11話 留守番
アオイを見送り、早速片付けに取り掛かった。……ってうわ、この部屋コロン臭い。そっか、ここはトーマスが使ってた部屋だな?
それと風の音がする。やっぱり、あのカーテンの向こうの窓、少しだけ開いてるじゃん。不用心だな。だけど窓を閉めたくても、カーテンを捲って日光を浴びながら閉めるなんて俺には無理だ。仕方ない、カーテンの動きに注意しながら片付けるしかないな。
クローゼットを開けてみると、最低限の物しかなかった。だいぶ片付いてるんだな。残ってた服やら下着やらを引っ張り出して、渡された袋に詰める。
続いてドレッサー。おっ、鏡にうっすら俺の姿が映ってる。主張が強い透明人間みたいだ。前に見た時はミイラだったり、血を垂らした怖い吸血鬼顔だったからな。
どれどれ……やっぱり想像通り外国人顔だ。目力の強いイケてる肖像画とは似ても似つかないけど。年齢は三〇代中頃くらいで、痩せてくたびれた雰囲気を醸し出している。
あれ、黒目の部分が薄いブルーグレーだ。この前は明らかに赤かったはずだけど。それに瞳孔が蛇みたいに細い訳でもない。うん、今の方が人間らしくてずっと良い! 肩に付く長さの赤い髪をどかして見ると……おっ、耳も尖ってない。普通の形だ。
顔は縦長、目と頬は落ち窪んでて、骨張った高い鼻が目立つ。肌は少し青ざめて貧血気味って感じだ。でも吸血鬼だから、もっと土気色っぽいのかと思ってたけど、普通の人間の顔だぞ! それなら――。
恐る恐る指で唇を押し上げた。うぅ……他の歯より長くて立派な牙がしっかり生えてる。期待して見なければよかった。自分の体は吸血鬼なんだって身に染みてるのに、更に痛感させられた気分だ。
……いつまでも落ち込んでちゃダメだな。そろそろ片付けに戻らなければ。鏡台やクローゼットの下も確認だ。
ゲッ! 銀の指輪発見。細身のデザインだからもしかしてアオイのか? まあ布をかませれば俺でも触れるんだけど。これはリビングのテーブルに置いておこう。
それからベッドの下を弄ると雑誌があった。ファッション誌に、漫画、それからエロ本。隠し場所は万国共通なんだな。
へー、アイツこう言う趣味してるのか。悪くないじゃん。……って腰を据えてしっかり見てる場合じゃない、これもきっちり袋に入れておかなくては。アイツがエロ本を見てたって証拠は掴んだ。むふ〜、ちょっと優越感。
その時、外から風が吹く音がしてカーテンが大きく捲れた。ヤバい! エロ本に集中してたせいで、部屋の窓が少しだけ開いてるのを忘れてた。窓の向こうにオレンジ色の夕日が見える。
「――っ!!」
うわぁぁぁ! ま、眩しいっ、死ぬっっ!!!
カーテンの動きはスローモーションのように見えるのに、日光を浴びたショックで体が動かない。でも思ったほど死への恐怖は無かった。だって最期に綺麗な夕日を見れたんだ、俺にとっては良い死に方なのかもしれない……。
腕から灰になって崩れて落ち――あれ? 俺、生きてる? 確かに日光を浴びた肌は、凄くズキズキする。それもそのはず、鏡で確認したら顔と首筋、腕が焼け爛れたみたいになってた。死なずに済んだのは夕方の光だったからか?
気付いたら風が治りカーテンが閉じてた。さっきまで焼け爛れたようだった肌も、赤く腫れたくらいになってる。うわー、目に見える速度で回復してるぞ……。
それより気になるのは、黒目の部分が真っ赤になってる事。さっきはブルーグレーだったのに。何ならちょっと光ってるし、色が血みたいで気持ち悪い。
あ、目の色に気を取られてるうちに、腫れと痛みも引いて来た。吸血鬼の治癒能力の高さには本当に舌を巻くな。弱点の日光で負った火傷がものの数分で治るんだから、こう言う時はありがたい。
「ただいま」
おっ、アオイが帰って来たぞっ! フィンリーの事とか気になる話が多過ぎて、玄関へすっ飛んで行く。
「おかえりっ!! 早かったな」
「な、何っ!?」
出迎えた俺を見てアオイが身構えて不思議なポーズをとる。どうしたんだ? 手をクロスさせて、三分で悪を倒すヒーローみたいだぞ?
「えっと……光線でも撃つのか?」
「違ーう!!」
アオイは恥ずかしいのか、下唇を噛み頬を赤くしながら腕を下ろし、指を十字の形に重ねた。ああ十字架か。比率がおかしいから全然怖くないし、むしろその表情と相まって可愛いく見える。
「また催眠術をかけようとしているんでしょ?」
催眠術? そう言えば、昨日アオイに催眠術をかけようとして失敗した時、目が赤いって言ってたな。あ、もしかしてまだ目が赤いのか? 慌てて手で目を隠す。
「催眠術じゃないよ。俺の目が赤いのは怖い?」
「べ、別に」
アオイはそれだけ言って、リビングへ上がると斜め掛けのバッグを下ろし、ジャケットを脱いだ。目が真っ赤な化け物は怖いだろうに強がってる。って、それよりも――。
「ど、どうだった……?」
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次回、第12話ではアオイが包丁でうっかり指を切ってしまいます。そこへ主人公が飛び付いて……?




