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『悪役公爵令息レオンハルト』  作者: 覇王が好き
第三章 運命を奪われた勇者

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第128話 七彩神星陣、古代魔将を圧倒す――銀剣と黒星の共闘

王国暦八二二年、新春月十八日。


《忘却の神殿》、最深部。


「――我が復活を、祝うがよい」


古代魔将ヴァルグリムが大剣を持ち上げた瞬間、広間の空気が変わった。


重い。


まるで頭上に巨大な岩盤が降りてきたような圧迫感。


床に刻まれた古代文字が黒く染まり、崩れた柱の破片が重力に逆らって浮き上がる。


カイン・ヴェルナーは、その場で膝をついた。


「な……何だよ、この魔力……!」


彼の右手には、魔剣グリムヴェイン。


赤黒い紋様が腕を這い、剣の宝石が不気味に脈打っていた。


一方、俺――レオンハルト・ヴァルディスは、ヴァルグリムの魔力を観察していた。


……なるほど。


かなりの魔力量だ。


それに、単純な闇属性だけじゃない。


周囲の魔力を吸収し、魔法陣の構造そのものを書き換える性質がある。


厄介な能力ではある。


だが。


「エレノア」


「はい、レオン様」


隣に立つ銀髪の少女が、剣を構え直した。


「カインをお願いできる?」


「……レオン様は?」


「魔将の相手をする」


エレノアの青い瞳が、俺を見つめる。


一瞬だけ心配そうな色が浮かんだが、すぐに消えた。


「承知いたしました。必ず安全な場所へお連れします」


「頼んだよ」


俺は軽く笑った。


「それと、エレノア自身も怪我をしないこと」


「……レオン様も、同じでございます」


「もちろん」


彼女は少しだけ微笑み、カインの方へ走った。


その背後で、ヴァルグリムが笑った。


『余裕を見せるか、人間』


「余裕というより、役割分担だよ」


俺は剣を持ち上げた。


「ここには守るべき人がいるからね」


     ◇


ヴァルグリムが動いた。


巨体に似合わぬ速度だった。


三メートル近い甲冑が、床を滑るように距離を詰める。


黒い大剣が、斜め上から振り下ろされた。


その刃には、圧縮された闇属性魔力がまとわりついている。


単なる斬撃ではない。


触れた対象の魔力を吸い取る、侵食型の攻撃だ。


俺は右足を半歩引き、剣を斜めに立てた。


ギィィン!


二本の刃が接触する。


その瞬間、相手の剣から黒い魔力が流れ込もうとした。


……やっぱりな。


俺は剣身へ光属性の魔力を通した。


《光浄》。


白い輝きが刃の表面を走り、侵食してきた闇を分解する。


同時に、手首を外側へ返した。


相手の大剣が俺の剣を滑り、右肩の横を通過する。


ヴァルグリムの重心が、わずかに前へ流れた。


その隙へ踏み込む。


「――《雷閃》」


剣先に細い雷光が収束した。


狙いは、右肘の甲冑の継ぎ目。


突き出した剣先が、装甲の隙間へ正確に入る。


バチィッ!


紫電が内部へ走った。


ヴァルグリムの右腕が、一瞬硬直する。


『……ほう!』


魔将は驚くどころか、愉快そうに笑った。


そして左腕を振るった。


巨大な拳が、俺の側頭部へ迫る。


俺は膝をわずかに沈め、その下を潜った。


拳が頭上を通過する。


続けて、相手の懐へ身体を滑り込ませた。


左手を胸部へ向ける。


「――《風圧掌》」


圧縮した風が、一点で炸裂した。


ドンッ!


魔将の巨体が、数メートル後方へ滑る。


石床に、深い二本の溝が刻まれた。


……まずは、様子見だ。


     ◇


『見事な剣技だ』


ヴァルグリムが、大剣を肩へ担いだ。


『だが、我が本領は魔法にある』


その背後に、十二の黒い魔法陣が展開された。


円陣の中心から、槍の形をした闇が伸びる。


《黒獄十二槍》。


十二本の魔力槍が、異なる角度から俺へ殺到した。


正面から四本。


左右から六本。


さらに、頭上から二本。


……包囲攻撃か。


俺は剣を下ろし、左手を開いた。


「――《七彩神星陣》」


七つの魔法陣が、瞬時に浮かび上がった。


火、水、風、土、雷、光、闇。


それぞれが独立した回転軌道を持ち、俺を中心に巨大な星形を形成する。


最初に動いたのは、土属性の魔法陣だった。


「《岩盾六重》」


六枚の岩壁が、俺の周囲へ立ち上がる。


正面と左右から迫った十本の槍が、岩壁へ突き刺さった。


ズガガガッ!


岩が砕ける。


だが、その間に俺は頭上へ視線を向けた。


残る二本が、真っ直ぐ落下してくる。


「《雷風螺旋》」


雷と風を重ねた二本の螺旋が、上空へ伸びた。


風が槍の軌道をずらし、雷が魔力の結合点を破壊する。


パァン!


