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『悪役公爵令息レオンハルト』  作者: 覇王が好き
第一章 運命を覆す者

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第12話 悪役公爵令息、王太子の断罪を覆す

 王国暦八百二十一年、春月二十二日。


 ルミナス王城、大舞踏会場。


「レオンハルト・ヴァルディス! 貴様には重大な疑惑がある!」


 王太子アドリアン・ルミナスの声が、華やかな大広間に響き渡った。


 楽団の演奏が止まり、貴族たちの視線が一斉に俺へ集まる。


 ……やれやれ。


 予想はしていたが、まさか建国記念舞踏会の真っ最中に仕掛けてくるとはな。


 俺は手にしていたグラスを給仕へ預け、ゆっくりと前へ進み出た。


「重大な疑惑、ですか」


「そうだ!」


 アドリアンは勝ち誇ったように顎を上げた。


「貴様は婚約者であったヴィオレッタ・ローゼンベルク嬢を長年にわたり虐げ、その地位を利用して彼女を苦しめてきた!」


 ざわり。


 会場に動揺が広がった。


「さらに、最近の王女襲撃事件についても不審な点が多い!」


「……ほう」


「都合よく現れ、妹を救い、王家の信頼を取り戻した。まるで襲撃を事前に知っていたかのようではないか!」


 なるほど。


 昔の悪評と最近の事件を一緒くたにして、俺を疑わしい人物に仕立て上げるつもりか。


 だが、それだけでは犯罪の証明にはならない。


「殿下」


「何だ!」


「確認させていただきたいのですが」


 俺は穏やかに尋ねた。


「今のお話は、王国法に基づく正式な告発でしょうか。それとも、殿下個人のご意見でしょうか?」


 アドリアンの眉が動いた。


「……何?」


「正式な告発であれば、具体的な罪状と証拠をお示しください。個人的なご意見であれば、喜んで拝聴いたします」


「貴様、私を愚弄する気か!」


「いいえ。殿下のご発言の意味を、正確に理解したいだけです」


 俺は軽く微笑んだ。


 ……さあ、どうする?


