第25話「私の二十代前半を無駄にした話」(美樹の独白)
第25話「私の二十代前半を無駄にした話」(美樹の独白)
涼太に「付き合って」って言われた。
ずっと、ずっと待ってた言葉を、今日もらえた。
嬉しかった。
嬉しくて仕方なかった。
なのに……。
今、久しぶりに実家の自分の部屋で寝転がっちょる私は、なんとも言えん気持ちになっちょった。
夕飯の時のことを思い出す。
五年ぶりの実家での食事中、お母さんが何気なく言った瞬間、心臓が止まりそうになった。
よりによって久保田のことじゃ。
私は慌てた。
話題を変えたかった。
忘れたかった。
でも、お母さんは悪気なく続ける。
涼太も黙って聞いちょる。
恥ずかしかった。
知られたくなかった。
私の失敗を。
私の黒歴史を。
何より、涼太にだけは知られたくなかった。
だって私は、小学生の頃からずっと涼太が好きじゃったんじゃけ。
本当は中学生の頃、遅くとも高校生の頃には、涼太から告白されて、制服でデートして、そんな未来を夢見ちょった。
体育館裏で。
放課後の教室で。
文化祭の帰り道で。
涼太が照れながら告白してくる。
そんな妄想を何回したか分からん。
でも現実は違った。
涼太は西宮へ行った。
私は高松に行った。
そして気付いたら大人になっちょった。
短大を出て、お父さんの病気もあったけ東京へ行く夢も諦めて高松の会社へ入った。
半分は納得しちょった。
半分は諦めちょった。
就職して間もなく、お父さんは亡くなった。
毎日泣いちょった。
仕事も手につかんかった。
そんな時に優しくしてきたんが久保田じゃった。
相談に乗ってくれた。
話を聞いてくれた。
ご飯にも連れて行ってくれた。
今思えば単純じゃった。
でも当時の私は弱っちょった。
父親を失った悲しみで、心に大きな穴が空いちょった。
久保田の声は少し、お父さんに似ちょった。
安心できた。
守ってもらえる気がした。
それだけじゃったんかもしれん。
それを恋愛と勘違いした。
今なら分かる。好きじゃなかった。
依存しちょっただけじゃ。
それまで恋愛経験なんか無かったけぇ、違いも分からんかった。
社内恋愛が始まって二年、そして久保田が福岡へ転勤になった。
私は迷わず付いて行った。
今思えば、本当に馬鹿じゃった。
涼太のことを忘れたかったんかもしれん。
誰かに必要とされたかったんかもしれん。
でも、その答えは福岡で知った。
転勤して半年。
休日にキャナルシティへ買い物に行った日のことじゃ。
私は見てしまった。
久保田を。
嫁と子供を連れて歩く姿を。
幸せそうに笑う父親の顔を。
最初は意味が分からんかった。
頭が真っ白になった。
気付いたら名前を呼んじょった。
その後のことはあんまり覚えちょらん。
言い争いになったらしい。
私はあの嫁に鞄で殴られて、病院にも運ばれたらしい。
でも、そんなことはどうでもよかった。
一番痛かったんは。
二十代前半の時間が全部嘘やったことじゃ。
好きでもない男に、人生を合わせて。
夢も諦めて。
転勤までして。
その結果があれじゃった。
悔しかった。
情けなかった。
惨めじゃった。
私は何をしよったんじゃろう。
何年もそう思い続けた。
だから今日。
お母さんの口から久保田の名前が出た時、本当に嫌じゃった。
涼太に知られたくなかった。
こんな失敗。
こんな恥ずかしい過去。
でも、私が落ち込んじょるのを見て、涼太は笑いながら言った。
「なら、もうええやん」
それだけじゃった。
責めもせん。
詮索もせん。
馬鹿にもせん。
ただ。
気にするなって。
その一言で救われた。
そして。
その後。
涼太は私に告白してくれた。
十八年越しに。
私がずっと欲しかった言葉をくれた。
不思議じゃね。
二十代前半は無駄にしたと思いよった。
今でも久保田は許せん。
でも、あの遠回りがなかったら。
今日の幸せも無かったんかもしれん。
そう思うと。
少しだけ、少しだけじゃけど。
過去の自分を許してやってもええ気がした。
おやすみ、涼太。
久々の高松の実家、悲しい思い出がいっぱいあるから、どうしてもネガティブになっていけんね。
いいことだけ考えよう……。
涼太にやっと告白された。
涼太と今日から交際開始。
涼太と旅を続ける……
涼太と……




