27話 因果応報?
「……で、何してたんだよ? 外はもうすぐ暗くなるけど、昼迄には帰って来るって言ってたよな?」
「ごめんなさい……」
蒼は心底申し訳なさそうに頭を下げた。あっ……違う。確かに心配だったけど、謝って欲しかったわけじゃないんだ。そう言おうとしたところで、向かいに座る女がずいっと身を乗り出した。
「ええっ! 嘘っ、アオイさんを家で待ってる人が本当に居たの? 絶対見栄張ってるんだと思ったのに。しかも人外だって言われても納得出来るレベルの超絶イケメンが!? まさかっ、まさか……二人は付き合ってるの!?」
じ、人外!? 予想外のワードと、周りからの視線にビクッとしてると、蒼が『落ち着いて』と言うように机の下で爪先を小突いた。
「いいえ、彼はシェアメイト――ではなく居候ね。付き合っていないわ」
俺も頷くと女は目をギラリと光らせ、俺の手を握り指を絡めた。あまりの押しの強さに口から悲鳴が漏れかけたけど、どうにか飲み込む。……って言うか、この声どこかで聞いた気がする。
「それなら私とっ! 私とお付き合いしませんか!?」
何が『それなら』だ。本当ならその手を今すぐ振り払いたい! でも相手は人間の女、人間の女……よし。
「……ちょっと失礼」
どうにか貴族スマイル取り繕い、丁寧な口調を心掛けて女の手をそっと外し、蒼に日本語で尋ねた。
『“この人は……? まさか俺の正体がバレてるのか!?”』
『“それは無いわ。トムの現在の彼女なんだけど、思い込みが激しい人みたいで……。まだ私がトムと関係を続けてるんじゃないかって疑っているらしいの。大事な話があると言うから付き合ったけど、何度も何度も同じ話しをされてウンザリしていたのよ”』
どうりでこの女からトーマスのコロンの匂いがする訳だ。でも……なんかムカつく。
蒼はアイツの事を愛称で呼んでる。もう何の関係も無いはずなのに。それに比べて俺は未だに名前ですら呼んでもらえてない。
その時、注文したホットチョコレートが届いた。
『“……俺はちょうど良い風除けって訳か”』
『“ごめんなさい……”』
違う、そうじゃない。自分で抱えた気持ちに折り合いをつけられなくて、思わず棘のある言い方になってしまった俺が悪いんだ。蒼に悲しい表情をして欲しいはずがないのに。
蒼と目を合わせ辛くて目の前の女を見た。はぁ……俺ってやっぱダメな男だな。
そう言えばこの女の声、聞き覚えがあると思ったけど、ミイラだった俺がダリブン大学に着いた日、トーマスにナンパされてた女じゃん!
よくも俺の事を『臭そうでシワシワて不気味でキモくて冴えないミイラ』だと笑ってくれたな!! お前らの悪口は俺の心を抉ったんだぞ!
それにこの女、おかしいんじゃないか? 蒼をわざわざここに連れ込んだって事は、実際トーマスと付き合ってるんだろう。それなのに俺に告白めいた事を言って来るなんて!
こんな奴なら多少弄んでも許されるはず。決して悪口への腹いせじゃない。そうだ、蒼も迷惑を被ったんだから、多少痛い目に遭わせて傷付く悲しみを知らしめた方が、世の為なんじゃないか?
誘惑してその気にさせてから手酷く振ってやるっ!!
前にスマホで見たモデルの表情とポーズを真似てみようじゃないか。あの頃はまだ蒼に告白するつもりでいたから、こっそりと練習したんだ。その成果を見せ付けてやる!
サングラスを外しながら髪をかきあげ、流し目で女を見る。これでどうだ!
おおっ、効いてるぞ。今度は目力を込めて見つめてみよう。これはどうだ!