 ここで正式な告発だと言い切れば、証拠を提出する責任が生じる。


 逆に個人的な意見だと認めれば、王太子が公の祝宴で一貴族を中傷したことになる。


 アドリアンは一瞬だけ言葉に詰まった。


 だが、すぐに声を張り上げる。


「証人ならいる!」


 ……そう来るよな。


「ヴィオレッタ・ローゼンベルク嬢!」


 会場の端にいた少女が、びくりと肩を震わせた。


「こちらへ来い!」


 ヴィオレッタは青ざめた顔で俺を見た。


 俺は何も言わず、小さく頷いた。


 彼女自身が決めることだ。


 今度こそ、自分の意思で。


 ◇◆◇


 ヴィオレッタは、大広間の中央へ進み出た。


 栗色の髪が、かすかに揺れている。


 王太子アドリアンは満足そうに笑った。


「ヴィオレッタ。皆の前で証言するのだ」


「……殿下」


「レオンハルトがいかに冷酷で、婚約者である君を苦しめていたか。遠慮はいらん」


 その瞬間、ヴィオレッタの表情が歪んだ。


 俺は黙って彼女を見守った。


 会場は静まり返っている。


 やがて、ヴィオレッタが口を開いた。


「……皆様」


 震える声。


「私は以前、レオンハルト様から酷い扱いを受けていたと、周囲の方々にお話ししました」


 貴族たちが頷く。


 それは、すでに広く知られた噂だった。


 だが。


「……あれは、事実ではありません」


 沈黙。


 そして。


「……何だと?」


 アドリアンが低い声を漏らした。


 ヴィオレッタは、震える拳を握りしめた。


「レオンハルト様は、私を虐げたことなど一度もありません」


 会場が大きくざわめいた。


「むしろ、いつも私を大切にしてくださいました」


「ヴィオレッタ!」


 王太子が怒鳴った。


「何を言っている!」


 だが、彼女は止まらなかった。


「婚約者でありながら、王太子殿下に心を寄せたのは私です」


 涙が頬を伝う。


「それを正当化するために、私はレオンハルト様の悪評を広めました」


 俺は静かに息を吐いた。


 ……言ったか。


 彼女にとって、これは簡単な告白ではない。


 侯爵家の名誉。


 王太子との関係。


 自分自身の将来。


 そのすべてを失う可能性がある。


 それでも、彼女は口を開いた。


「そして……」


 ヴィオレッタは俺を見た。


「私は、ヴァルディス公爵家に関する情報を、許可なく外部へ伝えたこともあります」


 今度こそ、会場が凍りついた。


 軍事貴族であるヴァルディス家の情報。


 それを外部へ漏らしたという告白は、単なる恋愛問題では済まない。


「……何だと?」


 低い声が響いた。


 父アルフォンスだった。


 ……まずい。


 俺は内心で少し身構えた。


 父は、ゆっくりとこちらへ歩いてくる。


 その表情には、先ほどまでの親バカな笑みが一切なかった。


「ローゼンベルク侯爵令嬢」


「……は、はい」


「今の発言に、間違いはないか?」


 ヴィオレッタは震えながら頷いた。


「……ございません」


「誰に渡した?」


「……王太子殿下の側近の方々です」


 父の瞳が、鋭く光った。


「……なるほど」


 たった一言。


 だが、その声には戦場で数万の兵を率いた男の威圧感があった。


 アドリアンの顔色が変わる。


「ま、待て! それは誤解だ!」


 父は静かに王太子へ向き直った。


「殿下」


「……何だ」


「我が家の情報が、王太子府の関係者へ不正に流れた可能性がある。これは王国の安全保障にも関わる問題です」


「私は知らん!」


「では、正式な調査にご協力いただけますな?」


「…………!」


 ……父上。


 やっぱり怖いな。


 ◇◆◇


「お待ちください!」


 そのとき、別の声が響いた。


 金髪碧眼の少年。


 勇者アルベルト・レイフォードだった。


「皆様、どうか冷静に!」


 彼は大広間の中央へ進み出る。


「ヴィオレッタ嬢は、何らかの圧力を受けている可能性があります!」


 ……なるほど。


 そう来るか。


「彼女は以前、レオンハルト様を恐れていた。それが突然、すべて嘘だったと証言するなど不自然です!」


 貴族たちの間に、新たなざわめきが広がった。


 俺は小さく笑った。


「アルベルト」


「……何でしょう?」


「圧力を受けているという根拠は?」


「それは……!」


「彼女自身の証言を否定するだけの証拠があるのか?」


 アルベルトの目が細くなる。


「……私は、彼女の身を案じているだけです」


「なら、本人に聞けばいい」


 俺はヴィオレッタへ視線を向けた。


「ヴィオレッタ。俺に何か脅されたか?」


「……いいえ」


 彼女は即座に答えた。


「私は、自分の意思でお話ししています」


 アルベルトの笑顔が引きつった。


 だが、まだ諦めていない。


「……しかし!」


「それに、もう一つ」


 俺は静かに続けた。


