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泣き虫吸血鬼は最後の恋をする〜ミイラを拾って水(血)をやったら超絶イケメンになりました〜  作者: 甲野 莉絵


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3話 さらば博物館

 深夜の博物館はしんと静まり返ってるが、俺が今いる場所だけは明かりがついていた。


「うふふ……来ちゃった」


 この女こそが県立考古学博物館の館長で、ヴァンパイアハンターのフィンリー オニールだ。赤っぽい金髪を腰の辺りまで伸ばし、スーツを着たクール系美女に見えるが油断ならない。吸血鬼かもしれないと言われる俺を見張ってるんだ。


「アタシ達は明後日でお別れなの。貴方をダリブン大学へ貸与する事が、協会の理事会で正式に決定しちゃったのよぉ……」


 マジで!? ヤッター!! 遂にこのミイラに話しかけてくる変態とお別れ出来るのか〜。どうりで閉館後に俺を乗せた展示ケースが、バックヤードに移動された訳だ。


「でもアタシ嬉しくもあるのよ? ダリブン大学で研究してもらえれば、先祖代々怪しく思ってた貴方の正体が遂に分かるかもしれないじゃない? 州の文化財に指定されてる貴方に手出しは出来ないけど、吸血鬼だって言うなら話は別よねぇ?」


 ヒッ! と言うか、このピカピカ感じるのって何だ? さっきから気になってたんだけど、全身を舐め回されてるみたいでとても不快だ。


 そーっと薄目を開けると、銀色の短剣を持ったフィンリーがこっちを見ながら、恍惚の表情で短剣をうねうね動かしてるのが見えた。青い目を細め、短剣をレロォ〜っと舐める。……目なんて開けなければ良かった。


「不死の王、元の姿に戻った貴方は肖像画の通り美しいに決まってるわよね? アタシ美しい物はみぃーんな好きなのよ。美しい貴方の心臓をこの美しい純銀の短剣でサクッと……! どんな音がするのかしらね? ああっ、想像しただけで楽しいわぁっ!」


 や、やめてくれ! 俺は不死の王って言う厨二感溢れる異名に見合わない、チキンハートの持ち主なんだぞ。


「光り輝く銀の短剣って美しい貴方にぴったりでしょ? だけどすぐに変色しちゃうから毎日貴方のために磨いてるのよ。うふふっ」


 頬を染めて『女を磨いてるの』みたいな口調で物騒な事言ってる……。怖い。こうなったらフィンリーが気色悪い舞踊りをしている間に、そっと目を閉じよう。


「あれ? 貴方の目、今動いた?」


 ヒェェッ……! 汗は出ないけど、出るならブワッと全身から滝のように流れてるだろう。今だけは体が動かなくて良かったと心から思えた。動いていたら間違い無くカタカタ震えてたはずだ。


 怖くて目は開けられないけど、フィンリーの粘っこい視線を全身にひしひしと感じる。俺の人生ここまでなのか……?


「やっぱり気のせいかしらぁ……。貴方が動いてくれたらどんなに楽しいかと思うけど、ミイラが動くはず無いものねぇ?」


 フィンリーは心底残念そうにそう言うと照明を消して、バックヤードから出て行った。


 吸血鬼が死ぬ時ってどんな感じなんだ……?


 日光に晒されて体が動かないまま、灰になる恐怖を味わうのか? 聖水を浴びせられて全身を火傷するような耐え難い痛みを感じるのか? それとも自分の心臓に杭を打たれる音を聞きながら苦しむのか?


 うわぁーー!! 俺の前世は日本人――人間なんだぞ! そんな怖くて痛くて苦しそうな死に方なんて、何度考えても想像出来ないし、したくもないっ!! 理想の死に方は夜寝て次の日の朝、目が覚めなかったってやつだ。


 やっぱ俺の目標は変わらない。死なない事だ! 生き汚くでも生き抜いてやる。吸血鬼だってバレないようにここへ帰って来て、平穏な展示物ライフをまた送るんだ! 


 俺の寿命は有ってないようなものだから、生きてれば何とかなる。そしていつかは自由になって

、例え小さくとも幸せを手に入れるんだ!


