第6話 : 街へ行きたいハルトと、絶対死守同盟
ログハウスで6人のヒロインたちとの生活が始まってから、一週間が経過した。
毎朝の美味しい食事、手製のふかふかベッド、そしてハルトの手による居心地の良すぎるログハウス。
エリザたち6人はすっかりこの家に馴染み、ハルトの手伝いを競い合いながら、平和(?)で賑やかな日常を過ごしていた。
そんなある日の朝食時。
ハルトは自家製の丸パンにスープを浸しながら、思い立ったように口を開いた。
「ねえ、みんな。そろそろ一度、近くの街に行ってみたいんだけど……どうかな?」
パキン。
静かなログハウスに、木製のスプーンが折れる乾いた音が響いた。
「……え?」
ハルトが顔を上げると、食卓を囲む6人の動きが完璧に停止していた。
近衛騎士団長のエリザの手からはスプーンが落下し、冒険者リーダーのカレンはパンを口にくわえたまま固まり、猫耳シーフのミリィは耳をぴんと垂直に立てて固まっている。
「ハ、ハルト殿……今、なんとおっしゃいましたか……?」
エリザの声が、かつてないほど震えていた。
「いや、だからさ。近くの街に行ってみたいなって。調味料ももう少しバリエーションが欲しいし、日用品も直接見て買いたいだろ? それに、俺はこの世界の街というものを一度も見たことがないから、純粋に興味があってさ」
ハルトとしては、至って普通の感覚からの提案だった。
記憶喪失という体で通している手前、この世界『アルテニア』の文化や街並みを一度この目で見ておきたいという気持ちもある。
だが——。
「「「「「「絶対ダメ(です/だ)ーーーーーっ!!!!」」」」」」
ログハウスの天井を吹き飛ばさんばかりの、6人全員による完璧にハモった大叫びが響き渡った。
「うわっ!? な、なんでそんなに全力で反対するの!?」
ハルトが思わず身を引くと、6人は一斉に立ち上がり、テーブルに身を乗り出してきた。普段は「誰がハルトの1番になるか」でギスギスとキャットファイトを繰り広げている彼女たちが、見たこともないほどの団結力を見せている。
「ハルト殿、正気ですか!? 街ですよ!? ヴェルタリア王国の辺境都市都市『ガルディア』ですよ!?」
エリザが青ざめた顔でハルトの両肩を掴んだ。
「そうだよハルト!! 街なんて猛獣の檻どころか、飢えたドラゴンが群がる巣窟みたいなもんさ!!」
大工のセルマも汗をダラダラと流しながら必死に訴える。
「え、えぇ……? 街ってそんなに治安が悪いの……? 魔物でも出没するのか?」
「違いますわ、ハルトさん!!」
僧侶のクレアが涙目になりながら叫んだ。
「治安ではなく、『女性』の問題です!! 街には……街には星の数ほどの女たちが溢れ返っているのですから!!」
ハルトは首を傾げた。
(ああ……そういえば、この世界は【男女比1:9】の女性超優位世界だったな。男性は激レアで、基本的には家の中で守られて育つのが常識なんだったか)
「ハルトさん、よく聞いてちょうだい」
最年長冒険者のカレンが、真剣そのものの重々しい表情でハルトの目をじっと見つめてきた。
「この世界で、男の人が一人で外を歩くこと自体が異常事態なの。しかもハルトさんは……見栄えが良い上に、自立していて、頼もしくて、家事もできて、包容力があって、超絶ワイルドな雰囲気まで纏っている……!」
「いや、後半の評価は色々と盛られすぎてる気がするけど……」
「盛ってないわ!!」
ルチアがバンとテーブルを叩いた。
「そんな『理想を煮詰めたような至高の男性』が街に現れてごらんなさい!? 街中の女冒険者、女騎士、町娘、果ては貴族の令嬢までが一斉に群がって、ハルトさんを奪い合う大戦争が勃発するわ!! 私たちのライバルが数百人、数千人規模で増えるのよ!?」
「アタシ、ハルトを他の女に取られるの絶対に嫌ニャーーーっ!!」
ミリィがハルトの腕にガシッと抱きつき、威嚇するようにフーッと唸った。
(なんだこの展開……。買い出しに行きたいだけなのに、なんでこんなに重い独白と反対運動が起きてるんだ……?)