「そもそも殿下は、俺の悪行を証明するために彼女を呼んだんだろう?」


「……そうだが」


「その証人が予想と違うことを言ったからといって、今度は証言が信用できないと言うのか?」


 会場のあちこちから、小さな笑いが漏れた。


 アルベルトは口を閉ざした。


 ……まあ、当然だ。


 証人を呼んだ側が、都合の悪い証言だけ否定していては話にならない。


 ただし、ヴィオレッタの証言だけで王太子の罪が確定するわけでもない。


 そこは慎重に進める必要がある。


 俺は懐から一通の書簡を取り出した。


「殿下」


「……何だ!」


「こちらの手紙に、お心当たりはございますか?」


 王家の封蝋。


 王太子府の書式。


 そして、ヴィオレッタへ新たな証言を求める文面。


 アドリアンの顔色が変わった。


「……それを、どこで!」


「ヴィオレッタから預かりました」


 俺は静かに続ける。


「この書簡は、昨夜のうちに写しを作成し、原本を封印した上で王国監察官へ預けています」


 これは本当だ。


 ヴィオレッタから受け取った手紙を、俺は独断で公表しなかった。


 セバスティアンを通じて、正式な手続きで保全してもらったのだ。


「もっとも、これだけで殿下が虚偽の証言を命じたと断定するつもりはありません」


 俺は微笑んだ。


「ですから、作成者と意図を調べていただきたいのです」


 アドリアンは唇を噛んだ。


 ……さて。


 これで少なくとも、俺を一方的に断罪するのは難しくなったはずだ。


 ◇◆◇


「……そこまでだ」


 大広間の奥から、威厳ある声が響いた。


 国王アレクシス・ルミナス。


 王国の最高権力者が、玉座の前に立っていた。


 その表情は厳しい。


「アドリアン」


「……父上!」


「建国記念の祝宴を、何の許可もなく告発の場に変えたのか?」


「……それは!」


「答えよ」


 王太子は言葉に詰まった。


「……私は、王国の秩序を守るために……」


「秩序を守る者が、証拠も整えずに公爵家の後継者を糾弾するのか?」


 国王の声が、大広間に響く。


「しかも、その場で証人が従来の証言を撤回した。これは慎重に調べねばならん事態だ」


「……父上!」


「黙れ」


 王太子は、完全に口を閉ざした。


 ……さすが国王陛下。


 父上とは違う意味で迫力がある。


 国王は俺へ視線を向けた。


「レオンハルト」


「……はい、陛下」


「そなたにも聞こう。何か申し立てはあるか?」


 俺は一礼した。


「私からお願いしたいのは、公平な調査のみです」


「……ほう」


「王太子殿下のご発言も、ヴィオレッタ嬢の証言も、書簡の真偽も。すべて正式に調べていただきたいと存じます」


 国王は、しばらく俺を見つめた。


 そして、ゆっくりと頷いた。


「……よかろう」


 国王は王国監察官へ命じた。


「王太子府からの書簡、ローゼンベルク侯爵令嬢の証言、ヴァルディス家の情報漏洩疑惑について、正式に調査せよ」


「はっ!」


「関係者には証拠保全を命じる。調査を妨害する者は、身分を問わず処分する」


 その言葉に、会場が大きくざわめいた。


 王太子アドリアンの顔は、真っ青になっていた。


 国王はさらに続ける。


「アドリアン。調査が終わるまで、そなたは王太子府の関係書類に独断で触れてはならん」


「……そんな!」


「異議は認めん」


 ……なるほど。


 王太子の地位を即座に剥奪するわけではない。


 だが、独断で証拠を処分することは難しくなった。


 現時点では、妥当な裁定だろう。


 ◇◆◇


 そのときだった。


「……レオンちゃん」


 背後から、恐ろしく優しい声が聞こえた。


 ……あ。


 俺は、ゆっくりと振り返った。


 母エレオノーラが、満面の笑みを浮かべて立っていた。


「……母上」


「大丈夫? 怖くなかった?」


「……はい。全然」


「本当に?」


「……本当です」


 母は、ほっとしたように微笑んだ。


 そして。


 王太子へ視線を向けた。


「……アドリアン殿下」


 その瞬間。


 空気が変わった。


 母の周囲に、淡い銀色の魔力が漂い始める。


 ……おいおい。


 母上。


 ここ、王城ですよ。


「……何でしょう、エレオノーラ公爵夫人」


 アドリアンは、無理やり笑顔を作った。


 母は、優しく微笑んだ。


「一つだけ、お願いがございますの」


「……お願い?」


「今後、私の息子について何かお疑いになる場合は、どうぞ正式な手続きをお取りくださいませ」


「……もちろんだ」


「それと」


 母の笑顔が、さらに深くなる。


「事実を確かめる前に、あの子を悪者と決めつけるのは、おやめくださいね?」


 その声は、穏やかだった。


 だが。


 アドリアンの額から、冷や汗が流れていた。


 ……わかる。


 俺にもわかるぞ。


