2話 博物館で
ここはアルイランドの首都ダリブンにある、県立考古学博物館。来館客でざわざわと賑わう館内を、旗を持った学芸員さんの後ろを子供達が付いて歩いてる。
……博物館見学ツアーか。自由に歩き回れるガキンチョ達が羨ましいな。
「さあ、次の展示物はミイラ、で・す・が! これから見る物は普通ではないかもしれませんよ〜。その特徴が分かる人ー?」
「はいっ!」
「はい」
「はーい」
「では、元気に手を上げたそこの金髪の男の子!」
「吸血鬼ですっ!」
「正解! 吸血鬼かもしれないと噂されているミイラですね〜」
日が当たらず仄暗い展示室の壁面には、懐かしい城の写真と説明が大きく載ってて、ガラスケースにはそこから発見された服飾品や食器、絵画とかが展示されてる。
そしてその中央、一際目立つ場所に置かれた展示ケースに横たわるミイラが──。
「こちらがレスターン州指定の文化財、ジョージ ケリー三世のミイラです。ミイラと言えば先程見てもらった古代エプジトの物を想像すると思いますが、ケリー伯爵は大変珍しい近世の物なんですよ」
そう、俺だ。なんと博物館の展示物をやってる。あれから……一〇〇年も経ってないはず。数えるのを三年くらいでやめたから、分からない。
「ケリー伯爵と言うよりも不死の王と言った方がピンと来る方も多いかもしれませんね。不死身の怪物である吸血鬼にちなんだ別名です」
「でもさー不死の王ってミイラだし絶対死んでるじゃん」
「そう考えるとマヌケね」
そ、それならザ・吸血鬼って口調で語ってみるか。
――お主等は吸血鬼についてどのように思うておるだろうか? そう、血液を啜りその身の糧にする化け物だと人間には恐れられておるな。
先程指摘されたように不老不死、怪力、催眠術、変身能力があり、弱点は日光、聖水、十字架、ニンニク――。
その能力や弱点は枚挙に暇が無いが、いずれにせよ吸血鬼は伝説や民話の中――架空の存在とされておる。
ところが実在するのだよ。“不死の王”と言う異名が表す通りミイラとなっても尚、生きてここでお主等と相対する私こそがその証拠だ。
…………って無理っ! この口調、痛々しいだろ!
「では何故ミイラはこのように大切に保存されているのでしょうか? それは当時の人々がどのような生活を送っていたかが分かるからです。例えばミイラが身につけている物を見ると当時の服飾の流行が分かりますね。またミイラを詳しく調べれば、どのような病気にかかっていたかを知る事が出来ます」
「でもさ、このミイラ生きてるって噂だぜー?」
「あっ、それ知ってる! 『怪奇、目を開けた怪物のミイラ』って動画でしょ?」
「ええ、怖っ……」
「それにミイラって普通に気持ち悪いよな」
……おいおい、そんな事言うなよ。俺だってなりたくて気持ち悪いミイラになったんじゃない。いくら吸血鬼でも傷付くんだからな?
「ミイラを発掘した研究者が参考にした文献によれば、ジョージ ケリー一世、二世、三世は皆瓜二つの見た目をしていました。日中出歩いている姿を見た事が無い、獣を使役していたと言われた事から、その正体は吸血鬼で歳を取らないのを誤魔化す為、三人の人物を演じていたのではないかと当時の人々に噂されました。」
――バンッ、バンッ!!
うわっ、さては子供が展示ケースを叩いてるな? 頼む、揺らさないでくれ。俺は水分が抜けたカッサカサのミイラなんだ。しかも動けないんだぞ。
っていうか首とか外れたらどうなっちゃうんだ? 嫌だよ、いつか動けるようになった時デュラハンみたいに、首を抱えた吸血鬼になるのとか。
「さて、ケリー伯爵が吸血鬼なのではないかと言われている理由をいくつか説明しましたが、吸血鬼の体で一番の特徴と言えば? 分かる人ー?」
「はいっ!!」
「はい!」
「では、赤毛の三つ編みの子!」
「牙が生えているところです!」
「正解! ほら、少し開いた口元から犬歯が覗いているでしょう?」
……物凄い視線を感じる。目を瞑ってるから本当は分かんないけど絶対見られてる。子供と学者の視線って遠慮が無いよな。展示物だってプライバシーはあるんだぞ! 緊張で冷や汗が出そうだ。汗は出ないけど。
「今はこんなシワシワな状態で見る影もありませんが、ケリー伯爵は大変美しい見た目をしていたそうですよ。あそこにある三枚の肖像画を見ると分かりますね」
おいおい、そりゃないだろ? 今だって――シワシワかぁ……。決して俺がナルシストな訳ではない。胸から上しか描かれてないからはっきりとは分からないけど、バランスの取れた体型、どちらかと言えば細身なんだろう。
顔の輪郭はシャープで、パーツや配置は全体的に整ってる。少し切れ長の青い目、スッと通った鼻筋に、形の良い唇。赤毛はいつぞやの貴族って感じな髪型で、肌は少し白過ぎる気がするけど、控えめに言ってかなりのイケメンだ。……でもこれが本当に俺なのか?
因みにここの肖像画は俺が描かせたんじゃなく、送り付けられた物だ。
「それでは次の展示物を見に行きましょう」
ふう、やっと解放された。いつも思うけどこの展示室、陰気だよな。それにあの目力が強い肖像画にじっと見られてるから怖い。俺の顔なはずなのに。
だから気を紛らわす兼、暇つぶしのため周囲の情報収集は積極的にしてる。
とは言え普通の人間にとっては、目をカッ開いてキョロキョロするミイラってのは、あり得ないだろうから、薄目で時々周りを見るくらいだ。この展示ケースが薄暗い場所にあってくれて助かった。
初めて博物館に運ばれて来た時、展示物として扱われる事にちょっとムカついてたから、人間が居なくなった隙に、自分がどうなってるのか目を開けて見てみた。
普通吸血鬼は鏡とかに映らないけど、五〇〇ウン年血を一滴も飲んで無いから、もしかしたらガラスの蓋に映るんじゃないかと予想したんだ。吸血鬼の弱点や特性って、生き血を啜ると言う罪深い行為と深く関係してるらしいから。予想通りぼんやりとだけど映った。
だけど自分と対面した時の衝撃と言ったら、あれは一生忘れられない。落ち窪んだ目をカッ開いたミイラがぼんやりと映ってた。しかもシナシナの生え際から髪の毛が生えてるのってかなり気持ち悪い。
飛び上がって悲鳴をあげた。だけど実際は体は動かないし声も出ないから、乾燥防止に置かれてるコップの水面がほんのちょっと揺れたくらいだったけど。突き付けられた現実と自分の顔を見て驚いたショックで泣きそうになった。
それから忘れちゃいけない事がひとつ。この博物館の館長はヴァンパイアハンターなんだよな……。
お読みくださりありがとうございます。
次回、第3話では館長のヴァンパイアハンターが登場したり、館内で怪我をし血を流す職員も現れ……?




