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泣き虫吸血鬼は最後の恋をする〜ミイラを拾って水(血)をやったら超絶イケメンになりました〜  作者: 甲野 莉絵


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21話 デート気分……どころじゃない!

 蒼は凄い。ずらりと並んだ中古の服を前に優柔不断な俺を見てテキパキと選んでくれた。トーマスのみたいな厨二チックなのを選ばれたらどうしようと、ハラハラしたけど大丈夫そう。


 カジュアル系とトラッド系を中心に、洗い替えも余裕を持たせて選んでくれたみたいだから、着回しもしやすそうだ。


 蒼が服を選んでくれてる間、俺も靴を見たり適当に店内をぷらぷらしてみる。ん? これは――。


「蒼っ! これ見て!!」


「ああー、uvカットTシャツね。いいんじゃない? あっ、サイズは合うの?」


 試着室を借りてサイズ確認のため、他にも色々と着てみた。おお〜どれも似合うんじゃないか? スマホで見たあのモデル達にも負けてない気がする。蒼はセンスが良いな。


 これから直ぐに寒くなるからって、蒼が紺色のPコートも選んでくれた。俺は人間と比べて、ほとんど暑さ寒さを感じないから、本当は必要無いけど凄く嬉しい。周りの人と同じようにファッションで季節を感じれる。

 

 会計の時、おまけでサングラスをもらえた。試着した服はそのままで、元々着てた物を他の買った物と一緒に袋に入れてもらう。そう言えば店員さんは何も突っ込んで来なかったけど、大丈夫か? 俺、サイズの合わない服を着る(へき)がある奴だと思われないよな?


 それから何軒か古着屋をハシゴし、少し離れた大型のアパレル店へ立ち寄った。流石に靴下と下着は、新品が良いからな。


「ほら早く選ばないと、博物館の中をほとんど見ないで閉館しちゃうわよ」


 その手があったか! うーんでも、靴下とか下着とか、どれでもいいから本当に悩んじゃうな。


 そうして売り場の間を行ったり来たりしてると、見兼ねた蒼が服と同じようにテキパキと選んでくれた。


「もう、貴方が中々決めないから博物館の閉館時間を過ぎてしまったじゃない。まあ良いわ、また日を改めて行きましょうね」


「う、うん」


 結局別日に回るのか……。こうなったら覚悟を決めて、きっちり蒼に付き合おう。


 店を出たその時、かなり遠くを歩くフィンリーが見えた。初めは博物館への恐怖が見せる幻かと思ったけど、確実に居る。まだ俺達に気付いていないみたいだけど、人混みの中近付いて来ていた。


「フィ、フィンリーだっ!」


「ええー?」


 訝しむ蒼を物陰に引っ張ってフィンリーを指さす。


「ほらっ、だいぶ離れてるけど本当に居るんだ。気付かれる前に迂回しよう。いや〜夜目が効く吸血鬼で良かった」


「はぁ? 夜目が効く吸血鬼だから狙われているんじゃないの?」


 た、確かに……。ぐうの音も出ないな。



 *



「ねえ、どうしたの? 眉間に皺なんか寄せて」


「あ、ああ……」


 上の空になってたけど……そうだ、今は食事の最中だった。茶碗と箸を置き、眉間をもみほぐす。

 

 この家に来てからの日々が楽し過ぎて緊張感が緩んでたけど、フィンリーを見て一気に引き締まった。ダリブン大学から消えた俺が、ここで息を潜めてるなんてバレたら洒落にならないぞ。これ以上蒼に迷惑をかけられない。


「な、何よ……人の顔をじっと見て。もしかして私の顔に何か付いているの?」


 蒼はご飯粒でも付いてると勘違いしたのか、慌てたように指先で口元に触れる。フィンリーの事とかは言い難くて、何日か前に蒼から言われた事をそのまま返した。嘘じゃないし。


「うん、形の良い目と鼻と口が」

 

「……へぇ、そう。貴方もトムと同じように、家の中でもメイクしろと言いたいのね?」


「へっ、何でそうなるんだ? 蒼の肌は綺麗だし、目はぱっちりしてて、そのままで充分可愛いぞ。化粧をした事が無い男の意見としては、確かに可愛くしてて欲しいとも思うよ。でも家の中でまで化粧すんのって大変じゃないのか? それに――」


 腰を浮かせ、蒼の肩から艶やかな黒髪を一房手に取った。


「うん、やっぱり。蒼の髪は手触りが良くて、良い匂いがする」


 たぶんシャンプーなんだろう。石鹸と、上品で甘さ控えめの百合を合わせたような香りだ。俺は百合の甘ったるい強烈な匂いが苦手だけど、蒼の髪からほのかに香るこの匂いは好きだ。

 

「そ、そう。食事の途中だけど、これ忘れないうちに渡しておくわ。おだてても減額はしないから」


 蒼がポケットから紙を取り出した。……俺の借金メモだ。買った物と金額が項目を分けて、事細かに書かれてる。


 これはマズイ、どうにかしないと……。あの後日用品も買い揃えたから、働いてない身としては結構な額になってる。考えてみればここに置いてもらってるんだから最低限、部屋代と食費も納めなきゃ。

 

 フィンリーに見つかるリスクも高まるけど、仕事を探すしかなさそうだ。家宝の赤い宝石が付いたブローチを換金するって手もあるけど、足がつきそうだからな。このままじゃ本当に最低なヒモ野郎になってしまう。後々株で稼ぐにしても先立つ物が必要だ。


 だけど一番の問題は俺に戸籍がない事だろう。身分を証明出来なければ、銀行口座すら作れない。ケリー伯爵としてなら出来るかもしれないけど、現実的に考えて論外だ。いきなり問題にぶつかったぞ……。


 どこかに無いかな、俺みたいな怪しい奴でもOKなくらい個人確認がガバガバで、夕方以降に働ける人目に付かない都合の良い仕事って。

お読みくださりありがとうございます。

次回、第22話は蒼に素っ裸を見られたり、大家さからランチに誘われたりと主人公のドキドキが止まりません。しかも気難しい大家さんと主人公との相性は最悪で……? 5/30、03:10頃投稿予定です。

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