61話 得物
デボンの案内で着いた倉庫には、窓が無く中の様子を窺い知る事は出来ない。でも、意識を集中させてみると確かに一〇人前後の吸血鬼と、あの女が居るようだった。
夜だから、ほとんどが獲物漁りに出払ってて、倉庫にいる吸血鬼は少ないと予想したけど、思いの外残ってたらしい。静寂の中、身振り手振りでそれを伝えると、蒼とフィンリーが緊張した表情で頷いた。
ん? ドアに鍵がかかってる。それなら……。
「はあっ!!」
ありったけの力で蹴破った。鉄製のドアは轟音を上げて金具毎千切れて吹っ飛び、壁にぶつかると鈍い音を立てて倒れ込む。
土埃が舞う中、俺とデボンで薄暗く殺風景な倉庫の中へ足を踏み入れた。ドアが分厚い鉄製で、足がちょっと痛かったのは秘密だ。
突然の侵入者に敵が驚いてる隙にドアを拾い上げて武器を確保する。これだけ派手に侵入すれば、相手があの女の信奉者と言う事を抜きにしても、絶対襲われるだろうから。でも、まあひと声くらいかけておくか。
「俺達の目的はレイラ コリンズを退治する事だ! 抵抗しないなら、こちらも手荒な真似はしない」
「あ、貴方はレイラ様の婚約者であられ――」
「それは関係無いッ! もう一度言うが俺達はあの女の息の根を止めに来た。大人しく道を開けるか、退治されるか好きな方を選べ!」
怒鳴りながら深呼吸する。ダメだ、例え不愉快な関係性を挙げられても、冷静さを失っちゃ。俺の頭に登った血が落ちるのと反対に、奥にいる全員が殺気立った。そしてナイフやら、バールやら角棒やら、とにかく物騒な物を握る。
そりゃそうか、現段階でここに残ってるのは、あの女への忠誠心が高い奴だろう。って事はここにいる全ての吸血鬼を相手にしなきゃいけないのか。
敵は全員で七――いや八人。おっ、情報より少ないぞ。これくらいなら俺だけでどうにかなるかもしれない。これから控えてるあの女との戦いに備えて、フィンリーとデボンには休んどいてもらおう。そうすればフィンリーに蒼を守ってもらえるし。
当の蒼はフィンリーの横で勇ましくも、聖水入りの霧吹きを構えてる。……少しでも活躍して、蒼にカッコいいとこを見せなきゃ。
先手必勝。床を勢いよく蹴り、倉庫の奥へ一気に駆け込む。風を切る音に混じって敵の狼狽える声も耳に届いた。手を伸ばせば届きそうな距離へ近付いたところで、敵はやっと身構えたらしい。反応が僅かに早い奴が前の方へ出かけてるけど、殆どが俺の動きに付いて来れてないな。
斜め上からドアを振り下ろし、先頭でゴツいナイフを構える敵を背後へ吹き飛ばす。後ろにはフィンリーがいるから、なんとかしてくれるはず。続いて手首を返しドアを横薙ぎに動かすと、一気に二人仕留められた。
おおっ、これはいいぞ! 戦いって正直怖いイメージしか無かったから、ドアを振り回すだけで、敵をよく見ないで済むのは有り難いな。それに結構な打撃のダメージが入ってるらしく、倒した敵が起き上がって来る気配も無い。
だからこそドアの側面とか角は使わない。俺の力を乗せて殴ったら、いくら相手が頑丈な吸血鬼でもグロい事になりそう。蒼に凄惨な現場を見せるわけにはいかないからな。
でも俺がドアに感心してる間に、敵に囲まれてしまった。どうやら正面からぶつかるのは得策じゃないと判断されたらしい。後ろから蒼とフィンリーのため息が聞こえる。まあ囲まれてもドアを真ん中で持って、プロペラみたいにぐるぐる回れば良いだけなんだけど。
そうして特に罪悪感を感じる暇も無く、あの女の信奉者全員をノックアウトする事が出来た。ドアって最高の武器じゃないか!
「蒼! 俺の活躍見てくれたか?」
笑顔で大きく手を振る。けど蒼の顔色は悪かった。足元でピクピクしてる吸血鬼に次々とトドメを刺すフィンリーから、顔を背けつつも目を離せない様子だ。
あっ……俺は何を有頂天になってたんだ。蒼がこう言う光景を見慣れてる訳ないじゃないか。急いで駆け寄り、肩をそっと抱き寄せて、周りに広がる異様な光景を蒼の視界から遮る。
「耳、塞いどけ。終わったら教える」
「ありがとう。でも大丈夫だから」
そう頷いて見せながらも蒼の肩は震えてる。ああ、蒼は決して勇ましい訳じゃない。俺と居るために勇ましくあろうとしてるんだ。
「はは、大活躍ですね。僕の出る暇はありませんでした」
デボンが音の無い拍手をした瞬間、背後から吸血鬼が二人飛びかかって来た。撃ち漏らしか? いや、どうやら倉庫の入り口に隠れてたらしい。ああ、きっと俺と蒼を見張ってた奴等だ。
どうしよう、側には蒼が居る。今戦ったら巻き込みかねかい。生憎守ってくれそうなフィンリーも少し離れた場所に居るし……。
ああ、くそっ! この悩んでる時間が命取りだ。蒼を守りつつ、迎え打つしかない!
だが、ドアを持つ手に力を込めたと同時に、視界の端でデボンが敵に向けてクロスボウを構えるのが見えた。二人の吸血鬼は、仲間だと思っているデボンからの唐突に見える敵対行為に、為す術がない。あっという間に心臓へ矢をくらい、息絶えた。
「僕も仲間だと言う事、お忘れなく〜。背中を預けて下さってもよろしいのですよ?」
駆け寄って来たフィンリーは、そう言うデボンを無視して尋ねた。
「不死の王、他に隠れてる吸血鬼は居ないわよね?」
ドアを壁に立て掛け、意識を集中させ周りの気配を探る。
「はい。ここら一帯に残ってる吸血鬼は俺とデボンを抜いたら、あとはあの女――レイラだけです」
デボンは無視されたのが切なかったのか、肩をすくめて自身が仕留めた吸血鬼の方へ歩いて行く。そして遺体から矢を引き抜き、回収した。うわ、元仲間の服で矢に付いた血を拭いてる……。血も涙も無いな。
「それじゃあ行きましょうか。……って不死の王、貴方まさかそれを持って行くつもりじゃないわよねぇ?」
ドアを持ち上げようとすると、フィンリーは呆れ顔で頬をひくつかせた。
「もちろん持って行きます。ドアは攻守共にこなせる優れた武器なんですよ! 今日から俺の得物にします!」
へへっ、ラノベでは自分の武器の事を得物って言ってたよな。俺も一回は言ってみたかったんだ。
「へ、へぇ〜確かにそうかもしれないわね。常人には到底無理だし、絵面的にはかなり微妙だけど」
「おっ、俺は機能性重視なんです!」
ドアを持ち上げ、これ以上フィンリーに何か言われる前にさっさと地下室への階段を下りる。地下室のドアを開けると、部屋の真ん中に棺桶がある以外は何も無い、真っ暗な空間が広がっていた。誰の姿も見当たらないが、俺やデボンとは違う吸血鬼――あの女の匂いがした。
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次回、第62話ではレイラとの決戦の火蓋が切って落とされます! 6/15、21:35頃投稿予定です。




