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泣き虫吸血鬼は最後の恋をする〜ミイラを拾って水(血)をやったら超絶イケメンになりました〜  作者: 甲野 莉絵


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26話 居ても立っても居られない

 気付けば九月も半ば。この家に転がり込んでから、一ヶ月以上が経つんだな。早かったような遅かったような……。その間、蒼はずいぶん張り切って研究に打ち込んでたから、体を壊さないか心配だった。でも人工血液が飲めなくなるのは困る。だから俺が蒼の体調管理に気を遣う事にした。


 その一環として、蒼を休ませるため考古学博物館へ行こうって誘ったんだけど……蒼が帰って来ない。今日は昼過ぎまでには帰って来るって言ってたのに、もう一八時過ぎた。


 頼まれてたリビングの掃除と洗濯は終わってしまい、ソファーに座って時計を見てると、どうしても嫌な事が頭をよぎる。


 テプンルバー通りで次々と発見されてる失血死した遺体についてだ。


 確かダリブン大学への近道はテプンルバー通りを突っ切るルートのはず。迂回するルートもあるけど、蒼の性格なら絶対に近道を通って来るだろう。そして夕暮れ頃になれば、日影の場所くらいは吸血鬼でも動ける。ああっ、居ても立っても居られない。


 サングラスとコートを手に家を出た。急いで蒼を探そう。でも市街地を本気で走ったら絶対目立つから、急ぎ過ぎない程度に……くそっ、もどかしい!


 あれは十中八九同族の犯行だと思い、周辺にいる吸血鬼について調べてみた。意識を集中させればこの国にいる、吸血鬼全員の何となくの居場所くらいは把握出来る。


 そして調べてみると、この近くに俺の婚約者レイラ コリンズが居る事が分かった。どうやら死んでなかったらしい。あの女が犯人の可能性は充分にある。確か獲物の血を吸い尽くす変なプライドがあったし、レイラなら人を殺しても何とも思わないだろう。


 レイラは元祖ジョージと似たザ・吸血鬼で豪胆な性格の女だ。相手の物は全て自分の物、世界は自分中心で回ってるって考えの持ち主だ。流石の元祖ジョージも、レイラには苦手意識を持ってたらしい。


 そして恐ろしい事に、その性格に見合った能力を持つ強力な吸血鬼で、美しい見た目とある種のカリスマ性に惹かれ、レイラには沢山の部下がいた。……いやあれは信奉者と例えた方が正確だ。


 博物館に居た時に何度か調べて、この国に居なかったからてっきり死んだと思ってたけど、国を出てただけだったのか?


 俺に婚約者がいる事を知られたくなくて蒼には黙ってた。けど吸血鬼の事を知ってれば、蒼自身多少は用心出来たよな? こんな思いをするなら話しておくべきだった……。


 調べてみればテプンルバー通り周辺には、吸血鬼がうじゃうじゃいるじゃないか。そしてレイラの存在感は相変わらず強かったけど、変な感じがしたのも気になる。吸血鬼であって吸血鬼じゃないような……。兎に角嫌な感じがする。


 レイラが居るなら信奉者も居るはず。俺としてはレイラはもちろん、同族も好きじゃないし、会いたく無い。周りからあんな奴等と同族だって括られるのは正直嫌でしかないけど、ダリブン大学から俺が消えた直後に事件は起きてるんだ。フィンリーは俺が犯人もしくは、犯人グループの一人だと思ってるはず。


 何より一番嫌なのは、人間の蒼に吸血鬼を判別する事は不可能だって事だ。俺でさえ街中を歩いてて、今すれ違った相手が吸血鬼かなんて、意識を集中させないと分からない。もし蒼が吸血鬼に会ってたら……ああっ、考えたくない!


 どうにか大学の前に着いた。かなり薄くなってるけど蒼の匂いがする。大学から出てだいぶ経ってるようだ。参ったな……。


 普通なら匂いで足跡を辿れるけど、いかんせんテプンルバー通りは人が多すぎる。色々な匂いが混ざり合ったここで、蒼の控えめな匂いを辿るのは無理だ。


 他に何か手がかりは無いか。普通に生活する上では不便だから、ある程度鈍らせてる感覚を目いっぱいまで研ぎ澄ませてみる。……ん? この匂いはトーマスだ!


 アイツなら蒼の行き先について何か知ってるかもしれない。藁にも縋る思いでトーマスの微かに残ったコロンの匂いを辿った。



 

 トーマスのコロンの匂いを辿ってカフェに辿り着いた。何と家から歩いて一分もかからない場所の。灯台下暗しとはこの事か……。


 カフェに入り、行き着いた先はボックス席だった。けどそこにトーマスの姿は無く、疲れた様子の蒼と、トーマスのコロンの匂いをうっすら漂わせた、見知らぬ人間の若い女――ツインテールのゆるふわ系ファッションだ――が向かい合って座っていた。


「蒼っ!」


「あっ……約束の時間を大幅に過ぎてしまってごめんなさい。顔色が悪いけど、もしかしてそんなに心配してくれてた?」


「当たり前だろ!」


「そ、そう。好きなの頼んで良いから、とりあえず座って」


 蒼が無事で本当に良かった。言われた通り蒼の隣に腰を下ろし、ホットチョコレートを注文した。

お読みくださりありがとうございます。

次回、第27話は修羅場の予感……? 6/1、00:15頃投稿予定です。

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