4話 トマトジュース
お、トラックの揺れが止まってエンジン音も聞こえなくなった。いよいよダリブン大学到着か? くれぐれも生きてるってバレないよう気を引き締めなくちゃ。
「“一、二の三”の三で持ち上げるからな、揺らさないよう慎重にいくぞ!」
「「「了解!」」」
「一、二の──三!」
なんかデジャヴを感じる掛け声だけど、丁寧に扱ってもらえて嬉しい。超VIP対応だ。善きに計らえ〜。俺が入った木箱は研究室へ運び込まれ、包帯を外された。
それにしても色々な音がする。人間の足音にエアコンや換気扇の音、よく分かんない機械音まで聞こえる。それからゴソゴソと何かを片付ける音も。あっ、俺を入れてた木箱とか梱包材か。
配送業者のお兄さん達が片付けをしている間、手持ち無沙汰なのか、学生と思しきヒソヒソ声が聞こえた。甘ったるい男の声だ。ナンパか?
「放課後ディナーでもどうだい?」
「え〜? もちろんトムに誘って貰えるなら行きたいけど……アオイさんは良いの?」
女の方も意外に乗り気だな。
「アオイの事なら心配いらないよ。アイツ、可愛げ無いから別れたんだ」
「え〜、可哀想〜」
男女の押し殺したようなクスクス笑いが聞こえる。聞きたくもない話を、否応無しに聞かされて不愉快だ。
「へぇー、あれがミイラか」
「いやぁ〜ミイラって臭そうだし、シワシワで不気味なんですけど。こんなキモい物を研究するの?」
くそっ、ケラケラ笑いやがって……。俺はたぶんイケメンなんだぞ! それを臭そうでシワシワで不気味でキモくて冴えないミイラだってぇ〜?
……ん? 冴えないは言われてなかったっけ? いやいや、どっちにしろ酷いぞ! ちょっと的を得てるだけにグサッと来た。
そんな笑い声を遮るように配送業者のお兄さんの声がした。
「それではこれにて失礼します」
お兄さん達の足音が遠ざかって行く。俺を運んでくれてありがとう。帰りもまたよろしくお願いしますよ〜。
それからしばらくはパタパタと歩き回る足音が聞こえたけど、鐘が鳴ると皆一斉に部屋を出て行った。もしかして昼休みか? そっと目を開ける。
コンクリート打ちっぱなしの天井に太い配管が何本か通ってて、壁の上の方では換気扇が回ってる。いかにも研究室って感じだ。壁にかかった時計は七月三一日、一二時を指してた。やっぱり昼休みか。
しかしこの研究室は居心地が良いな。明るいけど吸血鬼の俺に気を遣ってか、窓のブラインドはしっかり下されてるし、なにより加湿器があるのが良い。はあ〜潤う。とは言え依然としてカッサカサのミイラのままだけど。
でもUMA的扱いの俺は、大学のこんな立派な研究室で、どんな研究をされるんだろう?
疑問に思ってたその時、研究室のドアが開く音がした。部屋へ入って来た人間のコロンの匂いがキツくて、思わず目をぎゅっと瞑りそうになる。さっきとミイラの表情が違ってたらホラーだからな。気を付けないと。
ん? この匂い午前中も嗅いだな。普通は研究室にここまでしっかりコロンを付けて来ないだろ。
「うおっ! ……あ、ミイラがあるんだった。本当、不気味だな」
不気味で悪かったな、不気味で! 声からしてコロン男、さっきナンパしてたのはお前だな? こっちはお前の話、しっかり聞いてんだぞ。
「そう言えば、これ吸血鬼なんだっけ?」
くっさ!! 近寄って来んな!
――プシュッ!
プルタブを開ける音? って青臭っ!! うおおおっっ……なんだこの匂いは、もしかしてトマトジュース? トマトってこんなに青臭かったか?
しかも青臭さとコロンの甘ったるい匂いが合わさって吐き気がする。うっぷ……。
だけど、どんなに臭くても鼻を塞ぐ事も出来なければ動く事も出来ない。ただ不快な匂いに耐えてると──。
「うおっ!」
ドタっと躓くような音が聞こえた後――。
――パチャッ!
イヤァァァ! ト、トマッ、トマトジュースが掛かった! 青臭いよぉ!!
「あーやっちゃった。拭く物は……。ってミイラは何で拭いたら良いんだ? あっ、でもこのミイラの服、黒っぽいし目立たないからいっか」
顔は!? ねえ顔は?? 気付いてくれ。あっ、あっ……口元のシワを伝ってトマトジュースが口に入っちゃう!
「いや、まずいまずい! これキモくっても州の文化財だった。どうしよう……あっ、そうか! アオイがいたっけな」
うわあぁぁぁーーー!! 数滴の激臭を放つトマトジュースがどんどん口元に近付いてるのを感じる。何で俺、口を半開きにして寝てたんだよっっ!!!
あっ、ああーっっ!!! 入っちゃう、入っちゃ──。
――ぴちょん。
お読みくださりありがとうございます。
次回、第5話で遂にヒロイン登場!




