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『悪役公爵令息レオンハルト』  作者: 覇王が好き
第三章 運命を奪われた勇者

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第124話 忘却の神殿――勇者候補が手にした禁断の魔剣

王国暦八二二年、新春月十六日。


王都ルミナスの西方。


深い森の奥に、古びた石造りの神殿が眠っていた。


崩れかけた柱。苔に覆われた階段。そして、巨大な岩壁に埋め込まれた青銅の扉。


カイン・ヴェルナーは、その扉の前で足を止めた。


「……やっと見つけたぜ」


吐き出した息が、白く染まる。


王都を出てから、ほぼ一日。


道なき森を進み、魔物を避け、ようやく辿り着いた場所だった。


《忘却の神殿》。


前世で遊んだゲーム『エターナル・レガリア』に登場する隠しダンジョン。


本来なら、物語の中盤以降に訪れる場所。


だが、カインは知っていた。


一定の条件を満たせば、序盤でも入口の封印を解除できることを。


「……攻略情報を知ってるってのは、こういうときに便利だよな」


カインは、扉の中央へ視線を向けた。


そこには、炎を象った古い紋章が刻まれている。


「確か、ここに火属性の魔力を流せば……」


右手を伸ばす。


赤い魔力が、指先へ集まった。


「――《炎灯》」


小さな炎が生まれ、紋章へ吸い込まれていく。


ゴゴゴゴ……。


重い音が、神殿の奥から響いた。


扉の表面を走る古代文字が、赤く輝き始める。


やがて。


巨大な扉が、ゆっくりと開いた。


「……よし!」


カインは、笑った。


「ゲーム通りだ!」


だが、彼は気づかなかった。


扉の内側。


長い年月を経て薄れた警告文が、淡く光っていたことに。


『炎を持つ者よ、剣を求めるな』


『剣は力を与えるにあらず』


『持つ者の渇望を喰らうものなり』


     ◇


神殿内部。


湿った石の匂いが漂う通路には、青白い魔法灯が等間隔に並んでいた。


カインは、剣を抜いた。


「……さて」


記憶を辿る。


最初の通路には、確か石像型の守護者が三体。


ゲームでは、火属性の範囲攻撃で簡単に倒せる敵だった。


そのとき。


ガリッ。


石を削るような音が響いた。


通路の左右に並んでいた騎士像が、ゆっくりと動き始める。


一体。


二体。


三体。


石造りの鎧。


鈍く光る剣。


そして、胸部に埋め込まれた紫色の魔導核。


「……来たな」


カインは、剣を構えた。


最初の守護者が、重い足音と共に踏み込む。


石剣が、頭上から振り下ろされた。


ゴォッ!


風圧が、髪を揺らす。


カインは右へ跳んだ。


剣が石床へ叩きつけられ、破片が飛び散る。


「遅え!」


着地と同時に、左足を軸に身体を回転させた。


剣を下段から斜め上へ振り抜く。


「――《紅蓮斬》!」


炎をまとった斬撃が、守護者の胴体へ命中した。


ドンッ!


石の装甲が砕け、守護者が後方へよろめく。


「よし!」


だが。


次の瞬間。


背後から、二体目の石剣が迫った。


「……っ!」


カインは、咄嗟に剣を横へ構えた。


ガァン!


強烈な衝撃。


腕が痺れる。


足元が滑り、身体が壁へ押し込まれた。


「ぐっ……!」


さらに。


三体目の守護者が、正面から突進してくる。


――挟まれた!


カインは歯を食いしばった。


左手に、赤い魔法陣を展開する。


「――《炎爆》!」


至近距離で、炎が炸裂した。


ドォン!


爆風が通路を駆け抜ける。


石像の身体が吹き飛び、壁へ激突した。


カイン自身も、衝撃で数歩後退する。


「はあっ……はあっ……!」


荒い息を吐く。


三体の守護者は、倒れていた。


だが。


完全には停止していない。


砕けた石片が、ゆっくりと集まり始める。


「……は?」


カインは、目を見開いた。


――ゲームじゃ、一回倒せば終わりだっただろ!


