8話 ハッシュタグ・天界炎上。神にリプライを飛ばす者たち
「みんな、聞いてくれ。知っての通り、俺は『現代日本』という異世界からの転生者ではあるんだが、どうもその前世の記憶に 不審な点がいくつも出てきた。まるで何者かに、書き換えられてしまったみたいに」
俺の前世は『現代日本』の『サラリーマン』佐藤賢一。それは間違いない。
だが、前世の記憶が脳裏にフラッシュバックする度に、その光景が少しずつ変化していくような気がする。処刑を逃れたあの時に蘇った記憶は、こんなにも炎と暴力にまみれていただろうか。
「……ピロリラ。旅行安全の神『NAVITIME』様が、おいでになりました。オススメスポットとして『天界の塔』へのルートを賜りました。……ナビを開始しますか?」
ふさわしいタイミングで、ミコトに神のお告げが下る。やはり神が――何者かが、この状況を作り出しているのだ。迷ってはいられない。俺はミコトに「一番いいルートで頼む」と返した。
渋滞や入り組んだ道を避けたルートを設定し、神託を賜るミコトのナビに従って歩みを進め、俺達はついに 雲を突き抜ける巨塔『天界の塔』の麓へと到着した。きっとこの上には、俺たちに『役割』と『前世の記憶』の記憶を与えた何者か『神』がいるはずだ。
「アルマさん、周囲の空気がおかしいです。伝達の神『Twitter』様が……いえ、現在は『X』様に代替わりされてますね。……『X』様が、『シャドウバン』を連発なさっています」
虚空を見つめるミコトの瞳に、大量の『青い鳥』と『黒い斜め十字』が交互に映し出される。
――『シャドウバン』……!! 『現代日本』で、存在そのものを社会から抹消されるという、恐怖の即死魔法か!
ゴクリと喉を鳴らす俺達の前に、塔の守護者と思しき影が浮かび上がる。おそらくは、顔と同じくらい大きな乳房を持つミニスカートのメイド女子と思われるが、その全貌はノイズでぼやけ テクスチャがところどころ剥がれている。
「愚かな被造物の皆さん! 創造神さまの『設定』に従って、ここで大人しく『消去』されてくださいなのですぅ!」
塔の守護者は、さらりととんでもないことを言ってきた。
「『消去』だと? ふざけるな! 俺たちに『サービス残業』という名の人生を押し付けておいて、『退職金』もなしに、『打ち切り』にできると思うなよ!?」
俺は叫んだ。
「ミコト! 敵の弱点を『ハッシュタグ』で『拡散』しろ! 空間を『炎上』させるんだ!」
「はい! 視聴娯楽の神『ニコニコ動画』様と同期します。……おいでになりました。流れるコメント、固定しますね。……『この敵、キャラデザがテンプレ』『中ボスのくせに尺取りすぎ』『乳揺れ固くね?』『ハイライトが消えてて草』『ミコトちゃんぺろぺろ』キモ。」
ミコトが虚空をなぞると、敵の頭上に大量の『弾幕』が 物理的な質量を持って降り注いだ。
「なっ、何よこの文字の群れわぁ!? 目が……目が滑るぅ!!」
「今だ、シノ! 敵が『クソリプ』に困惑している間に、トドメを刺せ!」
「承知でござる! 拙者、この溢れる文字を全て『辞世の句』と見なし、きやつにお腹を召していただきましょうぞ! いざ! 秘剣『切腹トレンド入り』!!」
シノの刀が、炎上するコメントと共に 塔の守護者を一閃した。
「兄さんからの提案です! 『設定変更』が来る前に、直接サーバーを破壊すべしって!」
「ふぃ~(別に、言ってないけど……)」
エルヴィンも植木鉢からジャクションさんを引っこ抜き、硬直したその両足を地面へと突き立てる。起きてるんだか寝てるんだかわからないジャクションさんの咆哮とともに、大気は震え、大地には亀裂が走った。
塔が激しく揺れる。世界の『解像度』がどんどん落ちていく。
俺の脳内に、かつてないほど鮮明な『現代日本の記憶』が蘇った。
『日本のスカイツリーは 実は巨大な鉛筆で、神が原稿を書くために使っていた』んなわけあるかい。
鉛筆? スカイツリーが? ……いや待て、俺は今、何を思い出しているんだ?
「アルマさん、お気をつけください! 情報交換の神『2ちゃんねる』様が仰っています。……『もうこの世界、埋めるわ』と。 世界の消去がはじまります!!」
ミコトの叫びと同時に、空から巨大な『削除キー』が降ってきた。
俺はそれを、前世で培った『不祥事の謝罪会見』で鍛えた最強の姿勢――『ジャンピング・ドゲザ』で迎え撃つ。
「――全責任は俺が取る! だから勝手に、完結させるな!!」
全身全霊で突き上げた俺の拳が、世界の境界線を突き破った。




