1話 発掘
「今から遡る事約五〇〇年前、この辺りを治めていた領主ジョージ ケリー三世が、忽然と歴史の表舞台から姿を消した。その行方については学者の間でも様々な議論が交わされてきたが、未だ明らかになっていない」
――夜空に輝く星に負けないくらい目をギラギラと光らせた男四人が、草木が鬱蒼と茂る山間に佇む古城の扉を押し開いた――
古く重たい扉が軋みながら開く音と、複数の足音が城内にこだまする。朽ち果てる一歩手前のしんと静まり返った古城の明かりは、割れた窓から差し込む月明かりだけ。良く言えばムードがあり、ありのままを言えば埃っぽく陰気と言ったところか。
「一九七五年×月×日、遂に我々はケリー伯爵の城に足を踏み入れた。消失したと思われていた文献を発見し苦節三年、彼の居住地跡を突き止めた。貴重な遺物と相対し、歴史の真相を突き止める時が迫っているのだ!」
蜘蛛の巣を手で払いながら歩く四人の男は考古学者だ。
「……録音はこんな感じでいいか。それじゃあ手分けして発掘に当たってくれ。細かい情報をメモすんのを忘れんな」
「「「はいよー」」」
しかし……奴はまだ気付かないか。城へ侵入されても尚、眠りこけているとは。つくづく間抜けで見ていて飽きが来ない。
それでは私、天の声はこの辺でお暇させていただき、高みの見物と洒落込む事にしよう――。
んぁ…………足音? こっちへ向かって来る。くそー、無断で他人の城に上がり込んで、しかもズカズカ歩き回りやがって。不法侵入だぞ!
……って、あれ?? 目は開くのに体が動かない。それに口の中があり得ないくらい乾いてて声も出ない。えっ、何で?
ええぇぇぇーーっ!?
頭を抱えたくても手が動かない、叫びたくても声が出ない。軽くパニックになりかけた時、声が聞こえた。
「おっ、棺桶だ!」
ヤバっ、侵入者が来てたんだった! 一旦落ち着いて自分の体に何が起きたか考えなきゃ。と言っても俺が知ってる情報は、たかが知れてる。ちょっとひと眠りして起きたらこうなってた。それくらいしか無い。
も、もしかして金縛り? あれって確か霊的なのが起こすって聞いたぞ。それだったら吸血鬼の俺の身には起きないよな? そうだよな?
ああ……足音がすぐ近くで止まった。反射的に目を瞑った瞬間、視界がほんの少し明るくなる。もしかして侵入者が棺桶の蓋を開けたのか?
あっ、目で光は感じれるみたいだ。それに考えてみれば耳も聞こえてる。感覚は残ってたみたいで少しホッとした。顔の真上で声がする。
「おっ、おお!? ……レコーダー、レコーダーっと」
――ハッ! まさかコイツ等ヴァンパイアハンターか!? 変な術とか道具とか使われてたり? だとしたら俺が動けないこの状況も納得出来る。
くそっ!! 俺はここで死ぬのか……?
「何とジョージ ケリー伯爵は自身の城でひっそりと息を引き取っていたのだ! 一四七五年を最後に目撃情報が途絶えていたが、それから約五〇〇年後の今日以降、彼は再び日の目を見る事となるだろう」
嘘っ、俺はもう死んでるのか!? ……そりゃ、五〇〇年も寝てれば吸血鬼でも死ぬかぁ。
これが俗に言う幽体離脱? 幽霊の仲間入りしちゃった? いや、背中が棺桶に当たる感覚がある。それならまだ生きてるよな。
「このミイラがその証拠だ! 保存状態は素晴らしく、文献に残された資料とも髪の色、おおよその身長、服装など特徴が合致するのだ!」
ミイラ!? えっ、どこにあるの? ミイラと添い寝してるとか俺、嫌だよ?
「よしっ、録音完了。みんなー、一旦手を止めてこっちに来てくれ! ケリー三世と思しきミイラを発見した!!」
そういえば俺、ケリー伯爵って呼ばれてたな……。もしかしてミイラって俺の事なのか!? ……いやいや、そんな馬鹿な〜。
「綺麗にミイラ化してんなー。でもよ、どうして三世だと断言するんだ? ケリー伯爵って三代共に似た見た目してたよな?」
同一人物ですから〜。
「まあまあ、聞けって。一世はペストの脅威から領地を守っただろ」
そうそう。街を清潔にして、病気を媒介するネズミを駆除するため猫を飼って。でも俺の領だけ無事だったから俺が病を流行らせたって噂されたんだよな……。
「二世は他領の侵攻から領地を守り通した」
寂しくて猫に話しかけてたら、獣を使役してる吸血鬼だって言われて侵攻を受けて、遂に正体がバレたかと思ったけど、言いがかりだったってやつな。俺の事を恐れてる領民に認めてもらうためにも頑張ったよ。
「じゃあ、三世は何をやった?」
「えっと……」
「だろ? パッと思い付かない。一世と二世は領民にとって英雄だろうから、きちんと埋葬されてると思う」
そう言えば俺、自分の葬式二回も出したっけ。
「こんな陰気な城の中から見つかるなら三世以外居ないだろ?」
「だが文献が散逸してる以上、確証はないよな? まぁそれでもこのミイラがケリー伯爵家三代の当主のうちの一人には違い無いか。この赤い宝石が付いたブローチは、文献に載ってたケリー伯爵家の家宝と特徴が一致している」
「こりゃ良い考古学的資料になるぞ!」
会話の内容的にコイツ等、考古学者みたいだ。ヴァンパイアハンターじゃなくて本当に良かった〜。
……って赤い宝石のブローチ? 俺が着けてるやつじゃん!うおーーー!!! 焦りたくても声が出ない、動けない。……あっ、もしかしてそれってミイラになってるからか?
「よしっ! 棺桶ごと運び出すぞ。“一、二の三”の三で持ち上げるからな」
「「「了解!」」」
「一、二の――三!」
うん……棺桶が揺れてるのを感じる。認めたく無いけどやっぱりミイラって俺の事なんだな……。これからどうなっちゃうんだ!?
お読みくださりありがとうございます。
次回、第2話は城から運び出された主人公が行き着く先、博物館でのお話となります。どうやらそこの館長はヴァンパイアハンターが務めているらしく……?




