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『悪役公爵令息レオンハルト』  作者: 覇王が好き
第二章・王立学園編

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第113話 黒獅子の息子――王国が認めた次代の英雄

第113話 黒獅子の息子――王国が認めた次代の英雄


王国暦八二一年、冬月二十二日。


王都ルミナス。


王宮、大謁見の間。


高い天井から吊るされた巨大な魔導灯が、広間を明るく照らしていた。


赤い絨毯。


金色の装飾。


王国の歴史を描いた壁画。


その中央には、王国の貴族や騎士団幹部、魔導師たちが整列していた。


今日は、先日の魔導演習事故に関する功績者への正式な表彰式だった。


そして。


その中心に立つのは。


レオンハルト・ヴァルディス。


黒髪の公爵令息。


十五歳。


王国でも類を見ない七属性の魔法適性を持ち、数々の危機から人々を守ってきた少年だった。


「……緊張しているの?」


隣から、声がした。


振り向くと、セレスティアが微笑んでいた。


「……少しな」


俺は、苦笑した。


「こういう場は、どうも慣れない」


「ふふっ」


セレスは、楽しそうに笑った。


「戦場ではあんなに堂々としているのに」


「戦場と式典は、全然違うだろ」


「それもそうね」


彼女は、少しだけ近づいた。


「でも、大丈夫よ」


そして。


そっと、俺の手に触れた。


「今日は、あなたがしてきたことを、皆が認める日なんだから」


……。


俺は、静かに頷いた。


「……ありがとう」


そのとき。


広間の奥から、儀礼官の声が響いた。


「国王陛下、ご入場!」


一斉に、貴族たちが頭を下げた。


     ◇


国王アレクシス・ルミナス。


王国を統べる人物が、玉座へ歩み寄った。


その表情は、厳かだった。


「……面を上げよ」


低く、よく通る声が響く。


国王は、広間を見渡した。


「本日、我々がここに集った理由は、一つではない」


……。


「先日の魔導演習事故は、王国にとって大きな痛手であった」


その言葉に、広間が静まり返った。


「学園の安全管理に不備があり、複数の生徒が傷ついた」


……。


「その責任は、厳正に追及されなければならぬ」


国王は、静かに続けた。


「だが同時に」


その視線が、一人の少年へ向けられた。


「危険を顧みず、人々を救おうとした者たちの功績も、正しく評価せねばならない」


……。


「レオンハルト・ヴァルディス」


名前が、広間へ響いた。


俺は、一歩前へ進んだ。


「……はい」


国王は、真っ直ぐに俺を見つめた。


「そなたは、事故発生時に迅速な救助活動を行い、被害の拡大を防いだ」


……。


「また、関係者の救命に尽力し、王国にとって重要な人命を守った」


俺は、静かに頭を下げた。


「……恐れ入ります」


国王は、頷いた。


「よって、王国はそなたの功績を正式に認める」


儀礼官が、銀色の勲章を運んできた。


中央には、七つの星が刻まれている。


「王国七星功労章を授与する」


……。


広間が、ざわめいた。


七星功労章。


王国において、特に優れた功績を残した者へ授与される名誉ある勲章。


それを。


十五歳の少年が、授かろうとしていた。


「……レオンハルト・ヴァルディス」


国王は、静かに言った。


「そなたの勇気と献身に、王国を代表して感謝する」


俺は、深く頭を下げた。


「……ありがとうございます」


そして。


勲章を受け取った。


その瞬間。


広間に、大きな拍手が響き渡った。


     ◇


表彰式の後。


王宮の控えの間。


「……レオン!」


セレスティアが、嬉しそうに駆け寄ってきた。


「おめでとう!」


「ありがとう、セレス」


「本当に、誇らしいわ」


彼女は、心から微笑んでいた。


その後ろから、リゼットとエリシアも姿を見せた。


「レオンハルト様、おめでとうございます」


リゼットが、丁寧に頭を下げた。


「とても立派でした」


エリシアも、優しく微笑んだ。


「本当に、おめでとうございます」


俺は、少し照れくさくなった。


「……ありがとう。でも、俺一人の力じゃないよ」


三人が、首を傾げた。


「……?」


俺は、静かに続けた。


