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泣き虫吸血鬼は最後の恋をする〜ミイラを拾って水(血)をやったら超絶イケメンになりました〜  作者: 甲野 莉絵


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5話 サトウ アオイ

 …………あれっ? もしかしてあまりの臭さとショックで俺、気絶してたのか!?


 うおぉぉー! 今度は何年経った!?


 いや、研究室の壁に掛かった時計を見る限り一晩経っただけだな、良かった〜。どうやら勢い良くドアが閉まる音で目が覚めたらしい。何もされてないよな?? 吸血鬼だってバレてない?


「遅刻して申し訳ありません! 助手として参りました、(アオイ) 佐藤(サトウ)です。今日からよろしくお願いします」


 若い女性の声だ。すごい息を切らせてる。それよりアオイ サトウ? この名前――もしかして日本人か!?


「おおアオイさん、また君に会えて嬉しいよ。謝るのは私の方なんだ。どうやら知らせを出す相手を君ではなく、トーマス君だと勘違いしていたようで……彼から抗議を受けたよ。こちらの手違いで君にも迷惑をかけて本当に申し訳無い。今日からだが、よろしく頼むよ」


「い、いえこれしきの事、お気になさらないでください。教授には在学中、大変お世話になりましたから。こちらこそよろしくお願いします」


 ……この話ちょっとおかしい気がする。このアオイって人の反応からして、トーマスって奴とグルになって何か隠してるな。トーマスって昨日のコロン男の事だろう。『トム』って呼ばれてたし、間違い無い。


 ははーん、さてはアオイに押し付けて逃げたか? そういえば昨日そんな事言ってたもんな。あの時はそれどころじゃなくて、気にしてる余裕無かったけど。文化財を汚したんだ、わざとじゃなかったみたいだし、逃げたくなる気持ちもちょっと分かる。


 けど……何なんだアイツは!!


 女の子にチヤホヤされて、羨まっ――じゃなかった。別れた相手に罪をなすりつける最低野郎を許せるほど俺の心は広くないぞ! 今も襟元が青臭いんだからなっ! それに人に迷惑かけちゃダメだろ。アオイも教授も明らかに困ったような声色してたじゃん。


「それではまず簡単に、この研究室で行う研究について説明しておこうか。君はこのミイラが吸血鬼だったのではないか、と言う噂を知っているかね?」


「ええ……ですが吸血鬼など非科学的な存在ではありませんか?」


「うむ、その点は様々な意見があるな。私は吸血鬼とは未知のウイルスに感染した人間なのではないかと考えている。まあ、実際彼らのような存在がいたら、ロマンがあるとは思うがね」


 教授の笑い声が聞こえる。なかなかお茶目なオッサンだ。


「教授は様々な文献に残る吸血鬼の特徴は、ウイルスに感染した事が原因だとお考えなのですね?」


「一つの仮説だがね。そのウイルスを発見し、人体に害のある部分を取り除けたら、人々の暮らしがより豊かになるのではないかと思うのだ。それがこの研究の目的だ。改めてよろしく頼むよ」


「こちらこそ、よろしくお願いします」


 へぇ、なかなか良い研究じゃないか。でも俺はウイルスなんかに感染してないから調べないでください!


「それでは来てもらって早々で悪いけど、このミイラを検査機器にかけようと思っていてね、手伝ってくれ」


「はい」


 それから俺の願いは叶う事無く、CTとX線検査をされた。いつ生きた吸血鬼だってバレるかの緊張もあるけど、良い事にも気付いた。なんとここの加湿器のおかげか、ほんのちょっと動けるようになったんだ。断じてトマトジュースのおかげではないはず。


 どれくらい動けるかは、まだよく分かってない。足の指をほんのちょこっと動かしただけだから。動いてるのを見られたら即刻生きてるってバレて、平穏な展示物ライフとおサラバしなきゃいけなくなるからな。


 気付いたら昼休みになってたらしく、研究室にいるのは俺だけになってた。よし、どれくらい体が動くのか確かめてみよう。


 おっ、腕も足も意外と動く。それに口も動いた。それなら声は?


「………………ヴァ……ァ……ァァ」


 うわぁ、我ながら怖っわ……。本当化け物みたいな掠れた呻き声だな。しかもか細いって無いわー。


 でも体が動くってやっぱ良いな。調子に乗って手足をモゾモゾと動かしてると、ドアが開く音が聞こえた。


 ヤバっ! 元のポジションってこんな感じだったっけ? 動いてたの見られて無いよな……?


 息を呑む声がした後、足音が俺の真横まで来て止まった。今見られてる、絶対見られてるよぉ……。調子に乗った事を激しく後悔しながら息まで止めた。俺を見てる人間のちょっと強めの鼓動まで聞こえる。やっぱ疑われてるらしい。


 でも俺の心臓だって口から出そうなんだぞ。本当、生きた心地がしない。緊張し過ぎて周りの音がシーンと聞こえるくらいだ。すると足音が遠ざかり、ドアを開ける音が聞こえた。


 ……ふぅ、どうにかやり過ごせたみたいだな。そう思ってたら、廊下から金切り声が聞こえた。


「き、きょ、教授ッ!! 丁度いい所へ! 今っ、今あのミイラが動いてた気がするんですっ!!!」


「何ぃ、ミイラが動いた!? 本当か?」


 げっ! パタパタと慌てたような足音がこっちへ向かって来る。


「きょ、教授! よしましょうよ……」


「……何だ、動いていないじゃないか」


 つまらなさそうな教授の声がした。動いてたとはどうにかバレなかったみたいだけど、こんな状態に居続けなきゃいけないって、心臓がいくつあっても足りないぞ!

お読みくださりありがとうございます。

次回、第6話では本格的に研究が始動し、抵抗する主人公は……?

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