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『悪役公爵令息レオンハルト』  作者: 覇王が好き
第二章・王立学園編

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第112話 恋する少女たちの密談――譲れない想い

第112話 恋する少女たちの密談――譲れない想い


王国暦八二一年、冬月二十日。


王立アストレア学園、女子生徒専用談話室。


冬の午後。


大きな窓から差し込む陽光が、白いテーブルクロスを柔らかく照らしていた。


テーブルには、焼き菓子と香り高い紅茶。


そして、その周囲には、学園でも特に注目を集める少女たちが座っていた。


第一王女、セレスティア・ルミナス。


天才魔導師、リゼット・クローディア。


聖女、エリシア・フィオーレ。


そして。


《蒼風の剣姫》シャルロット・ヴァルディス。


本来なら、それぞれの立場から多忙な日々を送る四人だった。


しかし今日は、セレスティアの提案によって、小さなお茶会が開かれていた。


「……それで」


セレスティアが、静かに口を開いた。


「皆さんに、少しお聞きしたいことがあるの」


リゼットが、首を傾げた。


「何でしょうか?」


エリシアも、穏やかに微笑む。


「私たちでお答えできることでしたら」


シャルロットは、紅茶を一口飲んだ。


「何だか、改まっているわね」


セレスティアは、しばらく言葉を探した。


そして。


「……レオンのことなの」


その瞬間。


空気が、微かに変わった。


リゼットの指が止まる。


エリシアが、静かに瞬きをする。


シャルロットは、ゆっくりとカップを置いた。


「……レオン?」


「ええ」


セレスティアは、三人を見つめた。


「皆さん、彼のことをどう思っているのかしら?」


……沈黙。


窓の外で、小鳥が鳴いた。


リゼットが、少しだけ頬を赤くした。


「……とても、尊敬しています」


「それだけ?」


セレスティアが、優しく尋ねる。


「……それは」


リゼットは、言葉に詰まった。


エリシアが、小さく笑った。


「セレスティア様。少し意地悪ですよ」


「そうかしら?」


王女は、微笑んだ。


「でも、エリシアさんも同じでしょう?」


「……え?」


「レオンを見るとき、とても優しい顔をしているもの」


エリシアの頬が、ほんのり赤くなった。


「……そんなに、分かりやすいでしょうか」


「ええ」


セレスティアは、即答した。


その様子に、シャルロットが思わず笑った。


「……ふふっ」


三人の視線が、彼女へ向く。


「……シャルロット様?」


シャルロットは、少し困ったように微笑んだ。


「何だか、皆同じことを考えているみたいね」


その言葉に。


四人は、互いの顔を見合わせた。


そして。


誰からともなく、小さく笑い始めた。


     ◇


「……私は」


最初に口を開いたのは、セレスティアだった。


「レオンのことが、好きよ」


あまりにも真っ直ぐな言葉だった。


リゼットが、目を見開く。


エリシアも、少し驚いたように顔を上げた。


シャルロットは、静かに彼女を見つめた。


セレスティアは、頬を赤くしながらも続けた。


「幼なじみとして、ずっと一緒に過ごしてきたわ」


彼女は、懐かしそうに微笑んだ。


「子供の頃は、ただ一緒にいるのが楽しかった」


……。


「でも、いつの間にか」


セレスティアは、胸元へ手を当てた。


「彼の隣にいることが、特別になっていたの」


その声には、確かな想いが込められていた。


「王女としてではなく、一人の少女として」


そして。


「……いつか、レオンに選んでもらいたいと思っているわ」


……沈黙。


リゼットは、しばらく俯いていた。


だが。


やがて、ゆっくりと顔を上げた。


「……私も、同じです」


セレスティアが、彼女を見つめた。


「……リゼットさん」


「私は、レオンハルト様に救われました」


リゼットは、静かに語り始めた。


「誰も私の話を信じてくれなかったとき、あの方だけは違いました」


……。


「私の才能を認めてくださって、私の言葉を信じてくださった」


彼女の瞳が、優しく揺れた。


「……最初は、尊敬でした」


そして。


「でも、今は違います」


リゼットは、勇気を振り絞った。


「私は、レオンハルト様が好きです」


その言葉に。


セレスティアは、静かに頷いた。


「……そう」


リゼットは、少しだけ微笑んだ。


「……ですから」


彼女は、真っ直ぐに王女を見つめた。


「私も、諦めるつもりはありません」


……。


セレスティアは、一瞬驚いた。


そして。


楽しそうに微笑んだ。


「……望むところよ」


     ◇


「……では」


今度は、エリシアが口を開いた。


