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泣き虫吸血鬼は最後の恋をする〜ミイラを拾って水(血)をやったら超絶イケメンになりました〜  作者: 甲野 莉絵


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16話 ニュース

 夕食後、蒼が洗い物をしながら横にいる俺を見上げた。


「ねえ、近いうちに出かけない?」


 洗い上がった食器を拭いてた俺の手が止まる。

 

「……へっ?」


 出かける……と言う事は蒼と一緒に街中を歩く!? ま、まさかデートのお誘いか? ああ、元の姿に戻れて良かった!


 ……いや待てよ、蒼にとって俺はただの居候、これはデートじゃない。静まれ、胸の高鳴り。


「出かけるって何処へ?」


「貴方の服を買いに。今着ている物は明らかにサイズが合っていなくて、みっともないでしょ? ここに住むつもりなら、大家さんに挨拶をしてもらわないと」


「外に出ないようにするし、どうしてもな時は夜中だけにするから。それでもダメか?」


「貴方のその見た目は危険よ。うっかり女の人に見られたら絶対に噂が広がるわ。そしたら私が家を追い出されかねないの。大家さんにアポイントを取っておくから、その時に着る物を買いましょう。あ、もちろん買い物分は、しっかりつけておくから」


「……分かった」


「それから、買い物が終わったら県立考古学博物館へ行きたいの。貴方と肖像画を見比べてみたいし、貴方も自分がどんな場所で展示されていたか気にならない?」


 フィンリーがいる場所なんて絶対に行きたくない! ブンブン首を振る。


「大丈夫、髪色も変わっているし誰も文化財のミイラが、その辺を歩いているとは思わないでしょ? お願い、貴方がどんな場所で展示されていたのか興味があるの」


 俺の事に興味が? ……いやいや、そうだとしてもやっぱり博物館には近付きたくない。でも居候の身としてここまで言われると、行きたくないとは言いにくいな。


「……蒼が俺の髪の毛を切ってくれたら、博物館へ一緒に行く。鏡にうっすらしか映らないから床屋には行けないんだ」


「確かに髪型が変われば印象も変わるか。分かった、明日の朝家を出る前に切ってあげる。貴方も早く起きてね」


「分かった」

 

 頷くと、蒼が俺をガン見し始めた。


「え、えっと……どうした?」


「頭の形とパーツの位置を把握しているの。貴方って本当に完璧な造形をしているから、ヘアカットの失敗は許されないと思って」


 うぅ……何か、何か気をそらせられる物は無いか?


「テレビつけるぞ!」


 電源を入れ、リモコンでチャンネルを変える。バラエティ番組、全国ニュース、通販番組、ローカルニュース。


 どうやら一〇月下旬の祝日から三一日まで、この街の至る所でハロウィンのイベントをやるらしい。そこで開催される仮装コンテストの出場者の受け付けが始まったってニュースだな。


 去年の映像みたいだけど本格的だな。その日なら俺が出歩いててもバレなさそうだ。って言うか同族も居たりして。


 日本だと渋谷の騒ぎがよくニュースになってたけど、ここは本場だからイベント自体こだわりが深そう。良いな〜、蒼と行ってみたいな。


[続いてのニュースです。テプンルバー通りで男性の遺体が発見されました。発見された遺体はカラカラに干からびた状態だったと言う事もあり、現場付近には緊張が走っ――たった今新しい情報が入って参りました! 警察の発表によりますと、遺体からは何らかの方法で、血液が抜き取られていたとの事です!]


 うっ、蒼がじっと俺を見てる。ブンブンと首を振ったけど、蒼は立ち上がりスマホを手に取った。慌ててスマホを持った蒼の手を押さえる。


「通報しないでくれ! ――あっ、ゴメン」


 手を握っただけなのに顔が熱い。こんな状況なのに。


「通報? ああ、貴方の事は疑っていないわ。生き血が苦手なんでしょ? 私がスマホを持ったのは、今のニュースをもっと調べてみようと思ったから。確かにあの辺を通った時ザワついていたし、家から割と近い場所だから気になるの。これね――」


 俺が覗き込むと、蒼は見やすいように傾けてくれた。


「なになに……『八月一一日午前四時頃、テプンルバー通りの路地で男性が倒れているとの通報があった』って私も貴方も寝ていたわね。県立考古学博物館とダリブン大学も徒歩圏内よ。『遺体の状態から見て、発見される数時間前から路上に放置されていた可能性が高い』か……。あまり新しい情報は無さそう」


 蒼はスマホを置くと俺をじっと見つめた。


「ねえ、貴方がいるなら他にも吸血鬼はいるのよね?」


「うん、いるけど……。あまり気持ちいい話じゃない。蒼は吸血鬼について詳しく知らない方が良いよ」


「ねえ、貴方に会いに来たりするの?」


 ……何だその能天気な反応は。俺の気も知らないで。


「吸血鬼の事を詳しく知ってる奴の口を、封じようと考える秘密主義の奴だって居る。俺は蒼を守りたいんだ」

 

「わ、分かったわよ」


「言っとくけど、俺は吸血鬼と仲良くしたいなんて思ってないからな。奴等は人を餌と認識する危険な存在だ」


 この体の元の持ち主――ジョージケリー伯爵の事を嫌でも思い出す。

 

 傲慢不遜、浅はかで狡猾な性格の彼は、数え切れないほどの人間を食い殺して来たらしい。


 元祖ジョージは山間にある教会群の近くの領主だった。もちろん自らの行いを悔いてるからではない。聖なる存在の側でも自分ならやって行けるし、そこにいれば吸血鬼だと思われないだろうから、一石二鳥だと考えたんだ。


 元祖ジョージの思い上がりは止まる事無く、敬虔な修道女を城に連れ込み襲おうとした。だが修道女に触れた途端に魂だけが滅せられ、その抜け殻の体に俺の魂が入ってしまったらしい。


「それにちょっとした気まぐれで仲間を増やす事だってある。兎に角、吸血鬼の事は忘れて、な? 警察に任せよう」


「それとフィンリーさんにもね」


「う、うん……」


 出来ればその名前は聞きたくなかったな。

お読みくださりありがとうございます。

次回、第17話と18話で事件の真相が明かされる!

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