第103話 三貴族家の崩壊――黒獅子の逆鱗と王国の裁定
第103話 三貴族家の崩壊――黒獅子の逆鱗と王国の裁定
王国暦八二一年、秋月二十八日。
王都、王城。
王国大審問会議。
広大な会議室には、王国の重鎮たちが集まっていた。
国王アレクシス・ルミナス。
宰相。
司法卿。
貴族院代表。
教育評議会議長。
そして。
王国最強の四人。
アルフォンス・ヴァルディス。
エレオノーラ・ヴァルディス。
レオナード・ヴァルディス。
イザベラ・シルヴェイン。
その背後には。
俺――レオンハルト・ヴァルディス。
……今日。
すべてが、決まる。
俺は、静かに息を吐いた。
◇
「……それでは」
司法卿が、立ち上がった。
「……今回の事件について、調査結果を報告します」
会議室が、静まり返る。
「……まず、ファルケンハイン侯爵家」
その名が、響いた。
オズワルド・ファルケンハインが、顔を上げた。
「……何だ」
司法卿は、静かに続けた。
「……学園演習用魔導装置の改修費に関し、不正な資金移動が確認されました」
……ざわっ。
重鎮たちが、ざわめいた。
「……さらに」
司法卿が、書類をめくる。
「……安全停止術式の改変に関与した魔導工房が、ファルケンハイン家の関連企業であることも確認されています」
「……馬鹿な!」
オズワルドが、叫んだ。
「……私は、そんなことを命じていない!」
司法卿は、静かに頷いた。
「……その点についても、調査しました」
そして。
一枚の書類を掲げた。
「……こちらをご覧ください」
そこには。
オズワルドの署名。
そして。
魔導装置の改修命令。
「……っ!?」
オズワルドの顔が、青ざめた。
「……これは……!」
司法卿は、静かに続けた。
「……署名の真正性は、王国魔導鑑定局が確認済みです」
……沈黙。
「……さらに、改修費の一部が、教育評議会の関係者へ流れていたことも確認されています」
その瞬間。
会議室の空気が、凍りついた。
◇
「……オズワルド・ファルケンハイン」
父上アルフォンスが、静かに口を開いた。
「……何だ!」
オズワルドが、睨み返した。
父上は、表情を変えなかった。
「……貴様は、我が一族の子供たちが重傷を負った事件を」
一歩。
前へ出る。
「……金で揉み消そうとしたな」
……沈黙。
「……それは……」
「……答えろ」
父上の声が、低くなる。
「……貴様は、我が一族の子供たちの命を、金で買えると思ったのか?」
……。
オズワルドは、何も答えられなかった。
父上は、静かに続けた。
「……貴様の息子が、何をしたのか」
「……」
「……貴様の家が、何を隠していたのか」
その瞳が、鋭くなる。
「……すべて、明らかになった」
……沈黙。
「……覚悟は、できているな?」
その声は、恐ろしく静かだった。
◇
「……次に、ハインツ家」
司法卿が、続けた。
「……演習区域の警備管理に関し、重大な不備が確認されました」
グレゴール・ハインツが、顔を上げた。
「……っ!」
「……さらに、異常発生時の報告義務違反」
「……」
「……安全管理記録の一部未提出」
司法卿は、静かに続けた。
「……これらについて、責任を追及します」
グレゴールは、唇を噛んだ。
「……俺は……」
だが。
その言葉は、続かなかった。
◇
「……ベルモンド家について」
司法卿が、次の書類をめくった。
「……記録管理体制の不備が確認されました」
クラリッサ・ベルモンドが、静かに頭を下げた。
「……申し訳ありません」
だが。
司法卿は、続けた。
「……ただし」
……。
「……クラリッサ・ベルモンド本人は、危険性を事前に報告していました」
……ざわっ。
「……さらに、記録の原本を保存し、調査へ協力しています」
クラリッサが、顔を上げた。
「……っ!」
司法卿は、静かに頷いた。
「……そのため、彼女の責任については、他の関係者とは区別して判断します」
……。
俺は、静かに息を吐いた。
……よかった。
彼女まで、すべての責任を押しつけられるのは違う。
◇
「……アルベルト・レイフォード」
司法卿が、最後の名前を呼んだ。
アルベルトが、ゆっくりと顔を上げた。
「……はい」
「……あなたは、許可なく魔力増幅術式を使用し、演習用魔導装置を起動しましたね?」
「……はい」
「……その結果、装置が暴走し、複数の生徒が重傷を負いました」
……沈黙。
アルベルトは、拳を握った。
「……僕は……」
その声が、震えた。
「……ただ、レオンハルトに勝ちたかっただけなんです……」
……。
俺は、静かに彼を見つめた。
……それが。
理由なのか。
……そんなことで。
シャル姉とルシウスが、あんな目に遭ったのか。
俺は、拳を握った。
だが。
何も言わなかった。
◇
「……それでは」
国王アレクシスが、静かに立ち上がった。
「……裁定を下す」
会議室が、静まり返る。
「……ファルケンハイン侯爵家」
オズワルドが、息を呑んだ。
「……当主オズワルドの爵位を剥奪する」
……っ!?
