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泣き虫吸血鬼は最後の恋をする〜ミイラを拾って水(血)をやったら超絶イケメンになりました〜  作者: 甲野 莉絵


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15話 朝食

「何? くすぐった事をまだ怒っているの?」


 俯き黙々と朝食を食べる俺に蒼が声を掛けた。


「……違うよ」


 確かにあんな風に笑いたかった訳じゃないけど、おかげで吹っ切れた。でも腹が勝手にあのくすぐったさを思い出すせいで、時々だらしない表情になるんだ。こんな顔を蒼に見られたくない。


 机の下で足をつねってみてもあまり効果は無いし、さっきから蒼の視線が痛い。朝食を食べ進める間、ずっと見られてると流石に気になる。


「……俺の顔に何か付いてる?」


「ええ、形の良い目と鼻と口が」


 危うく飲んでた味噌汁で咽せそうになった。


「貴方、蝙蝠だけじゃなく別人にも変身出来たのね。おまけに声まで良くなってるし」


「い、いや、これが本当の姿なんだ。昨日までまだミイラの状態が残ってたからさ」


 蒼は「ふーん」とだけ言うと、朝食を口に入れる合間合間に俺の顔を見つめた。好きな子に見つめられて嬉しいけど、チキンな心臓がバクバクする。美味しい食事なはずなのに味を感じられない。


 もしかして蒼は面食いなのか? ……ヤバい、気を抜くと直ぐに頬が緩みそうになる。


 五五〇年前は表情を動かさないよう意識をしてた。だけどミイラになってからは物理的に表情が動かなくなってたから、すっかりコントロールが出来なくなってる。兎に角、だらしない表情にだけはならないよう、気を付けないと。


 気を取り直して俺も蒼の顔を見つめてみた。前から可愛いと思ってたけど、今朝は一層輝いて見える。

 

 ぷっくりした小さな唇、もぐもぐ動くほんのりピンク色の頬、鼻は高くないけど丸みを帯びてて形が良い。そして賢そうな印象を受ける瞳からは、好奇心の色が見て取れる。


 下ろした髪にまだ化粧していない顔は、蒼を少し幼く見せた。トーマスもこのあどけない姿を見てたのだろうか……?


 あ、目が合った。ウインクなんてしてみたら蒼はどんな反応をするんだろう? ダ、ダメだ恥ずかしい! 口から心臓が飛び出そうになって思わず目を逸らす。うぅ、三秒もたなかったな……。


 胸がザワザワするし、相変わらず蒼からの視線が痛い。

 

「な、なあ、本当に俺があの部屋を使って良いのか? 片付けといてなんだけど、トーマスが戻って来――あっ、ごめん……」


 居た堪れなくて思わず口からトーマスの名が溢れた。蒼は聞かれたくないだろうから言わないようにしてたのに。


「……どうして貴方がトムを知っているの?」


 蒼の訝しむような視線を受け、慌てて説明した。


「家中トーマスが付けてるコロンの匂いがする。この服もそうだ。あっ、あっ、吸血鬼は五感が鋭いから……」


 は、恥ずかしい……。これだと俺が変態みたいじゃないか。


「そんなに慌てなくても大丈夫よ。確かにトムのコロンの匂いは少しキツイかもね」


 蒼がクスクス笑ってる。俺そんなに慌ててたのか?


「でもトムは二週間前に出ていったの。ところでいつ知ったの?」


 蒼の話によると、この小さな一軒家はシェアハウスで、元々トーマスとはただのシェアメイトの関係だったそうだ。そこから恋人になったと言う訳か。くぅー羨ましい!


 そう言えば脱衣所に、アイツの物と思しき歯ブラシやら髭剃りがあったな。やっぱまだこの家に来るつもりでいるって事だよな? 大学でナンパしてた癖にけしからん!


「博物館から大学へ着いた日、トマトジュースを掛けられたんだ!」


 思い出すのもムカつく! この恨みは忘れたくても忘れられない。今でも青臭い匂い……はもうしないけど、コロン臭い服を着てるんだ。だけど……どれだけ恨めしくてもアイツは蒼の元カレだ。あまり悪口は言えないな。


「へえ、確かトムから助手のアルバイトを交代してほしいって電話がかかって来たのも、その日ね」


「うん、蒼は騙されてるんだと思う。だってトーマスは俺にトマトジュースを掛けた後、『大丈夫、アオイがいる』とか言ってたから」


「そう、電話では『助手のアルバイトを受けてしまったけど思った以上に忙しそうだ。これでは僕自身が所属する研究室に割く時間が無くなりそうだから君に譲るよ。文化財と関われる貴重な機会だ、慰謝料代わりだとでも思ってくれ』とかキザったらしく言っていたわ……」


 蒼はトーマスのモノマネをしながらため息を吐く。意外と似てるな。


「慰謝料は下手したら蒼が請求されちゃうのか?」


「上手い事言うわね。……じゃあ何? 薄々変な話だとは思っていたけど、トムは文化財を汚した罪を私に押し付けようとしてたって事?」


「うん……あんな奴、一生靴下が湿ってる呪いにでも掛かれば良いんだ」


「……靴下が湿る呪い?」


 あっ、食事中に靴下の話は良くなかったか?


「それじゃあ駄目。トムは、勝手に浮気して『アオイは愛想が無いから捨てた』とか周りに言いふらしたのよ。その挙げ句、私を嵌めようとしたの。靴までびっちょびちょに濡れている呪いじゃないと物足りない! でも片足だけにしてあげる」


 蒼は言葉を切り、喉を鳴らして味噌汁を飲み干す。どんなに悔しくても、元カレには優しくなるんだな。そう思ったが、蒼は茶碗をテーブルに勢いよく置きニヤリと笑った。


「両足濡れていたら、靴と靴下を変えれば良いだけでしょ? そんなの生優しい、ちぐはぐな足元で公衆の面前を歩いてクスクス笑われれば良いのよ!」


 鼻息も荒くそう言い切った蒼に惜しみの無い拍手を送る。二人で陰湿な想像をして笑ってると、いつの間にか気分が晴れて、蒼と少しだけ打ち解けられた気がした。

お読みくださりありがとうございます。

次回、第16話で世間を震撼させる事件のニュースを見ます。しかも吸血鬼の犯行に見える内容で……?

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