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泣き虫吸血鬼は最後の恋をする〜ミイラを拾って水(血)をやったら超絶イケメンになりました〜  作者: 甲野 莉絵


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28話 博物館で

「なあ、モデルの真似どうだった? キマってたか?」

 

 考古学博物館への道すがらの信号を待つ間、蒼に聞いてみた。本当はモデルの真似をした時、超恥ずかしかった。今もすれ違う女性達にチラ見されてるけど、俺が頬を染めて見てほしい人はただ一人だけだ。


「はぁ? 分かり切った事をわざわざ聞く?」


 期待を込めて頷く。前に蒼は俺の事を『蠱惑的』と言った。その時は深く考えなかったけど、今思えばあれって俺にピッタリの表現だと思う。


 吸血鬼がその見た目で異性を誘惑して襲うと言うのは有名な話だ。イケメンになれたのは嬉しいけど、吸血鬼の身体的な特徴だと思うと複雑でもある。


 でも蒼が『カッコ良い』って言ってくれたら、それだけで凄く嬉しい。恥ずかしさを堪えてモデルの真似をした甲斐がある。


 蒼がちらっと俺を見上げた。ちょっとドキドキするな。立ってると身長差で必然的に蒼が上目遣いっぽくなる。いつもの気が強そうな表情もいっそう可愛く見えた。けど蒼はフンと鼻の頭を擦りつつ目を逸らす。


「微妙よ。……モデルが可哀想なくらいだった」


 あれ、涙が滲んで前が見えなくなってきた……。俺なんかじゃ本物のモデルに敵わない事くらい分かってたけどさ、こうダイレクトに言われるとグサっとくる。もう二度とやらない。信号が変わり、トボトボ歩く俺の手を蒼が引いた。


「ほら早く行くわよ」


「う、うん」

 

 吸血鬼の俺より少しだけ暖かくて、柔らかい手の感触が心地良い。たったそれだけで沈んでた気持ちが軽くなるなんて、我ながらチョロいな。


 考古学博物館はもう目の前だ。あそこに入ってしまえばレイラとその信奉者の心配は要らない。フィンリーに会ってしまうかもしれないと言う、別の意味の恐怖があるけど。


 蒼に入場券を買ってもらい、エントランスを抜ける。


 2025.09.12――入場券に印字された今日の日付け。これは蒼と一緒に過ごした確かな証拠、俺の宝物だ。

 

 入場券をコートのポケットにそっと仕舞い、無くさないようにボタンをしてから蒼の後ろを歩いた。考えてみれば、元展示物の俺が動ける状態でここに来てるんだ。そう思うと何だか感慨深い。機会があれば元々住んでた城とかにも行ってみたいかも。


 エントランスを抜け、ホールへ入ると懐かしい博物館の匂いがした。あっ、懐かしいとは言え、ここに戻りたい訳ではない。


 だけど聞き慣れたはずの館内アナウンスも、来館客として改めて聞くと、何だかワクワクするな。博物館なんて来たのは小学生以来か? 意外な事に大人になってから来た方が楽しめるかも。目の前にある展示室へ入ろうとすると、蒼に止められた。


「ちょっと待って、今のうちに館内図を確認しておきましょう。ええと……お目当ての展示室は最後の方ね。とりあえず順路通り行くしか無いか」


 結局俺が展示されてた展示室へ着いたのは、閉館時間一五分前だった。思った以上に博物館が楽しかったからつい……。


 薄暗い展示室には相変わらず城の写真やら、発掘された俺の所持品やら、目力の強い肖像画やらが展示されていた。唯一変わった所は、俺が寝かされてた場所がも抜けのからになっている事。


 もう時間も時間だからか、この展示室には俺と蒼以外は誰も居なかった。


「なるほど、貴方はここで消毒液と絆創膏を使う来館客を、目を開けて見ていたのね?」


「うぅ……それは言わないでくれよ」


 しかしこうして見ると、思ってたより狭い展示室だったんだな。しみじみと展示品を見ながら頷いてると、蒼が俺の肖像画を見上げながら呟いた。


「あまり似ていないわね」


「そうか? 服装や髪型と髪色が違うからそう感じるだけだろ? 俺はまあまあ似てると思うけど」


「ええ? 貴方はあんなに冷たい表情していないわ。もっとのほほんとしているでしょ? それよりあの絵だと目の色が濃い青、インディゴブルーって感じね」


「う、うん……あれ? でも俺の目はグレーがかった薄い水色だぞ?」


「そうね。でも元々はあの青に近かったのかもしれない。私の仮説だけど、貴方の体はミイラ化したショックで色素を作るエネルギーが切り捨てられて、生命活動を維持するために回されたんじゃないかと思うの。それで目の色や体毛の色が薄くなったのかもね」


 なるほどな、元の色にこだわりは無いけど、色が変わった理由の予想がついてスッキリした。


「ねえ、どうせならこの展示室にある物の解説をご本人から――」


「シッ! 誰か近付いて来るぞ! ……こっ、この足音は間違い無い、フィンリーだっ!」


 くそっ、こんなに近付かれるまで気付かないなんて……。もうそこの角まで来てる。今更逃げたらかえって怪しまれるし……。ヤバい、どうしよう。


 前から思ってたけどフィンリーって匂いがほとんどしないから、やっぱり足音もわざとさせないように歩いてるんだろうな。ってそんな事考えてる暇は無い、ここをどう切り抜けるか考えないと。


 とりあえずコートの襟を立てて少しでも顔を隠そう。ああ〜無駄な足掻きだと分かっていてもやってしまう俺って人間っぽいな。っていやいや、人間じゃないから俺はフィンリーを恐れてるんだろ!


 いい加減現実逃避はやめないと。ほら……フィンリーが来ちゃった。

お読みくださりありがとうございます。

次回、第29話で咄嗟に部屋の隅に隠れた主人公ですが、呆気なくフィンリーに見つかってしまい……? 6/1、21:10頃投稿予定です。

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