20話 デート気分
「なあ、買い物って何処行くんだ?」
住宅街を突っ切りながら、蒼に尋ねた。色々な家から夕飯の支度をする匂いが漂ってくる。
「テプンルバー通り」
やっぱり、聞いといて良かった。
「グフラトンストリートにしないか? テプンルバー通りより、ほんの少し離れてるけどさ」
「三日前から私のスマホでちょくちょく何かを調べていると思ったら。そう高級な服をご所望なのね? 馬鹿な事言わないで、貴方の服一式揃えなくちゃならないのよ? 後で返してもらうにしても、私のお財布は痛手を受けるの」
違う、高い服が欲しいんじゃない。これじゃまるでヒモ男みたいじゃないか。俺はただ、グフラトンストリートの方がデートっぽいと思っただけだ。
「そ、そんなんじゃない……」
「古着屋だって探せば意外と良い物が揃っているんだから。ブティックになんて行かないからね」
あの女がうろついてそうな場所なんて嫌だぁ〜。テプンルバー通りが近くにあるのは本当らしく、少しずつ近付いてるのが分かる。道は石畳になり、民家が減ってパブがちらほら増えてきた。あぁ〜ニンニク臭い。
「……だけどさ、テプンルバー通りって例の遺体が発見された場所だろ? パブとかもいっぱいあるみたいだし、わざわざそんな場所へ行くなんて危ないよ。まず単純に嫌じゃないか?」
「言われてみれば確かに。それならテプンルバー通りは空いているんじゃない? 今が狙い目よ。大丈夫、ササッと行って買い物すれば。あれだけ大々的に報道されれば犯人も警戒して、暫くは動こうと思わないでしょ? おまけに警察がパトロールを強化しているみたい」
すれ違った警察官を見ながら蒼はそう言った。す、すごい暴論だ。ヤバい、論破されそう。でもテプンルバー通りが見えるくらいの場所にいる今が、引き返す最後のチャンスなんだ。俺だって負けないぞ!
「この先は危険な可能性が高い事に変わりない。わざわざそんな危ない場所に自ら行く事はないだろ? 俺は蒼の身が心配なんだ」
蒼の肩に手を置く。どうだ、イケメンによる心配の眼差し攻撃は! ……ダメだ全く効いてない、スタスタ先へ歩いて行ってしまった。サンダルに、こんな薄着で腹が見える変な格好じゃ逆効果か。予想はしてたけど蒼は手強い、ちょっとへこむな。
ああ〜、遂にテプンルバー通りに着いてしまった。古い街並みを感じさせる店も多くて、陽気な笑い声や音楽があちこちから聞こえた。石畳にぼんやりと映る街頭の光と、店々の明かりが相まって幻想的でもある。普通に来てたら楽しめそうだ。でもこの人混みの中に……気を引き締めなくちゃ。
「何をぼさっと突っ立っているの? 行くわよ」
「待ってくれ〜」
ずんずん先へ進んで行く蒼を小走りで追った。この時間なのに既に出来上がってるのか、ヨタヨタと千鳥足で歩く男や、楽しそうに肩を組んで歌う男達を避ける。それなのに何が楽しいのかヘラヘラ笑い、俺をじっと見つめながら近寄って来た。
えっ、えっ、俺に何の用だ!? うわっ、酒臭っ!! あっち行ってくれ! あっち行けっ!!
回れ右して店へ戻って行く酔っ払いの背中を見てると、少し離れた場所で蒼が手を振った。
「何をしているのー? 置いていくわよー!」
「あっ、待ってくれよ〜」
慌てて駆け寄ると蒼がボソッと呟く。
「もう情け無いわね……守ってくれるんじゃないの?」
「そ、そりゃ守るよ!! 何があっても守る。……けど俺はフィンリーに狙われてるから巻き込んじゃうかも」
「その時はその時よ。逃げるしかないんじゃない?貴方の足ならフィンリーさんに負けないでしょ?」
「そうだけど、フィンリーは銃を持ってる可能性がある。銀の弾なんて撃たれたら死にはしないだろうけど、俺だって痛いんだ。それに目立ちまくるだろうから、俺も蒼も人前を歩けなくなるんだぞ」
「えっ、待って。私を連れて逃げるつもりだったの!? そう言う時は普通、私を捨ててひとりで逃げるでしょ?」
「蒼を置いて逃げるなんて出来ないよ!」
思わず叫んだ。……あ、ヤバい。今何処にいるのかを忘れてた。
「兄ちゃんやるねぇ、ヒューヒュー」
「おっ、愛の逃避行か?」
「あたしも連れてってー!」
「ヨッ、色男ー!」
「わしも、もう少し若ければなぁ〜」
は、恥ずかしさで爆発しそうだ……。「ゲームの話ですから」と弁明するのでいっぱいいっぱいだった。
お読みくださりありがとうございます。
次回、第21話では主人公がヴァンパイアハンターのフィンリーを見つけてしまいます。横に蒼が居る状況で主人公はどのように動くのか?
5/29、23:30頃投稿予定です。