二本の闇槍が、空中で砕け散った。


そして。


「――返すよ」


俺は、砕けた岩壁の破片へ土属性の魔力を流し込んだ。


数十の石片が、宙へ浮かぶ。


そこへ風属性の加速を加える。


《岩弾風迅》。


石片が、矢のように射出された。


ヴァルグリムは大剣を横へ振り、正面の石弾を砕いた。


だが、俺はその反応を待っていた。


石弾の半分は、最初から命中させるつもりがなかった。


魔将の背後へ回り込む軌道。


風属性で、飛行方向を変える。


『……何!?』


背後から石弾が襲いかかる。


ドドドドッ!


甲冑の背面に、連続して衝撃が走った。


ヴァルグリムの巨体が、前方へよろめいた。


……そこだ。


俺は、一歩踏み込んだ。


「――《光雷穿》」


光属性の浄化と雷属性の貫通力を組み合わせた一撃。


剣先が白銀に輝き、細い雷光が螺旋を描く。


狙いは胸部の中心。


ズンッ!


剣先が、甲冑へ突き刺さった。


その瞬間。


魔将の身体から、黒い魔力が激しく噴き出した。


『グオオオッ!』


広間全体が震える。


俺は剣を引き、後方へ跳んだ。


……なるほど。


胸部に魔力の中枢がある。


そこを破壊すれば、戦闘は終わる。


だが。


まだ確認したいことがあった。


この魔将の魔力は、神殿そのものと繋がっている。


下手に中枢を破壊すれば、封印の残骸まで巻き込む可能性がある。


……少し、慎重にやろう。


     ◇


その頃。


広間の端では、エレノアがカインを支えていた。


「……立てますか?」


「……触るな」


カインは、彼女の手を振り払おうとした。


だが、右腕に走った痛みに顔を歪めた。


「ぐっ……!」


「無理をなさらないでください」


エレノアは、冷静に言った。


「その魔剣は、あなたの魔力回路へ干渉しています」


「……知ったような口を……」


「知識の問題ではございません」


エレノアの声が、少しだけ厳しくなった。


「今、あなたの身体に何が起きているかを見れば分かります」


カインは、言い返せなかった。


右腕の紋様が、脈打つように光っている。


魔剣を握る指先は、思うように動かなかった。


……。


「……あいつは」


カインが、低く呟いた。


「……何で、あんなに強いんだよ」


エレノアは、レオンの方を見た。


黒い魔将を相手に、七色の魔法陣を展開する少年。


その動きには、無駄がなかった。


剣を振るうたびに、相手の重心が崩れる。


魔法を放つたびに、魔将の攻撃が封じられる。


「……レオン様は」


エレノアが、静かに答えた。


「誰よりも強くなろうと努力してこられました」


……。


「そして、その力を誰かを傷つけるためではなく、守るために使われます」


カインは、唇を噛んだ。


「……綺麗事だ」


「そう思われても構いません」


エレノアは、真っ直ぐ彼を見た。


「ですが、私はそのお姿を、ずっと見てまいりました」


……。


カインは、黙り込んだ。


     ◇


広間の中央。


ヴァルグリムが、再び魔力を膨れ上がらせた。


『……面白い』


黒い甲冑の亀裂から、赤い光が漏れる。


『この時代にも、これほどの使い手がいたとはな』


俺は、剣を構えたまま答えた。


「それはどうも」


『だが、これで終わりではない』


魔将が、左手を床へ向けた。


巨大な黒い魔法陣が、広間全体へ広がる。


……。


俺は、すぐに気づいた。


これは攻撃魔法じゃない。


魔力吸収陣だ。


しかも。


広間にいる全員から、魔力を奪う構造になっている。


「……エレノア!」


俺が叫ぶ。


「カインから離れて!」


エレノアは、すぐに反応した。


「はい!」


彼女が後方へ跳んだ直後。


カインの右腕から、赤黒い魔力が噴き上がった。


「……うあああっ!」


魔剣グリムヴェインが、激しく震える。


刀身から伸びた黒い魔力が、床の魔法陣へ吸い込まれていく。


ヴァルグリムが、笑った。


『その剣は、我が力を蓄える器』


……。


『そして、愚かな人間の渇望こそ、最良の燃料だ』


……。


カインの顔が、青ざめた。


「……何だと?」


『お前が欲した力は、すべて我へ還る』


……。


魔将の魔力が、さらに膨れ上がる。


広間の壁に、無数の亀裂が走った。


……。


俺は、静かに息を吐いた。


「……なるほど」


これで、仕組みが分かった。


魔剣は、持ち主の魔力と感情を吸い上げる。


その魔力を、神殿の封印へ送り込む。


そして。


封印が崩れれば、ヴァルグリムが復活する。


……。


「……随分、悪趣味な仕組みだな」


俺は、剣を持ち上げた。


七つの魔法陣が、さらに強く輝く。


「でも、もう終わりにしよう」


……。


ヴァルグリムが、笑った。


『ほう?』


俺は、静かに答えた。


「仕組みが分かったなら、止めればいいだけだ」


……。


七彩神星陣の中心に、黒い光が集まり始めた。


《黒星解放》。


漆黒の魔力が、俺の周囲で静かに回転する。


そして。


古代魔将ヴァルグリムは、初めて笑みを消した。


『……その力は……』


……。


俺は、剣を構え直した。


「……さあ」


……。


「決着をつけようか」



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