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泣き虫吸血鬼は最後の恋をする〜ミイラを拾って水(血)をやったら超絶イケメンになりました〜  作者: 甲野 莉絵


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32話 最悪の再会

「あら? 貴方、アオイさんのお友達じゃない。この時間、こんな場所に居たら危ないわよ」


 俺達の姿を見て、フィンリーがにこやかに手を振りながら向かって来る。その後ろにはもう一人、ぴょこぴょこ跳ねた茶髪に、青い目をした二〇歳前後くらいの青年がいた。たぶんあいつもヴァンパイアハンターだ。大きなリュックを背負ってるけど、中に大量の道具でも入ってんのか?


 後ろは突き当たりで前にはヴァンパイアハンターが二人。逃げる事自体は簡単だけど、ここで全力で走ったり屋根に飛び乗ったりしたら、即刻吸血鬼だとバレる。どうにかして、やり過ごすしか無さそうだ。


「出たな、腐れヴァンパイアハンターめ!」


 ……ヤバい、俺がフィンリーに気を取られてる間に、吸血鬼の男はすっかり臨戦体制になってた。フィンリーも髪を束ねながら応じる。


「あら、もう吸血鬼に襲われてたのね? 気付かなくてごめんなさい。待ってて、直ぐに助けるから。――リチャード、援護をお願いっ!」

 

「おうっ! でも叔母さんは俺の援護なんて要らないよな?」


「……んもう、アタシを叔母さんって呼ばないで!」


 フィンリーが肩をすくめ銀の短剣を抜くと、リチャードはあろう事か銃を構えた。まさかあの中には銀の弾丸でも込められてるのか……?


「ちょっ……待っ……」


 俺の静止の声は届かず、戦いが始まってしまった。三人とも好戦的過ぎないか? まぁいっか、アイツらが戦いに気を取られてる隙に逃げればいいだけだ。


 ついでにあそこで棒立ちしてる女性も連れてこう。獲物としてあの吸血鬼の男に催眠術をかけられて物陰に連れ込まれた、いわば被害者だ。万が一にでも戦いに巻き込まれたら可哀想だからな。


 女性の肩を掴んだその時、吸血鬼の男がフィンリーに右ストレートを繰り出し、振り向きざまに笑顔で叫んだ。


「ジョージ様は今のうちにお逃げください! ヴァンパイアハンターの相手などで、純血の吸血鬼である貴方様の手を煩わせる訳にはまいりません。ここは私にお任せを」


 ん? 今、俺の名前を呼んだか? ……いやいや、きっと聞き間違いだ。けどそれを聞いたフィンリーが目を輝かせた。


「あら、あらぁ! 『ジョージ様』って、貴方が不死の王だったのね!? 待ってて、こんな奴直ぐに片付けてそっちへ行くからっ!!」 


 フィンリーは身を屈め、吸血鬼の男のパンチを避けると同時に大きく地面を蹴った。吸血鬼の男の顎に膝蹴りをくらわせ馬乗りになる。


 終わった……しっかり顔を見らてるうえに、吸血鬼の男がご丁寧に紹介してくれちゃった以上、誤魔化す事も出来ない。何処に住んでるかバレるのも時間の問題だろう。


 クソッ! あの吸血鬼が余計な事を言ったせいで蒼と一緒にいられなくなりそうだ。俺より弱い癖に何が『お逃げください』だ。守ってくれなんて俺はひと言も頼んでいないと言うのに。


 俺はただ蒼の側で、ひっそりと大人しく生きていたいだけなのだが、そのようなささやかな幸せすら許されないのか? 本当に邪魔な奴等だ。


「……ヒッ!」


 その時、肩を掴んでいた女性が掠れた声で悲鳴をあげた。その声を聞きリチャードが俺に銃を向ける。フィンリーは俺を見て恍惚の表情を浮かべ、吸血鬼の男の心臓に銀の短剣を突き刺した。


「あら〜月明かりの下で見ると、人を惑わすような美しさが際立つわね。それでいてゾクゾクするような害意が滲み出てて、正に不死の王って感じよ。今まではやっぱり猫を被ってたのね?」


 男が動かなくなると、フィンリーは銀の短剣を引き抜き大きくひと振りし、付いていた血を振り払った。

 

「その眼光の鋭さ、震えが走るわぁ。とても退治しがいがありそう。だけどその前に人質を離しなさい!」


 銀の短剣を俺に向けて構え直しフィンリーが何か言っている。だが俺には短剣の剣身に写った自分の顔を見たショックの方が大きかった。


 眉間に深い皺を寄せ、赤くなりかけた目を吊り上げ、歯軋りをしている。本当に怖い顔だった。


 嘘だッ!! 俺の心は人間なんだ、俺がこんな表情をする訳がない! これは生粋の吸血鬼が怒りを顕にした時に見せる表情だ。普段はうっすらとしか自分の姿が見れないのにこう言う時に限って、何故か目に飛び込んで来る。


「これ以上は人を襲わせない! 早く人質を離しなさい!!」


「違うっ!! 俺は……」


 後退りながら首を振る。でも、あんな顔を見られたからには、もう何を言っても信じてもらえないだろうな……。ショックがあまりに大き過ぎたせいか、リチャードが銃の引き金を引いた事に気付くのが一瞬遅れた。


 嘘だろ!? 俺はまだ女性の肩を掴んだままだし、こんな街中で銃をぶっ放すのか? そう思い素早く女性を背後に庇うと同時に、足下でジャッと変な音がした。


 ……この湿った石の匂い、それに濡れた足元。もしかしてあの銃は水鉄砲か? いや、吸血鬼の俺に向けてるんだ。ただの水鉄砲では無さそうだ。


「人質を離せ! 次は当てるぞ」


 リチャードは鋭い声を上げ、俺の顔の辺りへ向けて銃を構え直す。女性を渡すのはやぶさかではない。でもその後、大人しく投降しても俺は絶対に退治されるよな。こうなったら逃げるが勝ちだ!

お読みくださりありがとうございます。

次回、第33話でどうにか逃げようと試みる主人公ですが、ヴァンパイアハンターが見逃してくれるはずもありません。攻撃をくらった主人公は身動きが取れなくなってしまい……? 6/3、15:05頃投稿予定です。

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