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泣き虫吸血鬼は最後の恋をする〜ミイラを拾って水(血)をやったら超絶イケメンになりました〜  作者: 甲野 莉絵


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10話 教授からの電話

「シャワーの使い方は分かる? ……って愚問ね。ここを――」


「使い方は知ってるから大丈夫!」


 早くさっぱりしたい! シャワーを最後に浴びたのっていつだろう?


「えっ、本当に大丈夫? 後から分からなくなって裸で聞きに来られても困るんだけど?」


「大丈夫!」


「それじゃあ着替えはここに置いておくから」


 アオイが脱衣室から出て直ぐに変身を解いてバスールームに入った。震える手をシャワーのレバーに伸ばす。これは力が入らないからじゃない、期待と小さな不安でだ。


 五〇〇ウン年前は水洗技術は勿論だけど、綺麗な水も手に入りにくくて……。だから偶に水浴びをして、普段は濡らした布で体を拭くくらいしか出来なかった。


 いきなり沢山水を出してダメだったら嫌だから、ほんのちょっとから始めよう。壁に付いたシャワーヘッドから細かい水が流れ出る。おお〜これだよ、これ。もうちょっと水を出しても大丈夫そうだな。


 ……あ、少し怖い。でも水圧が弱くてもシャワーが浴びれたぞ! それから頭と体を二回づつ洗った。フッ、今日はこの辺にしといてやろう。水よ、いつまでも俺がお前を怖がってると思うなよ!


 それからモゾモゾとトーマスの臭い服に着替える。うぅ……細身な服だったから普通に着れると思ったけど、身長は俺の方が高いから丈が短いのに、ヒョロヒョロなせいで幅が余って妙な感じだ。くそー、なんだか負けた気分。


 リビングに戻るとアオイはソファーで紅茶を片手に小説を読んでた。何々『ドラキュラ』……。うん、見なかった事にしよう。


「シャワー浴びれた。水に勝ったぞ!」


「はいはい、やっぱり服のサイズは合わなかったか。でもさっぱりしたみたいで良かった」


 アオイは読んでた本を閉じてテーブルに置くと、小さく笑った。ずっとキツイ表情だったけど、笑うと印象が柔らかくなってますます可愛く見える。


「ありがとう」


「べ、別にあなたのためじゃないわ。全裸の汚い状態で家にいて欲しくないからよ。とりあえず座っ――」


 アオイの声を遮るようにスマホが鳴った。ディスプレイに表示された名前を見て表情を強張せ、小さく息を整えてからアオイは電話を取る。


「はい佐藤です。えっ!? 無くなった? あのミイラがですか?」


 アオイが大袈裟に驚いたふりをしながらちらっと俺を見る。電話がかかって来ただけでこんなに不安になるなんて。


「今ですか? 家に居ます。……はい分かりました。あっ、あの! 私からも、教授にお話ししておきたい事がありまして……。はい、それでは至急向かいます」


 電話を切りスマホをテーブルに置いて大きく息を吐くアオイを、恐る恐る見つめながら尋ねた。


「……今のって大学から? 俺の事だよな?」

 

「ええ」

 

 ヒェッッ……。大学なら何処かに監視カメラがあるはずだよな? もし研究室の中にあったら……。


「生きてるってバレた? それにアオイを襲う姿が監視カメラにバッチリ写ってる……?」


「…………一緒に出頭しましょう! そうすれば罪は軽く済むはず」


「い、嫌だっ! フィンリーに退治されちゃう」


 アオイの為にはその方が良いって分かってる。けど俺はそんな奇特な性格ではない。それに……言葉のキャッチボールが出来る。ただそれだけでこんなにも心が躍るなんて。もう平穏な展示物ライフを望むなんて出来そうに無い。


 アオイに頼んでばかりで情け無いけど、向き直って頭を下げた。


「俺は長い間ずっと孤独だった。人間とは寿命が違うから仕方ない事だって諦めてたんだ。でもアオイと出会って人と関わる楽しさを思い出せたんだよ。お願いだフィンリーに、警察に言わないで。出来たらここに置いてほしい」


 そうは言っても望みは薄いだろうな……。だからここで断られたとしても、俺への心象が悪くならないよう無理強いはしない。

 

 一瞬実力行使も考えた。どういう訳かアオイに催眠術は効かないけど、力で捻じ伏せる事は簡単なはず。だけどそんな事をしたら俺は本当の化け物になってしまう。それに間違い無く危険な吸血鬼として追われるから、逃げるか戦うしかなくなる。


 ああ……俺が吸血鬼なんかじゃなければ、こんな思いをしないで済んだのに。

 

 いや、かなり丈夫なこの体は人間でいるよりむしろ良いんだろう。一人でも充分生きていける。普通に生きて友達とかを作って、恋なんかしちゃったりして寿命が来たら死ぬ、そんな事を望んだら贅沢なんだよな。


 でも本心は……出来る事ならアオイのところに置いて欲しいな。ひとりは寂しいから。さっきまでのあの感じが、俺の望んでた幸せに近い気がする。


 頭を下げたままギュッと目を瞑ってると、アオイの小さな笑い声が聞こえた。恐る恐る顔を上げてみると、アオイが立ち上がり、外出の準備を整え始めた。


「分かったわ。とりあえず適当に話を合わせてくる。貴方は……すぐそこの部屋に不用品があるんだけど、それを片付けて待っていて」

お読みくださりありがとうございます。

次回、第11話で主人公は弱点の日光を浴びてしまいます。そこへアオイが帰って来て……?

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