ハルトは参ったなと苦笑いした。
ヒロインたちの「ハルトを独占したい」「外の女に見せたくない」という重すぎる愛と危機感は十分に伝わってきた。だが、ハルトにも譲れない理由がある。
「みんな、心配してくれるのは本当にありがたいよ。でもね」
ハルトは抱きついてくるミリィの頭を優しく撫で、6人の目を一人一人しっかりと見つめ返した。
「俺は記憶を無くして、この森で一人で目覚めたろ? 自分の過去も知らない。この世界がどんな場所なのかも知らない。……だからこそ、自分の足で街に行って、この世界でみんながどんな風に生きてるのかを、ちゃんと知りたいんだ」
ハルトの真摯で、少し寂しげな瞳。
そして、30歳の大人の男性としての芯の通った声。
「それにさ。みんなが俺を大切にしてくれてるのはすごく嬉しいけど……俺も男だからね。ずっと守られて家の中に閉じこもってるだけじゃなくて、自分の欲しいものは自分の手で買いたいし、みんなにお土産だって買ってあげたいんだ」
ハルトは柔らかく微笑むと、少し困ったように頭をかいた。
「ダメ……かな?」
ズキュゥゥゥゥン……!!
目に見えない衝撃波が、6人の胸を正確に撃ち抜いた。
「〜〜〜〜っっっ!?」
エリザが真っ赤になって胸を押さえ、その場に崩れ落ちかけた。
カレンは顔を覆って背を向け、ルチアとクレアは「尊い……」と呟いて失神しかけている。セルマに至っては鼻血が出ないように必死に鼻を押さえていた。
(な、なんという破壊力……! 『男だから自分で行きたい』『お土産を買ってあげたい』だと……!?)
(かっこ良すぎる……! 頼もしすぎる……!! こんなの断れるわけがないじゃないかーーーっ!!)
ヒロインたちの脳内で、葛藤の大爆風が吹き荒れる。
ハルトの男らしい意思を尊重したい気持ちと、他の女に奪われたくない危機感。
数分間の激しい沈黙と葛藤の末——最初に口を開いたのは、近衛騎士団長のエリザだった。
「……わかり、ました。ハルト殿のご意向、聞き入れましょう」
「エリザ!? 本気か!?」
セルマが驚いて声をあげるが、エリザは固い決意を秘めた目で頷いた。
「ただし!! 条件があります!!」
「条件?」
ハルトが尋ねると、エリザはビシッと指を突きつけた。
「一つ! ハルト殿は目立つ顔立ちを隠すため、深めのフード付きローブを着用し、絶対に一人で行動しないこと!」
「二つ! 買い出しの荷物はすべて私たちが持ち、ハルト殿に指一本触れさせないこと!」
「そして三つ……買い出しには、私たち『6人全員』が完全武装で護衛として同行すること!!」
「「「「「異議なし!!!!」」」」」
ヒロイン5人が一斉に賛同の声をあげた。
「ハルトさんを一秒たりとも一人にはさせないわ! 害虫(他の女)が近づいた瞬間に私たちが排除する!」
「アタシがハルトの周りの気配をキャッチするニャ!」
「ハルトさんの初めての街での買い出し……完璧にサポートしてみせますわ!」
ハルトは気合十分で武装の点検を始める6人を見送りながら、引きつった笑みを浮かべた。
(……ただの調味料の買い出しなのに、国家要人の警護レベルのSPがついちゃったんだけど……大丈夫かな、これ……)
こうして、ハルトの強い希望により、ついにログハウスを出て近隣の都市『ガルディア』への買い出し旅行が決定したのだった。