「リゼットが魔導記録を調べてくれた」


リゼットの瞳が、揺れた。


「エリシアが、二人を治療してくれた」


エリシアが、優しく微笑んだ。


「セレスも、ずっと支えてくれた」


セレスティアの頬が、赤くなった。


「……レオン」


俺は、三人を見つめた。


「だから、この勲章は皆のおかげだと思ってる」


……沈黙。


そして。


セレスティアが、小さく笑った。


「……本当に、あなたらしいわね」


リゼットも、微笑んだ。


「……そうですね」


エリシアは、静かに頷いた。


「……だからこそ、皆さんがあなたを慕うのでしょうね」


俺は、少しだけ首を傾げた。


「……そうなのかな」


三人は、顔を見合わせた。


そして。


誰からともなく、笑い始めた。


     ◇


その日の夕方。


ヴァルディス公爵邸。


父アルフォンスが、俺の勲章を見つめていた。


「……七星功労章か」


その声には、深い感慨が込められていた。


「十五歳で授かるとはな」


「……父上」


俺は、少し照れくさくなった。


「そんなに大したことじゃ……」


「大したことだ」


父は、静かに言った。


「だが」


その瞳が、優しく細められた。


「私が誇らしく思うのは、勲章そのものではない」


……。


「お前が、誰かを守るために力を使ったことだ」


俺は、静かに父を見つめた。


「……父上」


「強さとは、ただ敵を倒すためのものではない」


父は、ゆっくりと続けた。


「守るべきものを守り、責任を果たすためにある」


……。


「お前は、それを行動で示した」


その言葉に、胸が熱くなった。


「……ありがとうございます」


父は、俺の肩へ手を置いた。


「よくやった、レオン」


その瞬間。


俺は、少しだけ目を伏せた。


どれほど強くなっても。


父に褒められることは、やっぱり嬉しかった。


     ◇


夜。


公爵邸の庭園。


俺は、一人で空を見上げていた。


冬の星空が、静かに広がっている。


胸元には、七星功労章。


手首には、リゼットから贈られた紫水晶の腕輪。


……随分、遠くまで来たな。


そう思った。


前世。


俺は、この世界をゲームとして知っていた。


そして。


レオンハルト・ヴァルディスという人物が、どんな結末を迎えるのかも。


傲慢な悪役公爵令息。


勇者に敗れ、破滅する運命。


本来なら、それが俺の未来だった。


けれど。


今は違う。


家族がいる。


友人がいる。


大切な人たちがいる。


そして。


自分を信じてくれる人々がいる。


「……レオン?」


声が響いた。


振り向くと、シャルロットが立っていた。


「……シャル姉」


彼女は、微笑んだ。


「おめでとう」


「……ありがとう」


シャル姉は、俺の隣へ並んだ。


「今日のあなた、本当に格好よかったわ」


「……そんなことないよ」


「あるわよ」


彼女は、少しだけ頬を赤くした。


「……私、自慢の弟分だと思ってるもの」


俺は、笑った。


「……それは嬉しいな」


すると。


シャル姉は、少しだけ視線を落とした。


「……でも」


「……ん?」


「……いつか」


彼女は、静かに続けた。


「弟分じゃなくて、一人の男性として、あなたを見てもいい?」


……。


俺は、思わず彼女を見た。


「……シャル姉?」


彼女は、少しだけ微笑んだ。


「……何でもない」


そして。


「今日は、ゆっくり休んでね」


そう言って、庭園を後にした。


俺は、その背中を見送った。


……。


胸の奥が、少しだけ落ち着かなかった。


最近。


セレスティアも。


リゼットも。


エリシアも。


そして、シャル姉も。


どこか、以前とは違う。


……もしかして。


俺は、ゆっくりと息を吐いた。


……いや。


今は、まだ。


答えを出すには、早い気がした。


冬の夜空に、星が瞬いていた。


悪役公爵令息だった少年は。


今や、王国から正式に功績を認められる存在となった。


しかし。


彼にとって、本当に大切なものは。


勲章でも。


名誉でも。


権力でもなかった。


それは。


自分を信じてくれる人々と。


その人々が笑っていられる、穏やかな日常だった。



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