65話 それから
――ジョージの行く末は、奴をこの世界へ呼び寄せた身として多少案じていたが、何とかなったようで安心した。さてはて、この先も上手く行けば良いのだが――
あれから三日経ち、ハロウィンの仮装コンテスト会場だった広場へ蒼と向かっていた。これから結果発表があるらしいから、その観覧に。
今まで何の連絡も無かったから、たぶん優勝は逃したんだろう。恥ずかしい思いをして頑張ったのに。まあしょうがないか。あの城へは俺がお金を貯めて連れて行けば良いだけだ。
それよりも蒼と手を繋げてる事が嬉しい。断られても食い下がったら、しぶしぶ繋いでくれた。今も恥ずかしいのか、俺の方を見てくれないけど……へへっ、赤くなりながらも手を握り返してくれてる。
「ん? 会場ってあそこだったよな?」
「ええ、そうね。だけどその前に少し用事があるの」
そのまま蒼に付いて行くと、何故か職場のパブに辿り着いた。店内にフィンリーの後ろ姿が見える。何だかデジャヴ……。反射的に回れ右をしそうになるのをグッとこらえる。
「今日は俺、休みのはずなんだけど……。ま、まさか着替えろとか言わないよな?」
「正解! 譲二さん優勝出来たのよ、おめでとう。写真が撮れてなかったらしいから、撮り直すんだって」
せっかく伸びた髪を切ってもらって、元の髪型に戻れたのに、またウィッグを被って長髪になんなきゃならないのか?
「うっ、腹の傷が……」
「はいはい、よく見ないと気付かないくらいにまで回復した傷痕が痛むのねー」
蒼は半目で俺を見てたけど、直ぐに満面の笑みに戻り、ぴょんぴょん跳ねながら繋いだ手を振った。その可愛い姿に頭に浮かんでた不満は霧散して行く。すかさずフィンリーが俺の背中を押した。
「と言う訳でオーナーさん、休憩室を借りるわねぇ〜」
「どうぞ、どうぞ! サクッとやっちゃってください!」
蒼の手を振り解けるはずも無く、しぶしぶ休憩室へ付いて行く。勘弁してくれよー。朝まで協会のしつこ過ぎる取り調べに付き合わされて、精神的に疲れてるんだ。
昨日、フィンリーの家の玄関ドアを直してから、三人でリチャードの墓参りへ行った。その最中に突然、協会の人間がゾロゾロやって来て拒否権無しに同行させられたんだ。不幸中の幸いか、蒼の取り調べはかなり早く終わったから良かったけど。
レイラの亡骸は協会が秘密裏に運び出し、日に晒して灰にしたそうだ。俺達が戦ったあの倉庫は爆発事故が起きた事になったらしい。そしてデボンはあの日に俺達が見たのを最後に、行方知れずになっている。
フィンリーが証拠として提出したビデオに、俺と血の交換をした映像が残ってた事で、俺は事情聴取を受けるハメになったらしい。協会員のスマホには特殊なレンズが付いてるらしく、吸血鬼でもバッチリ写るそうだ。
けどその映像とフィンリーの口添えで、俺は危険じゃないと判断され、退治保留扱いになった。フィンリーの勝手な行動はレイラを退治した功績を鑑みて、俺を見張ると言う処罰で落ち着いたそうだ。
そうそう、カメラと言えば、俺がまだミイラだった頃に、ダリブン大学の監視カメラがオフになってた件の犯人は、トーマスだったらしい。文化財が運び込まれる前日の最終チェックで、誤ってオフにしてしまったそうだ。
その件とフィンリーが訴えを取り下げた事で、蒼への疑いも無くなった。トーマスは、ダリブン大学学部長の叔父さんに、大目玉をくらって大変な目に遭ってるらしい。だから俺はトマトジュースの恨みを忘れる事にした。ここは大人の俺が許してやらないと可哀想だからな。
着替えを終え、カラコンをつけるとフィンリーが腕まくりをした。