会議室が、ざわめいた。
「……さらに、関連する不正資産を没収」
「……王国貴族院からの永久追放」
「……関係する官職のすべてを解任する」
オズワルドの顔が、真っ白になった。
「……そ、そんな……!」
国王は、表情を変えなかった。
「……王国の教育制度を私物化し、子供たちの安全を軽視した責任は重い」
……沈黙。
「……そして、ユリウス・ファルケンハイン」
ユリウスが、顔を上げた。
「……はい」
「……学園からの退学処分」
「……王国官職への登用資格を剥奪」
「……さらに、司法庁による正式な刑事審理へ移送する」
……。
ユリウスの顔から、血の気が引いた。
「……そんな……」
だが。
誰も、助けなかった。
◇
「……ハインツ家」
国王が、続けた。
「……関与した者の官職を解任」
「……不正に関与した資産を没収」
「……グレゴール・ハインツは、学園から退学処分とする」
グレゴールが、拳を握った。
「……っ!」
だが。
何も言い返せなかった。
「……ベルモンド家」
国王が、静かに続けた。
「……記録管理体制に関する責任を追及する」
「……ただし、クラリッサ・ベルモンドの調査協力は、正式に評価する」
クラリッサが、深く頭を下げた。
「……ありがとうございます」
◇
「……アルベルト・レイフォード」
国王が、最後の名前を呼んだ。
アルベルトが、顔を上げた。
「……はい」
「……勇者候補資格を停止する」
……っ!?
アルベルトの顔が、歪んだ。
「……そ、そんな……!」
「……さらに、学園からの退学処分」
「……今回の事件について、司法庁による正式な審理へ移送する」
……沈黙。
アルベルトは、膝をついた。
「……僕は……」
その声が、震えた。
「……僕は、勇者になるはずだったのに……」
……。
俺は、静かに彼を見つめた。
……勇者。
それは。
誰かを守るための力じゃなかったのか。
俺は、ゆっくりと目を閉じた。
◇
「……レオン」
父上が、静かに声をかけた。
「……はい」
「……これで、一区切りだ」
……。
俺は、頷いた。
「……はい」
父上は、静かに続けた。
「……だが、忘れるな」
「……何をですか?」
「……力とは、誰かを守るためにある」
……。
俺は、真っ直ぐに父上を見つめた。
「……はい」
父上は、少しだけ微笑んだ。
「……お前は、それを忘れるな」
……。
俺は、静かに頷いた。
◇
その日の夕方。
ヴァルディス公爵邸。
医療室。
「……レオン」
シャルロットが、ベッドの上から声をかけた。
「……シャル姉!」
俺は、駆け寄った。
「……大丈夫か?」
「……ええ」
彼女は、少しだけ笑った。
「……まだ、痛いけど」
……。
俺は、唇を噛んだ。
「……ごめん」
シャルロットが、驚いたように目を見開いた。
「……何で、レオンが謝るの?」
「……俺が、もっと早く……」
その瞬間。
彼女が、俺の手を握った。
「……レオン」
「……うん」
「……あなたは、私たちを守ってくれた」
……。
「……だから」
彼女は、優しく微笑んだ。
「……もう、自分を責めないで」
……っ。
俺は、息を呑んだ。
その隣で。
「……兄様」
ルシウスが、声を上げた。
「……ルシウス!」
少年は、ベッドの上で笑った。
「……僕、もっと強くなります!」
……。
俺は、思わず笑った。
「……お前は、もう十分強いよ」
「……でも!」
ルシウスが、拳を握った。
「……次は、僕が兄様を守ります!」
……。
俺は、静かに頷いた。
「……楽しみにしてる」
その瞬間。
部屋の扉が、開いた。
父上。
母上。
叔父上。
伯母上。
四人が、入ってきた。
「……さて」
父上が、静かに微笑んだ。
「……ようやく、家族で落ち着けるな」
母上が、優しく頷いた。
「……ええ」
レオナード叔父上が、娘の頭を撫でた。
「……よく頑張ったな」
イザベラ伯母上も、ルシウスを抱き締めた。
「……もう、無理しないでね」
……。
俺は、その光景を見つめた。
……家族。
俺が、何よりも大切にしたいもの。
そして。
何があっても、守り抜きたいもの。
その夜。
ヴァルディス公爵邸には。
久しぶりに、穏やかな時間が流れていた。
だが。
王国貴族社会では。
三つの名門貴族家の崩壊という、歴史的な事件が語り継がれることになる。




