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『悪役公爵令息レオンハルト』  作者: 覇王が好き
第三章 運命を奪われた勇者

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第129話 黒星覚醒――古代魔将の終焉と勇者候補の敗北

《忘却の神殿》、最深部。


七色の魔法陣が、ゆっくりと回転していた。


その中心で。


俺――レオンハルト・ヴァルディスは、剣を構えていた。


周囲には、漆黒の魔力。


だが、それは禍々しいものではなかった。


星空のように、静かで澄み切った黒。


《黒星解放》。


俺の魔力を、より高い次元で制御するための力。


そして。


その先にあるもの。


「――《黒星覚醒》」


……。


瞬間。


空気が、震えた。


俺の背後に、漆黒の光輪が浮かび上がる。


黒髪の一部に、銀色の輝きが走った。


瞳には、星のような光が宿る。


そして。


七つの魔法陣が、漆黒の光輪を中心に新たな軌道を描き始めた。


……。


ヴァルグリムが、低く唸った。


『……何だ、その力は』


俺は、静かに答えた。


「……俺の力だよ」


……。


『あり得ぬ』


魔将の声が、震える。


『七属性を完全に統御し、その上で闇を支配するなど……!』


……。


俺は、剣を持ち上げた。


「……支配してるわけじゃない」


そして。


「……ただ、全部を理解して使ってるだけだ」


……。


ヴァルグリムが、咆哮した。


『――ならば、受けてみよ!』


     ◇


巨大な黒い魔法陣が、広間全体へ広がった。


床。


壁。


天井。


すべてが、闇属性の魔力で覆われる。


《冥界侵蝕陣》。


魔将の周囲に、無数の黒い槍が形成された。


その数、百を超える。


一本一本が、先ほどの《黒獄十二槍》を上回る魔力密度を持っていた。


……。


エレノアが、息を呑んだ。


「……レオン様!」


俺は、振り返らずに答えた。


「大丈夫」


そして。


「エレノア、カインを守っていて」


「……はい!」


……。


ヴァルグリムが、腕を振り下ろした。


『――滅びよ!』


百を超える闇槍が、一斉に放たれた。


轟音。


空気が裂ける。


石床が砕ける。


だが。


俺は、剣を振らなかった。


ただ、左手を開いた。


「――《七彩神星陣・天環》」


七つの魔法陣が、巨大な球状の結界を形成する。


最外層は、土属性。


その内側に、水と風。


さらに、雷と火。


中心部には、光と闇。


七属性が、互いの弱点を補い合うように循環する。


最初の闇槍が、結界へ命中した。


ズガァン!


衝撃が、広間を揺らす。


だが、結界は揺らがなかった。


次の槍。


さらに次の槍。


連続して、黒い魔力が叩きつけられる。


ドドドドドッ!


土属性の層が衝撃を受け止める。


水と風が、攻撃の軌道をずらす。


雷と火が、魔力の結合を崩す。


そして。


光と闇が、残った侵食魔力を完全に分解する。


……。


百を超える闇槍が。


一つ残らず、消滅した。


……。


ヴァルグリムが、言葉を失った。


『……馬鹿な』


……。


俺は、静かに言った。


「……次は、こっちの番だ」


     ◇


俺は、地面を蹴った。


その瞬間。


身体が、黒い星光を残して消える。


……。


ヴァルグリムの背後。


俺は、すでにそこへ移動していた。


『……何!?』


魔将が、振り返ろうとする。


だが。


遅い。


俺は、剣を水平に振った。


「――《黒星閃》」


漆黒の斬撃が、魔将の背中を走った。


ズバァン!


甲冑が、大きく裂ける。


黒い魔力が、噴き出した。


ヴァルグリムは、咆哮した。


『グオオオッ!』


そのまま、大剣を後方へ振り抜く。


だが。


俺は、すでにその軌道から外れていた。


左足を軸に身体を回転させ、相手の右側へ回り込む。


そして。


「――《雷光穿》」


剣先に、白銀の雷光を集中させる。


狙いは、右肩の関節。


パァン!


