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泣き虫吸血鬼は最後の恋をする〜ミイラを拾って水(血)をやったら超絶イケメンになりました〜  作者: 甲野 莉絵


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31話 初出勤

 今日はメアリーさんが経営するパブへの初出勤日なんだけど……緊張とは違う不安がある。ここ一週間血を飲めていないせいで貧血気味なんだ。


 ダリブン大学にある蒼の研究室が何者かに荒らされ、保存してあった人工血液が盗まれたらしい。


 でも実験途中の物は無事だったから、蒼が急ピッチで人工血液を作ってくれている。蒼の研究にあまり支障が出てなければ良いんだけど。


 当の蒼は目をキラキラさせて「新たな知見を得られるかも!」と言ってるくらいだ。やる気充分でホッとしたけど、無理だけはしないでほしい。


 本人が気付いてないだけで、体には疲れが溜まってる……なんて事もあるからな。体力馬鹿な俺の影響で、元々頑張り屋な蒼の感覚が狂わないと良いんだけど……。


 だから初出勤で遅刻したら目も当てられないからって理由を付けて、蒼に無理を言って今日は少し早く帰って来てもらう事にした。蒼が帰って来たと同時に出かけられるように準備をしなきゃ。嘘吐きにはなりたくないからな。


 そう言えば、眠りにつく前と比べて代謝が悪くなったのか、人工血液だけを飲んでるからかは分からないけど、この見た目になったあの朝以来、髪や爪や髭が殆ど伸びなくなった。今の所何の弊害も無さそうだから良いけど。


 いや、むしろ手入れが要らず、金も掛からず、しかも元々整ってる良い体なのかもしれない。日々家事をこなしてるからか、水も全然怖くなくなった。

 

 やっと最近少しづつだけど自分の体が悪くないと思えてきたところだ。


 日光は日焼け止めと日傘で太刀打ち出来るし、牙も口を大きく開けなければ見えない。目だって興奮して赤くならないように気を付ければ良いだけだ。


 仕上げにマフラーで口元を隠し、腕時計を手に取る。へへへ、両方とも仕事を始めるならって、蒼が古着屋で買ってくれた俺の宝物だ。そっと腕時計を手首に巻いてると――。


「ただいま」


 あっ、蒼が帰って来た! コートを羽織ってと。


「おかえり。それじゃあ行ってくるな」


 家を出て、テプンルバー通りにある職場へ向かって歩いた。正直レイラの信奉者とフィンリーがうろつく近くで働くのは怖い。でも純血の俺がちょくちょくテプンルバー通りへ行けば、レイラの信奉者への抑止力になって、被害者が減る可能性はある。


 それにウォルシュ夫妻から認めてもらえるように頑張らなくては。そう思うと気力が湧く。目指せ、蒼との正式なシェアメイトだ!


「こんにちは! 今日からこちらで働かせていただくジョージ ケリーです。よろしくお願いします!」



 *



「お疲れ様でした!」


 若干人寄せパンダにされてる予感もしたけど、初仕事は大成功と言って良いと思う。だって料理の余りをもらえたくらいだ。蒼も喜んでくれるかな? 


 よーし、貰った料理はまだ温かいから超特急で帰ろう。人目に付かないように通りを何本か曲がった先の路地から……って、うわぁ。カップルが抱き合ってる。とりあえず見なかった事にして大通りへ戻るか。


 けど男は見逃してくれなかった。


「見ぃーたぁーなぁ?」


「わ、私は何も見てませんよ! 邪魔者は直ぐに立ち去りますから」


「見られたからには、このまま返す訳にはいかない」


 手を掴まれ、暗い路地裏へ連れ戻される。

 

 ヒィィィ! そんなに怒んなくてもいいじゃん。確かに良いところを見ちゃったけど、別に悪気があった訳じゃない。それに外でイチャイチャするなよな、家でやれ、家で。俺なんて蒼と抱き合いたくても出来ないんだからな!


 ん? でもこの男から微かに血の匂いがする。体に染み付いて取れないようなこの匂い、こいつ吸血鬼か? この辺にいたって事は大方レイラの信奉者だろう。


「はっ、離してください!」


 その瞬間、吸血鬼の男がガバッと跪いた。


「ジョージ様、大変なご無礼をお許しください!」


 うわっ、バレてる……。って言うか跪くのをやめてくれ。貴族スマイルを取り繕い、早急に立ち上がってもらう。


「気にしてませんから、顔を上げてください」


「おお、何とお優しい。――ハッ、貴方様に警告があるのでした。どうかレイラ様にはご注意ください」


 ん? この口ぶり、もしかしてこの吸血鬼の男はレイラの信奉者じゃないのか?


「ええと、元々私からレイラに会うつもりは無いので、その心配は無用ですよ?」


「いいえ、あの方は貴方様の血を狙っておられるのです。レイラ様は不調に苦しむあまり部下の一人を襲い、吸血鬼の血ならば体調が良くなると気付かれてしまった。ですから不調を直す薬として、より濃い貴方様の血を狙っておられるのです」


「…………そうでしたか。貴重な情報を教えてくださりありがとうございます。ですが何故レイラを慕っているはずの貴方が、レイラの不利になる情報を私に?」


「私は恐ろしくなりあの方の下を離れました。ひょっとしたら我等の中に流れる、あの方ご自身の血液を回収し、不調が和らいでいるだけかもしれない。いつかあの方も、その事に気付いてしまわれるかもしれないでしょう?」


 確かにレイラの性格なら信奉者の血を吸い尽くして、調子が良くなったらまた新しく信奉者を増やせばいいとか考えそうだ。俺が頷くと吸血鬼の男は話を続けた。


「ハロウィンのイベントに紛れ、あの方自ら街中で狩りをするつもりのようでした。出くわしてしまわぬように念の為、警告をさせていただいた次第で、モガッ――」


 ここへ近付く足音に気付き、慌てて吸血鬼の男の口を塞いだ。大通りからここへ続く路地へ入っても店は無く、この先は行き止まりだ。地元の人はそもそも入らないだろうし、観光客もわざわざここまでは来ないだろう。


 だから真っ直ぐここへ来るって事は……ああっ、やっぱりこの足音はフィンリーだ。


「シッ、静かに!! ヴァンパイアハンターが来るぞ!」

お読みくださりありがとうございます。

次回、第32話で遂にその正体がフィンリーにバレてしまいます。更に主人公の様子がいつもとは違い……? 6/3、10:10頃投稿予定です。

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