第13話「同級生の、おかげ」(美樹の独白)
第13話「同級生の、おかげ」(美樹の独白)
仕事を終えて帰ってきて、シャワーを浴びて、ベッドに腰を下ろす。
今日は、全然眠れる気がせん。
だって――やっと。本当にやっと。涼太に会えて明日から一緒に旅に行くけえ。
十八年。長かったねぇ。
ほんまに長かった。
スマートフォンの画面を開くと、涼太が来た日の昼間から鳴りっぱなしじゃったLINEグループには、今も同級生たちから大量のメッセージが届いちょる。
『美樹、おめでとう!』
『十八年越しじゃん!』
『ちゃんと捕まえたんか?』
『逃がすなよー!』
思わず吹き出してしまう。ほんまに、みんなお節介じゃねぇ。
でも、今回ばかりは感謝しかなかった。
もし同級生のみんながおらんかったら。
今日という日は、違う未来になっとったかもしれん。
昼前じゃった。
定食屋で忙しく働きよる時に、突然スマートフォンが震えた。
休憩時間に確認したら、同級生グループの一人から写真が送られてきとった。
『これ、もしかして太田涼太じゃない?』
添えられた写真には、ロードバイクに乗りながら、防府天満宮方面へ向かう後ろ姿。
心臓が止まるかと思った。
最初は信じられんかった。
だって、そんな都合のいいこと、ある?
十八年間探し続けた人が。
今日、突然。
この防府に現れるなんて。
でも、写真を何度見ても。
あの背中じゃった。
少し猫背気味で。
肩に力が入っとって。
子供の頃から変わらん歩き方。
間違えようがない。涼太じゃった。
その瞬間から、仕事どころじゃなくなった。
食堂から調理場に戻るふりしてLINEを何度も確認した。
すると別の同級生から連絡が入った。
『今、商店街歩きよるの涼太じゃろ?』
慌てて写真を見ると、横顔が写っとる。
少し大人になった、少し疲れた顔。
でも、間違いなく涼太じゃった。
胸が苦しくなった。
嬉しくて。
怖くて。
震えた。
仕事中じゃったけど、おかみさんに断ってすぐに飛び出した。
商店街を端から端まで、そして天満宮の階段を駆け上って、境内を探した。
参道も探した。
半分泣きながら、半分笑いながら必死で探した。
「お願いじゃけ、どこにも行かんで」
心の中で何度も祈りながら。
でも見つからんかった。
途中から焦りで涙流しちょった。
もしかして。
また会えんのかもしれん。
中一のクリスマスと同じように。
そう思った時じゃった。
同級生からまた連絡が来た。
『商店街から美樹の定食屋の方へ歩きよるぞ』
その文字を見た瞬間、私は全力で走った。
あの定食屋へ。
息を切らしながら暖簾をくぐった時。
そこに、本当におった。
十八年間。
会いたくて会いたくて仕方なかった人が。
ウチの店で、普通に定食を選んじょった。
思い出しただけで笑えてくる。
ドラマみたいな再会を想像しちょったのに。
現実の涼太は。
定食のメニューとにらめっこしとったんじゃもん。
ほんまに、涼太らしい。
四年前、福岡から防府へ帰ってきた時。
真っ先に思い出したんは涼太のことじゃった。
あの、どうしようもなくつまらん男と別れて乗り込んだ新幹線の中。
私が本当に好きだった人は誰なんか。
改めて思い知らされた。
小学生の頃、毎日一緒じゃった。
初恋じゃった。
私のヒーローじゃった。
太宰府天満宮へ通いよった頃は。
「いつかまた涼太に会えますように」
そうお願いしよった。
でも防府へ戻ってからは違った。
お願いも少しだけ欲張りになった。
「涼太と、もう一回恋がしたいです」
「初恋の続きをしたいです」
毎週、そうお願いしよった。
ようやく願いが叶った。
天神様。
ほんまにありがとうございます。
せっかく会わせてくれたんじゃけ。
どうか、どうか今度こそ。
この人を私の隣から連れて行かんでください。
明日は。
ちょっとだけ勝負に出ようと思う。
十八年間も待ったんじゃもん。
少しくらい積極的になっても許されるじゃろ?
「おやすみ、涼太」
明日は久しぶりの遠出じゃから、早く寝んといかんね。
「明日、楽しみにしちょってね」