魔将の右腕が、激しく跳ね上がった。


大剣が、手から離れる。


……。


ヴァルグリムが、後退した。


『……あり得ぬ』


その声には、明らかな恐怖が混じっていた。


『我が、ここまで……!』


……。


俺は、静かに剣を下ろした。


「……もう、終わりにしよう」


……。


ヴァルグリムが、叫んだ。


『――まだだ!』


その瞬間。


魔将の胸部から、巨大な黒い魔法陣が展開された。


……。


俺は、眉をひそめた。


……なるほど。


最後の手段か。


魔将は、神殿全体の魔力を吸い上げようとしていた。


そのままでは、神殿が崩壊する。


しかも。


カインの魔剣からも、魔力が引き出され始めていた。


「……ぐああっ!」


カインが、苦痛の声を上げる。


エレノアが、彼の腕を支えた。


「……レオン様!」


俺は、頷いた。


「……分かってる」


そして。


七彩神星陣へ、さらに魔力を流し込んだ。


「――《七彩神星陣・封界》」


七つの魔法陣が、広間全体へ広がる。


床。


壁。


天井。


それぞれの魔法陣が、神殿の魔力回路へ接続された。


……。


ヴァルグリムが、目を見開いた。


『……何をしている!?』


俺は、静かに答えた。


「……君が使ってる魔力の流れを、止めるんだ」


……。


七属性の魔力が、神殿の回路へ流れ込む。


土属性が、崩れた構造を支える。


水属性が、暴走した魔力を冷却する。


風属性が、滞留した魔力を循環させる。


雷属性が、異常な接続を切断する。


火属性が、残った汚染魔力を焼き払う。


光属性が、神殿の封印を浄化する。


そして。


闇属性が、ヴァルグリムの魔力を完全に封じ込める。


……。


巨大な魔法陣が、静かに輝いた。


ヴァルグリムの身体から、黒い魔力が引き剥がされていく。


『……やめろ!』


魔将が、叫んだ。


『我が力を……!』


……。


俺は、剣を持ち上げた。


「……終わりだ」


そして。


「――《黒星七彩神断》」


七属性の魔力が、一本の剣へ集まった。


その中心に、漆黒の星光。


俺は、静かに踏み込んだ。


剣を、上段から振り下ろす。


……。


一閃。


音は、なかった。


ただ。


七色の光が、広間を横切った。


……。


ヴァルグリムの身体が、静止した。


『……見事……』


低い声。


『……人の身で、ここまで……』


……。


そして。


魔将の甲冑が、光の粒子へ変わっていった。


黒い魔力が、消える。


巨大な身体が、崩れる。


最後に。


赤く輝いていた双眸が、静かに閉じられた。


……。


古代魔将ヴァルグリム。


その存在は。


完全に、消滅した。


     ◇


静寂。


神殿の最深部に、穏やかな魔力が戻っていた。


俺は、剣を鞘へ納めた。


《黒星覚醒》を解除する。


漆黒の光輪が消え、髪も元の黒色へ戻った。


……。


「……レオン様!」


エレノアが、駆け寄ってきた。


「お怪我はございませんか?」


「うん。大丈夫」


俺は、笑った。


「エレノアも無事でよかった」


彼女は、ほっとしたように息を吐いた。


「……本当に、心配いたしました」


……。


俺は、少し苦笑した。


「ごめん」


「……謝らないでください」


エレノアは、静かに首を振った。


「ただ……」


そして。


「……お戻りになって、嬉しいです」


……。


俺は、頷いた。


「約束したからね」


……。


彼女は、微笑んだ。


「……はい」


     ◇


少し離れた場所。


カイン・ヴェルナーは、床に座り込んでいた。


右手には、魔剣グリムヴェイン。


だが。


その刀身からは、もう炎が出ていなかった。


赤黒い紋様も、徐々に薄れている。


……。


俺は、彼の前へ歩み寄った。


「……カイン」


……。


彼は、顔を上げなかった。


「……何だよ」


「身体は、大丈夫?」


……。


カインは、唇を噛んだ。


「……お前に心配される筋合いはねえ」


……。


俺は、少し苦笑した。


「……そうか」


そして。