 

 *

 


 翌朝、俺をダリブン大学へ送る準備の為に展示ケースの蓋が開けられた。外の空気を目一杯吸えた感動もあるけど、久々に得た大量の情報で軽く酔いそうだ。今までは展示ケースが良い壁になってたらしい。


 こうして色んな音や匂いを一身に受けてると、やっぱ外での自由な暮らしも捨てがたいと思えてくる。当面の目標にしてた平穏な展示物ライフが少し霞むな。


 ……いや、安全第一。いのちだいじにだ! うん、情報酔いにも慣れて来たな。なんて思ってたら……けたたましい音が響いた。それから血の匂いも――。


 耐えろ! ここで動いてはいけないし、この渇き切った体は急には動かない。これも生き抜くため、平穏な展示物ライフのためだ!!


 どうやら展示ケースのガラス製の蓋を、学芸員がうっかり割って、指を切ったようだ。その学芸員はバックヤードの資料を汚さないよう直ぐに部屋を出たみたいだけど、強い血の匂いが部屋に漂ってる。


 騒ぎが落ち着き、俺は慎重に台の上に置かれ採寸された。


「一八一――いや、二cmかな」


 俺って意外と身長高かったんだな。でもミイラになってちょっと縮んだりしてるのか? あっ、足は少しでも長く測ってくれよ〜。


 音からして配送業者の専門部隊が俺のサイズに合わせた木箱を作ってくれてるっぽい。足の長さはありのままでいいです。運んでる途中で揺れて折れたりしたら嫌だからな。


 その日は箱作りで終わり、翌朝俺は包帯で丁寧に、ぐるぐる巻きにされた。おおー、今の俺ミイラっぽくないですか、配送業者のお兄さん。


「そっと丁寧によ。傷付けないようにねぇ」


 ヒッ、出たなフィンリー。でも今日でしばらくこの女の声を聞かないで良いと思うと、晴れやかな気分だ。


 それから慎重に木の箱に詰められる。箱の中は木の匂いが強いな。そう思ってたら蓋が閉められたのか、暗くなった。おお〜棺のようだ。暗くて狭い場所はやっぱり安心するなぁ〜。なんてほっこりしてたらフィンリーと配送業者のお兄さんの声がした。


「ちょっと、ちょっと! それは何?」


「何って……窒素ガスですよ」


 窒素ガス!? そんなの入れられたら俺どうなっちゃうんだ? 吸血鬼は息が出来なくなったりしない……よな? もしかして誰にも知られず酸欠で死ぬ? 嫌だー! 窒素は入れないでくれ!!


 それならあの女に銀の短剣で刺された方が、まだ死に様としてはかっこいいじゃないか。いや、もちろんそれも嫌だけど!


「窒素なんて入れちゃダメよ! 彼は生きてるかもしれないの」


「……生きてる? で、ですがミイラの最適な保存状態を維持するためですので……」


「ダ〜メッ! 窒素を入れるって言うなら館長として、このミイラを博物館の外へ持ち出す事を許可出来なくなるわ」


「は、はあ……。分かりました」


 ……今回ばかりはフィンリーに感謝だな。でも配送業者のお兄さんの気持ちもよーく分かる。そりゃミイラが生きてるとか言われたら引くよなぁ……。


 ん? 生きてる? ……マズイ、このまま研究されて何らかの結果が出ちゃったら、生きてるってバレるかも。フィンリーなら、気色悪い舞い踊りをしながら心臓をサクッとするくらい平気でしそうだ。最期に見る光景がそれとか絶対嫌だ!


 でも研究されないよう抵抗しても生きてるってバレるよな? そもそも動く事すら出来ないのが現状なんだけど。ああっ、どうしよう……。


 蓋をビスで止める音が聞こえた。身動きが取れない状態で聞く機械音ってかなり怖い。それから程なくして俺はトラックに乗せられ、県立考古学博物館を後にしてしまった。

お読みくださりありがとうございます。

次回、第4話で向かった先のダリブン大学で、主人公があまりのショックに気絶する事案発生!

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