 今の母上は、めちゃくちゃ怒っている。


「……承知した」


 王太子が、絞り出すように答えた。


 母は満足そうに頷いた。


「まあ、よかった♡」


 そして、くるりと振り返る。


「レオンちゃん!」


「……はい?」


「お母様、頑張ったわ!」


「……ええ。ありがとうございます」


「じゃあ、ご褒美に抱きしめてもいい?」


「何でそうなるんですか!?」


 会場のあちこちから、笑いが漏れた。


 ……やめてくれ。


 さっきまでの緊張感が台無しだ。


 だが。


 母の腕の中に引き寄せられながら、俺は少しだけ笑ってしまった。


 ……本当に。


 この家族には、敵わない。


 ◇◆◇


 舞踏会は、予定より早く閉会となった。


 俺は王城の回廊を歩いていた。


 隣にはエレノア。


 少し後ろには、父と母がいる。


「……レオンハルト様」


 エレノアが、静かに声をかけてきた。


「……ん?」


「……本日は、お見事でございました」


「……そうか?」


「はい」


 彼女は柔らかく微笑んだ。


「剣も魔法も使わずに、あれほど見事に切り返されるとは」


 俺は肩をすくめた。


「……相手が勝手に墓穴を掘っただけだよ」


 そのとき。


「……レオン!」


 聞き覚えのある声が響いた。


 振り返る。


 そこに立っていたのは、セレスティアだった。


「……セレス」


 彼女は少し息を切らしていた。


「……大丈夫だった?」


「ああ」


 俺は軽く笑った。


「……見ての通りだ」


 セレスティアは、ほっとしたように胸を撫で下ろした。


「……よかった」


 そして、少しだけ表情を曇らせる。


「……兄上が、あんなことをするなんて」


 俺は、静かに首を振った。


「……お前が謝ることじゃない」


「……でも」


「……セレス」


 俺は、彼女を真っ直ぐに見つめた。


「……お前は、お前だろ」


 その瞬間。


 セレスティアの瞳が、大きく見開かれた。


「……っ!」


「……兄上のしたことまで、背負う必要はない」


 彼女は、しばらく黙っていた。


 そして。


 ゆっくりと微笑んだ。


「……ありがとう、レオン」


 その頬は、ほんのり赤く染まっていた。


 ……ん?


 また何か変なことを言ったか?


 俺は、少しだけ首を傾げた。


 すると。


「……レオンハルト様!」


 今度は、別の声が響いた。


 聖女エリシアだった。


「……エリシア」


 彼女は、少しだけ息を切らしていた。


「……お怪我は、ございませんか?」


「……大丈夫だ」


 俺が答えると、彼女はほっとしたように微笑んだ。


「……本当によかったです」


 その瞳には、心からの安堵が宿っていた。


 ……まったく。


 心配しすぎだろ。


 そう思った瞬間。


「……レオンハルト様」


 さらに、別の声が響いた。


 ……まさか。


 俺は、ゆっくりと振り返った。


 そこには。


 ヴィオレッタ・ローゼンベルクが立っていた。


「……ヴィオレッタ」


 彼女は、静かに頭を下げた。


「……本日は、ご迷惑をおかけしました」


 俺は、少しだけ目を細めた。


「……いや」


 そして、静かに続けた。


「……よく、自分の言葉で話したな」


 その瞬間。


 ヴィオレッタの瞳が、大きく見開かれた。


「……っ!」


「……簡単なことじゃなかっただろ」


 彼女は、唇を噛んだ。


 そして。


 ゆっくりと頷いた。


「……はい」


 その瞳から、涙が零れた。


「……ですが、もう嘘をつきたくありませんでした」


 俺は、静かに頷いた。


「……それでいい」


 その言葉に、彼女は小さく微笑んだ。


 ……さて。


 これで、少しは前に進めるかもしれないな。


 ◇◆◇


 その様子を、少し離れた場所から見つめる者がいた。


 エレノア・シルヴェイン。


 銀髪の侍女は、静かに微笑んでいた。


 ……レオンハルト様は、本当にお優しい。


 王女セレスティア。


 聖女エリシア。


 元婚約者ヴィオレッタ。


 彼女たちは皆、レオンハルトの周囲に集まり始めている。


 ……当然です。


 エレノアは、静かに思った。


 あの方の本当の姿を知れば、誰だって惹かれてしまう。


 強くて。


 優しくて。


 誰よりも、他人を大切にする人。


 ……ですが。


 彼女は、胸元へ手を当てた。


 少しだけ、胸が痛んだ。


 ……私も。


 私も、あの方の隣にいたい。


 侍女としてだけではなく。


 一人の女性として。


 ……いつか。


 その想いを、伝えられる日が来るのだろうか。


 エレノアは、静かに目を閉じた。


 ◇◆◇


 同じ頃。


 王城の奥。


 王太子アドリアンは、自室で怒りを爆発させていた。


「……ふざけるな!!」


 ガシャァン!