「私も、正直にお話ししますね」


三人の視線が、彼女へ向いた。


エリシアは、静かに微笑んだ。


「私も、レオン様が好きです」


その言葉は、穏やかだった。


けれど。


迷いはなかった。


「私は、ずっと聖女として生きてきました」


彼女は、ゆっくりと続けた。


「誰かを救うことが、自分の役割だと思っていました」


……。


「でも、レオン様は」


エリシアの瞳が、柔らかく細められた。


「私自身の幸せを、願ってもいいと言ってくださったんです」


リゼットが、静かに頷いた。


「……レオンハルト様らしいですね」


「はい」


エリシアは、微笑んだ。


「だから、私は」


胸元へ手を当てた。


「聖女としてではなく、一人の少女として、あの方の隣にいたいんです」


その言葉に。


セレスティアも、リゼットも、静かに頷いた。


そして。


三人の視線が、最後の一人へ向いた。


シャルロット・ヴァルディス。


彼女は、少しだけ困ったように笑った。


「……やっぱり、私にも聞くのね」


「もちろんです」


セレスティアが、即答した。


「シャルロット様は、レオンと一番近いところにいる方の一人ですもの」


……。


シャルロットは、しばらく黙っていた。


そして。


静かに口を開いた。


「……私は、レオンのことが大好きよ」


その言葉に、三人が息を呑んだ。


「家族としても、もちろん」


シャルロットは、微笑んだ。


「でも、それだけじゃない」


……。


「子供の頃から、ずっと一緒にいた」


彼女は、窓の外を見つめた。


「剣の練習をしたり、喧嘩をしたり、笑い合ったり」


……。


「そして、今回の事件で」


シャルロットの声が、少し震えた。


「改めて、気づいたの」


彼女は、そっと胸元へ手を当てた。


「……私は、レオンを失いたくない」


その言葉に。


三人は、静かに耳を傾けた。


「守られるだけじゃなくて、支えたい」


……。


「そして、いつか」


シャルロットは、少しだけ頬を赤くした。


「……彼にとって、一番大切な女性になれたらって」


……沈黙。


やがて。


セレスティアが、小さく笑った。


「……やっぱり」


シャルロットも、微笑んだ。


「……ええ」


四人の視線が、重なった。


そこには。


互いへの尊敬と。


譲れない想いがあった。


     ◇


「……でも」


リゼットが、少し不安そうに口を開いた。


「私たち、これからどうすればいいんでしょうか」


セレスティアは、首を傾げた。


「……どういうこと?」


「……皆、同じ方を好きになってしまいましたから」


その言葉に、少しの沈黙が生まれた。


エリシアが、静かに微笑んだ。


「……私は、誰かを傷つけたくありません」


「私もよ」


セレスティアが、頷いた。


「でも、自分の気持ちを諦めることもできないわ」


シャルロットが、少し考えてから口を開いた。


「……なら」


三人が、彼女を見る。


「正々堂々と、想いを伝えればいいんじゃないかしら」


……。


「誰かを陥れたり、嘘をついたりする必要はないわ」


シャルロットは、微笑んだ。


「レオンが、そんなことを望むとは思えないもの」


その言葉に。


三人は、静かに頷いた。


「……そうですね」


リゼットが、微笑んだ。


「私も、自分の気持ちに正直でいたいです」


エリシアも、頷いた。


「私もです」


セレスティアは、少しだけ楽しそうに笑った。


「……それなら、決まりね」


彼女は、紅茶のカップを持ち上げた。


「誰がレオンの心を射止めるかは、まだ分からないけれど」


そして。


「……皆、後悔しないようにしましょう」


四人は、微笑み合った。


恋のライバル。


けれど。


互いを大切に思う友人でもある。


その関係を壊すつもりは、誰にもなかった。


     ◇


同じ頃。


学園の訓練場。


「……はっくしょん!」


俺――レオンハルト・ヴァルディスは、突然くしゃみをした。


「……何だ?」


隣のカイルが、笑った。


「誰かに噂でもされてるんじゃないか?」


「……まさか」


俺は、苦笑した。


「そんなことより、次の模擬戦どうする?」


「……お前、本当に色恋沙汰には鈍いよな」


「……は?」


カイルは、肩をすくめた。


「……いや、何でもない」


俺は、首を傾げた。


……最近、こういう反応が多い気がする。


まあ、いいか。


俺は、訓練用の剣を構えた。


その頃。


女子生徒専用談話室では。


四人の少女たちが、これからの恋について語り合っていた。


そして。


誰もが、まだ知らなかった。


この小さなお茶会が。


やがて、レオンハルトの未来を大きく変えることになるということを。


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