「協会のお偉方も見に来るの。さあ、腕によりをかけて血色を悪くするわよぉ〜」
あー、疲れる予感しかしないぞ……。
*
「ふぃ〜」
思わず間抜けな声を出しながらソファーにドサッと座った。
「お疲れ様」
蒼が湯気が立ち上るココアを俺に渡し、横に座る。
「ありがとう。へへ……流石に疲れたよ」
写真撮影と優勝者お披露目を終え、パブで祝賀会をしてもらえたのは嬉しかった。けど、質問攻めに遭ったり色んな人に囲まれたりしたからな。おかしな言動をしないよう気が抜けなかった。昨日から寝れて無いし。
「へぇー、吸血鬼でも疲れる事はあるのね?」
「当たり前だろ? ここんとこ色々あり過ぎて、体はそうでも無いけど心が疲れたんだ。 五〇〇年寝てたくらいだし、中身は日本人だからな。俺、頑張っただろ? 蒼が労ってくれよ〜」
「しょうがないわねー、肩揉みとか?」
「ううん、キスがいいな。こことかにしてくれたら、それだけで元気になるからさ」
ココアをテーブルに置き、蒼の目をじっと見つめながら、ニヤけないよう意識して頬を指さす。
「はいはい、ふざけてないで後ろ向いて」
「ちぇー、ケチ……」
渋々後ろを向くと蒼が肩を揉み始めた。
「キスで元気が出る具体的な根拠は?」
「へっ? え、えっと……幸せホルモンとか?」
「へぇー」
その反応、信じてないな? 確かに我ながら怪しい理由だと思うけど……。
「キスしてもらえたら幸せになって、本当に元気が出るんだ。もしかしたら空だって飛べるかもしれないんだぞ」
「ふぅん」
マズイ、蒼が更に訝しんでる気がする。
「嘘じゃないんだ! 蒼は恥ずかしいかもしれないけど――」
慌てて振り返ると、蒼が俺の頬に顔を寄せた。同時に柔らかな物がちょんと当たる感触がする。驚いてるうちに蒼は顔を離し、耳まで赤くなりながら俺に尋ねた。
「……どう? 元気出た?」
か、顔が熱い。もしかして俺も蒼と同じくらい赤くなってるのか? 自分から求めておいて情け無いな。でも凄く嬉しい。
「う、うん少し。こことかにしてもらえたら、もっと元気になれるはずだ」
唇を指さすと蒼はぎこちなく頷いた。更に赤くなった蒼の顔が近付いて来るのを見て、慌てて目を閉じる。そう言えば唇を重ねると“婚約者”状態になるんだっけ。
「ちょっと待ってくれ!」
「な、何よ?」
「やっぱり俺からしたい。それに蒼は想いを伝えてくれたのに、俺は出来てないから言っておこうと思って!」
「ええー、今更?」
大きく頷き、蒼に向き直り手を握る。蒼はクスッと笑いながらも話を促すように静かに頷き返した。
「蒼の事は良き友として見守って行けたらと思ってたけど、もうそれだけじゃ我慢出来ない。蒼の隣にずっと居たいんだ。もしかしたら俺の想いは重いかもしれない。それでも俺を受け入れてくれますか?」
「はい。私もありのままの譲二さんが好き。これで磯友達は卒業ね」
目を閉じた蒼をそっと抱きしめキスをする。こんなに幸せで、優しさで満たされたような気持ちは人間だった時も感じた事がない。間違い無い、この瞬間は一生の宝物だ。
これにて完結です。ここまでお付き合いくださった皆様、本当にありがとうございます。
……しかし作者としては、ジョージ&蒼とお別れするのは名残惜しいので、もしかしたら2人のお話は続くかもしれません。
今後もしも、2人の新たな物語を見つけた際にも、温かく見守っていただけたら幸いです。
最後になりましたが、評価やブックマーク、感想等、大いに執筆の励みとなりました。また、続編執筆のモチベーションになります。この場を借りてお礼申し上げます。