 高価なグラスが、壁へ叩きつけられる。


「……あの小僧が!!」


 アドリアンは、荒い息を吐いた。


 自分が仕掛けた断罪劇。


 それが、完全に裏目へ出た。


 ヴィオレッタは裏切り。


 アルベルトは何もできず。


 父王にまで叱責された。


 そして。


 レオンハルトは、何一つ失っていない。


「……許さん……!」


 そのとき。


 コンコン。


 扉が叩かれた。


「……誰だ!」


「……殿下」


 低い声が響いた。


「……お話がございます」


 入ってきたのは、黒い外套をまとった男だった。


「……何の用だ」


 アドリアンは、苛立たしげに睨みつけた。


 男は、静かに微笑んだ。


「……本日の件、残念でございました」


「……黙れ!」


「……ですが」


 男は、ゆっくりと続けた。


「……まだ、手はございます」


 アドリアンの目が、細くなる。


「……何?」


 男は、机の上に一枚の書類を置いた。


 そこには、王国の外交任務に関する計画が記されていた。


「……ヴァルディス公爵夫妻を、王都から遠ざけるのです」


 アドリアンは、ゆっくりと書類へ視線を落とした。


「……なるほど」


 その瞳に、冷たい光が宿る。


「……そういうことか」


 男は、静かに笑った。


「……黒獅子と銀月の魔女がいなければ、あの少年も孤立するでしょう」


 アドリアンは、しばらく黙っていた。


 そして。


 ゆっくりと笑った。


「……いいだろう」


 その声には、暗い感情が宿っていた。


「……次こそ、必ず潰してやる」


 ◇◆◇


 だが。


 彼らは、知らなかった。


 ヴァルディス公爵家の情報網が、すでに王城の一部へ入り込んでいることを。


 そして。


 王太子府の不審な動きを、セバスティアンが密かに調べ始めていることを。


 その日の深夜。


 ヴァルディス公爵家別邸。


 俺は、セバスティアンから報告を受けていた。


「……王太子府で、不審な動きが?」


「……はい」


 老執事は、静かに頷いた。


「……公爵夫妻を王都から遠ざけるための、外交任務が検討されているようです」


 その瞬間。


 俺の表情が、変わった。


 ……外交任務。


 ……公爵夫妻を、王都から遠ざける。


 その言葉には、覚えがあった。


 原作ゲーム。


『エターナル・レガリア』


 レオンハルトが最後の戦いへ追い込まれる直前。


 父アルフォンスと母エレオノーラは、外交任務を理由に国外へ派遣されていた。


 そして。


 その間に、レオンハルトは孤立した。


 ……まさか。


 俺は、静かに目を細めた。


 ……もう、その準備を始めているのか。


「……セバスティアン」


「……はい」


「……父上と母上には、まだ何も言うな」


 老執事が、少しだけ眉を動かした。


「……よろしいのですか?」


「……ああ」


 俺は、静かに頷いた。


「……まずは、相手が何を企んでいるのか確かめたい」


 そして。


 ゆっくりと微笑んだ。


「……今度は、こちらから仕掛ける」


 セバスティアンは、静かに頭を下げた。


「……承知いたしました」


 俺は、窓の外へ視線を向けた。


 夜空には、無数の星が輝いている。


 ……原作では。


 レオンハルトは、誰にも助けられずに死んだ。


 だが。


 今は違う。


 父がいる。


 母がいる。


 エレノアがいる。


 そして。


 少しずつ、仲間も増えている。


 ……なら。


 今度こそ。


 あの悲劇を、完全に覆してやる。


 ――黒き暴君と呼ばれた少年は、静かに運命へ牙を剥いた。

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