うんうん、効いてる。じゃあ今度は微笑んでっと。おお〜女の表情がとろんとしてきた。……ん? 俺が手を握られてる? まあいいか、続いてはあの表情だ。
「――ひぅっ! あ、蒼何すんだ?」
モデルがしてた軽く睨むような表情を再現してると、蒼に何かで背中をつぅーっと撫でられた。反射的に体がビクンと跳ねる。すごいくすぐったくて、ゾワゾワしたんだけど……。
「いい加減にしなさい。一体何がしたいの?」
蒼が銀の指輪を指にはめ直しながら言った。まさか……さっき俺の背中をなぞった物は、銀製品だったのか!
酷い! 確かに布を挟めば大丈夫だとは言った。けど、わざわざやるか? 俺がくすぐりに弱いって知ってるはずなのに。
でもお陰で頭が冷めた。そうだよな、片思いの辛さは身をもって知ってるはずなのに、俺はどうかしてた。真実を告げて謝ろう。
「意地悪してすみません。実は私には婚約者がいまして……。だから君と付き合う事は出来ないんです」
うぅ……蒼の視線が痛い。やっぱ言わなければ良かった。でも目の前の女も衝撃を受けた様子だ。蒼からの視線に耐えるだけの効果はあったな。
「え、ええっ〜? お付き合いしてないってそういう事!? まさか二人は婚約してるの?」
へっ!? 何でそうなるんだ? もしかして俺と蒼はお似合いなのか? ……っていやいや。どうにか首を横に振ると蒼がため息を吐く。
「馬鹿らしくてやってられないわ。貴方がここに居るって事は家に鍵は掛かってないのよね? 私は少し席を外すから」
「ま、待ってくれー!」
確かにショーンさんからまだ鍵は渡されてないけど、蒼が心配でそれどころじゃなかったんだ。それに今、蒼一人で外に出たら……。
遠ざかる蒼の背中を追いかけようと立ち上がると、女に手を掴まれ指を絡められた。
「大丈夫〜?」
「もう私に構わないでください……」
「ええ〜、やっぱりアオイさんがいいの? でもあの人はおすすめ出来ないな〜。だって文化財のキモいミイラを盗んだとかで、警察の取り調べを受けてるんだよ? 私達には理解出来ない趣味してるの」
そのキモいミイラは今、お前の目の前に座ってるんだよ! ……なんて言えないから、貴族スマイルを取り繕う。
「私の婚約者は蒼じゃないんです。君にはトーマスが居るはずでは?」
だからその手を離せ! どうにか片手を外すと、もう片手をありったけの力で握られた。
「た、頼むから手を離してください」
「ふふ、青くなっちゃって可愛い〜。見た目によらず経験浅そう。大丈夫、トーマスとは別れるから」
凄い馬鹿力で手が全然離れない。って言うか痛い! 無理やり外す事は簡単だけど、相手が人間の女だと思うとそれも出来ない。
も、もうこうなったらあの手しか無い。自由な方の手で女の顎を掴み、目線の高さを合わせる。
「きゃっ!」
俺の事は忘れて家に帰れ! とにかく帰れ〜!
次の瞬間、女は俺の手を離して席を立った。今度こそ蒼を追うため、腰を浮かせかけると――。
「へぇー顎クイなんてしちゃって、貴方も中々大胆ね」
後ろから聞こえた蒼の声にビクッとしながら振り返る。
「み、見てたのか!? ち、ち、違う!! あれは催眠じゅ――」
「分かった! 分かったから、声を抑えて」
慌ててコクコクと頷きつつ、残ってたホットチョコレートを飲み干す。
「飲み終わった? それじゃあ私達も行きましょう。ここはまとめて私が払うけど、彼女のパフェ代だけは貴方の借金リストに追加しておくから」
「そんなぁ〜、待ってくれよー!」
お読みくださりありがとうございます。
次回、第28話で主人公と蒼は考古学博物館へ向かいます。そこへ恐れていたあの人の足音が聞こえて来て……? 6/1、12:25頃投稿予定です。