「でも、あの剣は預からせてもらうよ」


……。


カインの表情が、変わった。


「……何だと?」


「危険な魔導具だからね」


……。


カインは、剣を握り締めた。


「……これは、俺が見つけたんだ!」


「……分かってる」


俺は、静かに答えた。


「でも、君の身体を傷つけていた」


……。


カインは、歯を食いしばった。


「……ふざけんな」


……。


俺は、彼を見つめた。


「……カイン」


そして。


「強くなりたい気持ちは、分かるよ」


……。


「でも、力を手に入れるために、自分を壊す必要はない」


……。


カインは、黙り込んだ。


しばらくして。


ゆっくりと、魔剣を床へ置いた。


……。


俺は、剣へ手を伸ばした。


その瞬間。


魔剣の宝石が、わずかに光った。


……。


『……七つの属性を持つ者……』


……。


頭の中へ、微かな声が響いた。


俺は、眉をひそめた。


……まだ、何か残っているのか。


だが。


すぐに、光は消えた。


……。


俺は、魔剣を封印用の魔法陣へ収めた。


「――《七彩神星封印》」


七属性の魔力が、剣を包み込む。


漆黒の刀身が、静かに光の中へ消えた。


……。


これで、ひとまず安全だ。


     ◇


神殿を出る頃には、夕陽が森を赤く染めていた。


王国騎士団の隊長バルドが、駆け寄ってくる。


「レオンハルト様!」


「お待たせしました」


俺は、笑った。


「神殿の異常は、ひとまず収まりました」


バルドは、驚いたように目を見開いた。


「……まさか、あの魔力反応を……?」


「はい」


俺は、静かに頷いた。


「封印されていた魔将が復活していましたが、討伐しました」


……。


バルドは、しばらく言葉を失っていた。


そして。


深く頭を下げた。


「……王国を救っていただき、ありがとうございます」


……。


俺は、少し困ったように笑った。


「……大げさですよ」


だが。


エレノアが、隣で小さく微笑んだ。


「……レオン様」


「……ん?」


「……今回は、大げさではないと思います」


……。


俺は、苦笑した。


「……そうかな」


……。


そのとき。


後方から、カインが歩いてきた。


彼は、誰とも目を合わせなかった。


ただ。


一度だけ、俺を見た。


……。


その瞳には。


悔しさ。


屈辱。


そして。


何かを失ったような、暗い感情が宿っていた。


……。


俺は、静かに思った。


――あいつは、これからどうするんだろう。


だが。


その答えを、今の俺は知らなかった。


     ◇


王都へ向かう馬車の中。


エレノアは、俺の隣に座っていた。


「……レオン様」


「うん?」


「……本日も、お疲れさまでございました」


「エレノアもね」


俺は、笑った。


「本当に助かったよ」


……。


彼女は、少しだけ頬を赤くした。


「……私は、当然のことをしたまでです」


「それでも、ありがとう」


……。


エレノアは、静かに微笑んだ。


「……はい」


窓の外では、冬の夕陽が沈もうとしていた。


……。


俺は、ふと思った。


ゲーム『エターナル・レガリア』。


その物語は、確実に変わり始めている。


原作では、悪役として倒されるはずだった俺。


そして、勇者として世界を救うはずだった少年。


……。


だが。


今の世界は、ゲームとは違う。


誰もが、自分の意思で生きている。


だからこそ。


俺も、自分の選択で未来を作っていきたい。


……。


隣では、エレノアが静かに微笑んでいた。


俺は、彼女へ視線を向けた。


「……エレノア」


「はい?」


「今度の街歩き、楽しみにしてるよ」


……。


彼女の青い瞳が、大きく見開かれた。


そして。


「……私も、です」


少し照れたように、微笑んだ。


……。


その笑顔を見ながら。


俺は、改めて思った。


――この世界で、大切な人たちと生きていこう。



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