い魔導書。


そして。


赤黒い魔力を閉じ込めた、小さな水晶。


……。


「……やはり、面白い」


セルディオが、静かに呟いた。


「魔剣グリムヴェインの残留魔力……」


……。


彼は、水晶を指先で転がした。


「……そして、七属性の少年」


……。


その口元に、薄い笑みが浮かぶ。


「……運命の歯車は、確かに動き始めている」


……。


研究室の奥。


暗闇の中に、巨大な魔法陣が浮かび上がった。


その中心には。


黒い翼を広げた、見知らぬ存在の紋章。


……。


セルディオは、静かに頭を下げた。


「……準備は、順調に進んでおります」


……。


そして。


「……次こそ、必ず」


……。


「……七つの星を、我らの手に」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。