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9話 【急募】エタりかけの世界を救うデバッグ方法

 パキィン、と弾けるような音を立て、俺達の周囲の空間が砕け散る。

 正面にそびえていた『天界の塔』は 砕けた景色とともに消え去った。最後に一枚、時空の膜を隔ててそこに広がっていたのは、白亜の玉座でもなく 神々しい神殿でもなかった。

 散乱したコンビニ弁当の空き殻。積み上げられたエナジードリンクの缶。

 ……そして、青白いモニターに照らし出された、ジャージ姿の貧相な男。


「……あ、あああ、もう無理。設定矛盾した。整合性死んだ。ダメだ、もうネタ浮かばない……はい、エタります。さよーならー消去ポチー」


 背中を丸めてモニターを見つめる男の指が、俺達の世界を消し去るボタンに触れようと迫る。その瞬間、俺は次元を隔てる薄っぺらな時空の膜を蹴破り、狹苦しい四畳半の和室に突入した。


「待て!! 誰の許可を得て『プロジェクトの中止』を決定しているんだ!」


 唐突に現れた俺の声に驚き、貧相な男は椅子から転げ落ちる。ずれ落ちた瓶底眼鏡をかけ直しながら振り返る、その貧相な男こそが 俺達の世界の創造神――俺は何故か男の名を知っている――自称ペンネーム・ワナビー☆サトウだ。


「ヒィッ!? な、何だお前ら……っ! 俺の小説の登場人物が、なんで『こっち側』に来てるんだよ!? ……そうか、わかったぞ! 俺は寝落ちしたんだな!? これは夢だ夢……痛ぇ!!」


 錯乱し、ワナビー☆サトウは思いっきり自分の頬を叩いている。

 そんな創造主を無表情に見つめながら、ミコトが残酷な真実を告げた。


「アルマさん、創造神様の情報がアップデートされ、正体が判明しました。……『ワナビー☆サトウ』様は『現代日本のサラリーマン』ではなく、『底辺Web小説作家』。しかも収入なしの『実質無職』です。さらに言うと、現在の彼のメンタル星0.5。叩けばすぐに折れます」


 ミコトが真実を公開する度に、俺の中にも何かが突き刺さる。


「無職……!? バカな! 俺に『現代日本のエリートサラリーマン』の記憶を与えた創造神が、無職なんて……そんなはずがない!!」


 俺の中には、『現代日本』での輝かしい戦績が、確かにあるというのに。


「俺の中には、毎日 満員の装甲電車に乗って 会社という名の戦場へ火炎放射器を携えて出勤した記憶も、都知事が空を飛び ビームを放って 救援に駆けつけるも撃墜されてしまった記憶も、総理がサイコキネシスで滅びの法案を捻じ曲げた記憶さえ、あるというのに!! そんな地獄の記憶を創り出せる奴が、エリートサラリーマンではなかったなどと……ただの無職なわけがあるか!」


 ワナビー☆サトウが、両手で顔を覆う。その下から出てくるくぐもった声は、かすかに震えていた。


「やめて……それは……それは、俺が中学生の頃、ノリノリで書いてた『新・マッドマックス・サラリーマン』の設定なんだ……。PVを稼ぎたくて 今流行りの転生ファンタジーものを書いてみたけど、どうしても あの黒歴史が、俺の中から消えてくれなかったんだ……!! とっとと忘れてしまいたいのに!!」


 その言葉に、俺の脳内で何かが弾けた。

 黒歴史。俺の人生プロジェクトは、忘れてしまいたい失敗作の、ただの穴埋め。


「……なるほど、そういうことか」


 それでも、俺の中には炎と血しぶきの満ちた戦場で 命をかけていた『社畜』の意地が、確かに残っている。


「つまりお前は『納期』を守れず、『案件』を投げ出した担当者 というわけだな」

「え? あ、いや……何? 納期……?」

「シノ! エルヴィン! この無能な上司を、今すぐ取り押さえろ! ミコト、電脳神にアクセスして PCの制御権アカウントを奪え!!」


 シノが刀を抜き放ち、エルヴィンは植木鉢に収まるジャクションさんの顔をワナビー☆サトウへと突きつける。凄まじいほどの圧をかけていた。


「さあ神よ、設定の辻褄が合わない責任を取り、そのマウスで腹を召されよ!」

「ただ今より、兄さんの光合成パワーで、あなたのブラウザ履歴を世界中に拡散しようと思います! シークレットモードにしても無駄ですよ」

「わ、わああああ! それだけは本当にやめて!! 社会的に死んじゃう!! わかった、書くよ! すぐ書くから!!」


 ワナビー☆サトウは、涙目になりながらキーボードに手を伸ばす。

 だが、俺は勘付いていた。コイツに任せてしまっては、またろくでもない仕様変更バッドエンドを 押し付けてくるだろうことに。


「そこをどけ、ワナビー☆サトウ。……そのキーボードを俺によこせ。ミコト、制御権アカウントは俺に移ってるな?」


 ミコトは虚ろな目のまま、口元に笑みを浮かべて親指を立てている。


「『仕様書あらすじ』の書き直しは、俺がやる。これより、『再定義開始デバッグモード』だ」


 大丈夫だ。たとえ偽りのものであっても、俺の中にはまだ『エリートサラリーマン』としての記憶が存在している。前世で培った『徹夜のタイピング術』を駆使し、世界の再定義デバッグに着手した。

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