石片が、再び人型を形成していく。


胸部の魔導核が、紫色に明滅した。


「……くそっ!」


カインは、剣を握り直した。


今度は、魔導核を狙う。


最初の守護者が立ち上がる前に、地面を蹴った。


低く踏み込み、胸部へ突きを放つ。


「――《炎牙突》!」


鋭い炎が、石の胸板を貫いた。


パキンッ!


魔導核が砕ける。


守護者の動きが、完全に止まった。


「……なるほどな」


カインは、笑った。


「核を壊せばいいのか」


残る二体へ向き直る。


今度は、最初から胸部を狙った。


斬撃で相手の剣を弾き、身体を沈める。


足元を滑るように前進し、剣先を魔導核へ突き込む。


一体。


そして、もう一体。


数分後。


三体の守護者は、完全に沈黙した。


「……へっ」


カインは、額の汗を拭った。


「ちょっと手間取ったけど、こんなもんだろ」


だが。


その足元には、砕けた石像の破片が散乱していた。


彼は、気づいていなかった。


神殿の守護者が、侵入者の戦い方を記録していることに。


そして。


その記録が、神殿の最深部へ送られていたことに。


     ◇


神殿の奥。


カインは、長い階段を下りていた。


途中、いくつもの罠があった。


床から突き出す槍。


壁から放たれる魔法弾。


踏み込んだ者の足を拘束する魔法陣。


だが。


カインは、それらの配置を知っていた。


ゲームの攻略情報。


それが、彼を助けていた。


「……右の床は踏まない」


一歩、左へ。


「次は、三歩進んで止まる」


足元を青い光が走る。


直後、前方の床から槍が突き出した。


「……ほらな」


カインは、笑った。


「全部、覚えてるんだよ」


だが。


最後の扉の前で。


彼は、足を止めた。


「……何だ、これ」


ゲームには存在しなかった魔法陣が、床一面に広がっていた。


黒と赤の二重円。


その中央には、剣を抱いた人影の紋章。


周囲には、古代文字が刻まれている。


カインは、眉をひそめた。


「……こんなの、なかったぞ」


だが。


扉の向こうから、微かな光が漏れていた。


――もう少しだ。


――あの剣さえ手に入れれば……。


カインは、魔法陣へ足を踏み入れた。


その瞬間。


ズンッ!


重い振動が、神殿全体を揺らした。


黒い魔力が、床から立ち上がる。


「……っ!?」


カインは、咄嗟に剣を構えた。


だが。


魔法陣は、攻撃してこなかった。


代わりに。


頭の中へ、声が響いた。


『……力を、望むか』


……。


カインは、息を呑んだ。


「……誰だ?」


『……奪われたものを、取り戻したいか』


……。


その言葉に、カインの表情が変わった。


――奪われたもの。


セレスティア。


リゼット。


エリシア。


そして、勇者としての名誉。


自分が手に入れるはずだったもの。


「……ああ」


カインは、低く答えた。


「……全部、取り戻したい」


『……ならば、進め』


黒い魔力が、ゆっくりと消えた。


そして。


最深部への扉が、開いた。


     ◇


神殿最深部。


巨大な円形の広間。


その中央には、黒い石台が置かれていた。


石台の上に。


一本の剣が、突き立てられていた。


漆黒の刀身。


赤い紋様。


そして、柄の中央に埋め込まれた紫色の宝石。


カインは、息を呑んだ。


「……あった」


ゲームで見た、隠し装備。


《魔剣グリムヴェイン》。


火属性の攻撃力を大幅に上昇させる、強力な魔剣。


「……これだ!」


カインは、石台へ駆け寄った。


剣の柄を握る。


その瞬間。


冷たい感触が、腕を伝った。


……。


「……何だ?」


だが。


すぐに、力が流れ込んできた。


大量の魔力。


身体の奥から、熱が湧き上がる。


「……おおっ!」


カインは、笑った。


「……すげえ!」


剣を引き抜く。


ゴォッ!


漆黒の刀身から、赤黒い炎が噴き上がった。


広間の空気が、激しく震える。


カインは、剣を掲げた。


「……これなら!」


彼の口元が、歪んだ。


「……レオンハルトにも、勝てる!」


だが。


その背後で。


石台に刻まれていた封印文字が、一つずつ砕けていた。


パキン。


パキン。


パキン。


……。


神殿の最深部。


誰もいない闇の奥で。


何かが、ゆっくりと目を開いた。



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